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迷宮へいこう

 電子回路基板の技術がじわりじわりと広がりを見せており、一般家電品や装置類の機能付与が始まっている。

 さすがにコンピューターをつくるにはまだハードルがあるが、そう遠くない未来には実現できることであろう。

 目下の問題は――、


「電機工学の人手不足が深刻だそうよ?」

「むしろ今まで回路なしによくやってきたもんだよ」


 回路がなかったわけではないが、基礎知識なしによくもやってきたものだ。


「電機は便利だからね。みんなあの手この手で知識なしにも何とか使いこなしてきてたんでしょう」

「いやいや、設計ミスったら火事になんだろ」

「あー……実はあたしも何回かボヤ起こしてるんだよね。あははは」


 あははじゃねぇよ。


「さて、なんにしてもしばらくは実装基板が普及していくのを待つばかりだな。というわけで、その間にカラベル遺跡の探索に行こうと思う」

「カラベル遺跡……? えっと、話が繋がっているようには聞こえなかったんだけど……」

「優先度の低かった重要アイテムを回収しに行く。任意生産物枠を増やしたり、人口を増やしたりするアイテムたちだ。どんな原理かはさっぱりわからんがな」

「よくわかんないけど、とりあえず外出ね。んじゃあアルスたちを呼ぶ?」

「うん。それと、一応エリナとサラにも報告しとくか。この前無断で行ったら滅茶苦茶怒られたし」


 *


 で、結局こうなった。


「まったく、アサヒ様は油断も隙もありません!」


 エリナもついて来ることになった。


「いや、でもエリナって一般人でしょ? 守るの大変だし、できれば残っていて欲しかったんだけどなぁ」

「置いて行ったら、私が思いつく限りの爆弾を製造してエミリュラ中にばら撒いていきますので」

「そんな堂々と無差別爆破テロの予告をしなくとも……」

「誰のせいでそんなことを言わなければならないと思っているんですかまったく!」


 普段いい子なだけに、プリプリしているエリナを不覚にも可愛いと思ってしまうのだった。


「ま、いいけどさ」


 ちなみにサラからは「そうですか。では燕を傍につけておきます」とだけ言われた。

 車で移動しているのにどうやって燕の方はついてきているのだろうか。


「それでそのカラベル遺跡というのはどのあたりにあるの?」

「ペトリアの奥地かな」


 ライカやリューナの故郷であり、ミストラルバースオンラインだと中盤のあたりだ。

 あの辺りは毒沼だの毒川だの、とにかく毒だらけだった覚えがあるので、ガスマスクや防護服等も人数分用意してある。


「ってことはピゼルケンと同じくらい?」

「ああ。けど、直線距離で行く道がないから、ペトリアには頑張っても三日はかかると思う。そして、スピード出すとお前ら吐くから、ゆっくり行ってたぶん四日かな」


 案の定、何回かアルスとミリーのためにリバース休憩をはさむこととなった。

 エリナはセイラ同様わりと大丈夫そうだ。


     *


 ペトリアへと入って、俺は違和感に気付く。

 ゲームではあれほど汚い景観ばかりだったのに、今のペトリアは美しい自然で溢れ返っている。

 これは一体どうしたことなのか。


 小さな村に寄って事情を聞いてみると、


「ああ、昔この辺りでは魚人族と蜘蛛人族の争いがあってね。彼らはとにかく水にこだわっていたから、そのせいで生態系が破壊されてたんだよ。それで人が住むには難儀する場所だったんだけど、今はどちらもいなくなって、人が住むにはうってつけの豊かな土地になっているよ」


 なんて言葉が返ってきた。


「あいつらのせいかよ……」

「まあいいんじゃないの? ガスマスク使わないで済むじゃない。あれ暑いからあんま使いたくないのよね」

「たしかに毒ん中進んでくよりはいいけどさ」


 今ではあの二人もかなりの仲良しになっている。

 そのまま山道を移動して行き、しばらく進むとカラベル遺跡へと到着するのだった。


「さて、そしたら早速遺跡の探索にうつるか」

「ここはどんな遺跡なの?」

「普通だよ。獣タイプの魔物がいっぱい出てくるところで、トラップは少なめだったと思う。って言っても、俺の記憶をあんまあてにしないでくれ」


 以前行ったピゼルケンのダンバル遺跡では内部構造や階数なんかがミストラルバースオンラインとは異なっていた。

 ここがゲームのままとも限らない。


 内部へ侵入していくと、早速魔物が現れた。


「魔物だ。とりあえず応戦を――」


 ダァン、ダァン、ダァン!


 突然聞こえて来たその音に目を見開く。

 明らかに発砲音であり、自分はまだライフルを放っていない。

 何事かと音のした方を見ると、エリナが自前のライフル銃を用意してきており、敵の掃討を行っていたのだった。


「エリナ!? なんだそれは!?」

「はい? ライフル銃ですが」

「いや、それは知ってるけど、なんでんなもん持ってんだよ!」

「アサヒ様のを何度も見ておりましたので、だいたいのつくりはわかっておりました。あとは試行錯誤でつくれるようになりましたよ?」

「いや、そうじゃなくて――」

「別に私が勝手に作って私が勝手にそれを使っているだけです。アサヒ様にどうこう言われたくありません」


 ツンと言い放って、エリナはそのまま敵を掃討して先を行ってしまう。

 唖然とする俺に「だそうよ?」なんて言いながら、ミリーも懐に俺が見たことのないハンドガンを忍ばせているのをこちらにチラ見せしてきた。


 戦うのは俺の領分だと言っているのに、まさかここまで大胆なことをしてくるとは。

 彼女を呼び止めようと手を伸ばしてしまうも、戸惑ってしまう。

 これに対し、俺はどうこう言うことができない。


 顔を大きくしかめながら、後を追っていく。


「アサヒちゃん、一体何したの? あんなに怒ってるエリナちゃんなんて見たことないわよ?」

「……。彼女を突き放したのはたしかに俺だよ。でも、仕方のないことなんだ」

「あら、お姉さんにはそんな風には見えないわよ?」


 そんな風に言われてしまい、目を伏せてしまう。

 本当は良いわけないよ。

 でも、どうしようもないことなんだ。


 そのまま遺跡の探索を続けるが俺とエリナ、おまけにミリーまでもが援護してくるため、セイラとアルスは出番がほとんどなかった。


「暇だな……」

「アルスちゃんあたしといいことでもしながら行くぅ?」

「い、いや、遠慮しておく。というかセイラはいかがわしいことをしながら遺跡探索もできるのか」

「やったことはないわよ?」

「……え?」

「やったことないからやってみたいんじゃない! 未知を探求するってとっても楽しいわ! あぁ、そう考えるとアサヒちゃんともまだ一度もしたことがない。……そうだわ! アサヒちゃんと二人三脚で探索するってのでどうかしら!?」

「セイラの言う二人三脚は、たぶん人が前後にいるんじゃないか?」

「当たり前じゃなぁい。前後じゃないとさすがに難しいもの。あぁ、アサヒちゃんの前にまたがって探索。どんなに楽しいのかしらっ! お腹の辺りが熱くなってきちゃったわっ!」


 おぞましい視線を感じながら、可能な限り聞こえていないフリを続ける。


「エリナちゃーん、なんならお姉さんがアサヒちゃん盗っちゃうわよぉ~」


 なんて言うと、エリナは俺の腕をがっちり捕まえてきた。


「ダメに決まってるじゃないですかっ! これは私のですっ!」

「ちょっとエリナ、勝手にあんたのにしないでしよね」


 ミリーと二人して腕を掴んでくるものだから、身動きが上手く取れなくなってしまう。


「あの、武器がうまく構えられないんだけど……」

「アサヒ様は戦わなくていいんですっ! 私たちが戦うんですっ!」

「そうよ、アサヒはセイラの相手……じゃなくて、アルスの話し相手でもしてればいいじゃない!」

「いや、冒険中にふざけるなよ」

「「ふざけてなんてないっ!」」


 二人に怒鳴られてしまったものだから、俺は黙るしかなかった。

 やむを得ず後方で肩を竦めるアルスと他愛もない会話をすることにする。


 *


 しばらく進むと、やはり見たことのない場所へと出るのだったが――


「なんだこれはっ!?」


 思わず駆け寄ってしまう。

 石でできていた通路の壁は急にセラミック調へと変わり、暗ぼったかった遺跡の通路はLED照明によって煌々と照らされている。


「なんか、ずいぶん雰囲気変わったわね」

「どなたかが住んでいるのでしょうか?」

「いや、おかしい……」

「そりゃ変でしょ。こんな遺跡の中なんて住むには不便過ぎるわ」

「そういう意味じゃない!」


 あまりの異様な事態に思考が一瞬止まりそうになってしまう。

 ミストラルバースオンラインにおいて、ゲームの仕様上、作ることのできる技術には限界があり、現代技術の作成は不可能だった。

 一方、この世界はその限界を超えることができるのだが、最短で文明発展を進めている俺ですらLEDの製造にはまだハードルを感じている。

 創造魔法で限られた数をつくるのであれば問題ないが、量産なんてまず不可能だ。


 つまり、ここには俺以上に技術発展の理解度が高い者が存在しているということになる。


「撤退する! ここは危険だ!」


 という言葉を発し終わる前に、警報音が鳴り響く。

 俺たちがやって来た方の通路が閉じていき、アルスが走るも間に合う距離でもなく、出口が塞がれてしまった。


「くそっ、空かない」

「アサヒ様、爆弾を使われてはいかがでしょうか?」

「いや、この扉も壁も、強化セラミックだ。生半可な爆薬じゃ効果はでないと思う。あまりに威力の高い物を使うと、こちらが被害を受けたり、生き埋めになる可能性もあるし……」


 メンバーが苦い顔となるも、アルスが笑顔を向けてくる。


「先へ進もう。大丈夫だ。俺たちなら何とか切り抜けられるさ」

「……そうだな。俺が先行する。アルスがその後ろ、セイラとエリナが中衛でミリーが後衛になってくれ」

「ア、アサヒ様、私が先頭を――」

「エリナ、頼む」


 彼女の肩を持って、必死に説得する。


「今だけは非常事態なんだ。俺は戦闘のプロだ。先を行く者は最もリスクが高く、危険を伴う」

「で、ではアサヒ様が一番危険だってことじゃないですか!」

「そうだ。だから一番経験値の高い者がこなすべきなんだ」

「で、ですが――」

「お願いだエリナ。もしお前に何かあったら、俺は耐えられない」


 そう述べると、顔を背けながら素直にそれを受け入れる。


「……。私も同じ想いを持っていることを、どうか忘れないで下さい」


 なんて言いながら。


 通路を慎重に進んでいき、途中途中に用意されてあった部屋を覗いていくも、これといってトラップや魔物の類もなく。

 広間のようなところに出たところで手を挙げて全員に停止を指示する。

 何か仕掛けてくるとすればこのあたりであろう。


「先行する。何かあったら通路側から援護して欲しい」

「一人で行かれるのですか?」

「……アルス、ついてきてくれ。前衛のお前がいてくれると心強い。それと、全員このローブを被ってくれ」


 強化繊維でできているフード付きローブを渡して、二人で前へと出る。

 ゆっくりと一歩一歩広間のようなところへ展開し、ちょうど真ん中に到着した頃に違和感を覚える。

 これは――!?


「ガスマスクをつけろ!!」


 ペトリアのマップではお役御免であったが、持参しておいてよかった。

 俺の目は可視光のみならず赤外光でも物を見ることができる。

 危険性物質はほとんど見抜くことができるのだ。

 おまけに俺にガスの類は効かない。


 魔人アシュラと戦った際も、俺はVXガスを吸引し得る距離にいたが、仲間たちはともかく、俺には問題ないとわかっていた。


 幸いなことに、今噴出されているのはただの催涙ガスのようだ。


 ――と思った途端、


「アサヒ!」


 ガキィィン!!


 視界入って思考をする間もなく、俺たちと同じようにローブをまとった小柄の者が目の前にまで迫っていた。

 アルスが何とか間に入って剣で受け止めたはずなのだが、相手の武器に彼の剣が両断されてしまっている。

 光り輝くそれを目にし、俺は驚愕した。


「なっ! ヒートブレード!?」

「えっ!?」


 俺のヒートブレードという言葉に反応して、アルスの首元一歩手前に迫っていた相手の剣が止まる。

 そのままフードを脱いで、俺の顔をマジマジと覗き込んできた。

 その顔には見覚えがある。


 幾度もともに死地を潜り抜け、想いを共有した者。


「お前、サクラか?」

「アサヒッ!」


 そのまま彼女に抱きつかれるのだった。

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