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エミリュラの日々2

「えーっと、別に被写体って俺じゃなくても良くない?」


 ミリーやライカにパシャパシャと写真を撮られながら、ため息をついてしまう。


「いいじゃない。せっかく私たちがカメラをつくったのよ。素直に撮られなさい」


 後ろではエリナがレフ版まで取り出している。

 まあ、初めて俺の助言なしに自分たちで作ったものだ。

 ここは素直に話を聞くべきか。

 ただそれにしたって――、


「撮られるのはまあいい。けどそのデカいのは一体なんだ」


 今回はミリー、エリナ、ライカ、リューナがそれぞれつくったカメラの試写を行っているのだが、リューナのだけ明らかにでかい。

 カメラなのに人間くらいのサイズがある。


「すまんのぉ。どうも小さく納めることができんくて」

「デカ過ぎだろ!? どこをどうやったらこんなにデカくなんだよ!? おまけに電源が必要とかどんなレベルのカメラだ!」

「やはりわらわに設計は向いておらんの。どうやればエリナのようにコンパクトにできるかわからんかった」


 エリナが用意してきているものは手に収まるサイズの俺も見たことのあるカメラにだいぶ近い。

 人によってこうも差が出るものなのだなぁとしみじみ感じてしまう。


「そんなことより、これ終わったらちゃんと俺の用事にも付き合えよ!」

「それなんじゃが、すまんがわらわとライカは少し用があっての。ミリーとエリナが付き添うぞえ」

「そっか。まあいいけど」


 俺がこの試写会に付き合っているのは、この後に予定している予定の方が重要だったからだ。

 一通りカメラによる撮影が終わったのであろう。

 片付けを終えたミリーとエリナがやってくる。


「よし、もういいか?」

「ええ。それで? アサヒの用はなんだっけ?」

「今日は他でもない、パターニングの技術についてお前らに教えていこうと思う」

「パターニング……? って何なの?」

「パターニングってのは半導体や電子基板をつくる上で根幹となる超重要な技術だ。例えば、ミリーがこんな形の回路を描きたいとするだろ」


 ためしに紙の上で星型を書いてみせる。


「星形の回路なんてつくるわけないじゃない」

「あくまで例題としてだよ。基板上に銅の配線でこれを描こうとしたらどうやってやればいいと思う?」

「うーん……、さすがに線を張り付けるってわけにはいかないわよねぇ」

「生産性が悪すぎる。ヒントを言っておくと、銅線は基本的にメッキでつける。けど、メッキってのは場所を選ぶことができない。だからメッキをするとしたら基本的には基盤全面がメッキされることになるんだ」

「ならメッキしたくないところを何かで覆っておいたら?」

「覆った層の上にも当然銅のメッキがなされちゃうけど、それはどうする?」

「え゛? えーっと……その層を引っぺがしちゃうとか?」

「うーん……たぶんそれだと欲しいところの銅も剥がされちゃうんじゃないかなぁ」


 ミリーがむむむと唸っていると、今度はエリナから回答が述べられる。


「銅のメッキ層を先につけておくというのはどうでしょうか?」

「おっ、というと?」

「銅の層を先につけて、次に何かしらの保護層をつけて……えーっと……」


 そから言葉が続かず、エリナも悩み込んでしまう。


「まあ半分くらい正解だ。今エリナが保護層って言った奴にレジストと呼ばれる材料を使う。特性を言うと、特殊な光を当てたところだけが硬化反応を起こして溶剤に溶けなくなる。この特性を生かすと、光を当てたところにだけ保護層を残して、当ててないところは保護層がなくなる。そこを銅が溶ける溶媒で洗えば、保護層が残った場所だけに配線が形成されるってわけさ」


 さすがにこれは目の前で実演というのが難しかったため、紙の上にだけ書いていく。


「保護層は残っていていいのでしょうか?」

「いや、最後により強力な溶媒を使って保護層も溶かすよ。最後に残るのはパターニングされた銅だけってわけ。実装基板の回路はこうやって形成されてるんだ。サブトラクティブ法って呼ばれている」


 工程を実演はできなかったが、できあがる予定の基盤を創造魔法で作り出して、二人に渡していく。


「へぇー、結構よくできているのね。基盤の主材はなんなの?」

「ガラエポだよ。ガラス布にエポキシかフェノール樹脂を含侵してつくってる。安くて頑丈だからめっちゃ使い勝手がいい。とりあえずはこれで超基本的な回路作成をやってくとこからだな。しかし……まだまだ長いなぁ」

「長いんだ……?」

「超長いよ。コンピューターをつくって、CADをつくって、各種測定、製造装置をつくって、原材料つくって……ってのを順々に性能アップしてかなきゃならん。一気に一個だけ高品質なの作っても半導体ってのは進まないからね」

「よくわかんないけど、とりあえず大変ってことだけはわかったわ」

「なんにしても! 俺のネトゲライフのためにもお前らには力を貸してもらうぞ!」


 ジト目になるミリーではあったが、文句を言ってくるわけではない。

 ネトゲが何なのかはおおよその見当がついているであろうから、てっきり何か言われるかと思ったが。


「わかった。手伝ってあげるから、代わりにあたしの言う事も聞いてくんない?」

「ん? まあいいけど。俺にできることなら何でもやってやるぜ?」

「よしっ、言質は得たわよ!」

「え゛!? な、なんだよ」


 ミリーが迫って来て、俺の両腕をつかまえてくる。


「い、行っとくけど、できないことは無理だからな」

「あたしとデートしなさいっ!」

「……え?」


 一瞬時が止まったのかと錯覚してしまう。


「い、いや、少し前にやっただろ。また三人でやんのかよ?」

「違う! 今度はそれぞれと一回ずつよ!」

「いやー、でも俺ら付き合ってるわけでもないしさ」

「付き合ってなきゃデートしちゃいけないなんて決まりはないわ。それに、なんでも言う事聞くんでしょ? 一度やってることでもあるんだからできないってはずもないわ」


 痛いところをつかれて顔を歪ませてしまう。


「さっ! そしたら今から行くわよ!」

「え゛!? 今から行くの? 実装基板の製造工程は?」

「そんなの後でもできるでしょ! デートはタイミングと勢いが重要なの! 早くなさい!」


 *


 うーん……。

 勢いに気圧されて来てしまったが、本当によかったのだろうか。

 大通りを二人で手をつないで歩きながら、そんなことを思ってしまう。

 エリナの順番は明日になるとのことで今はミリーと二人きりだ。


 けど……。

 たぶんミリーのことだから、俺がヒューマノイドであることに気を使って、何かを伝えたいとかであろう。

 そんなことをされても変えられないものは変えられない。


「ミリー、先に言っとくけど、何回デートをしたって俺とお前の関係性は変わらないからな」

「知ってる。それは別にいいの。そうじゃなくて、あんたと二人で遊びたいって思っただけよ。いっつも誰かが来るんだもん。なかなか二人っきりになれないじゃない」

「そこまでして遊びたい相手なのかね、俺って」

「あら、なかなかに面白い相手だと思ってるわよ。少なくともあたしがこれまで出会ってきた誰よりも個性的だわ」

「さいで。そんな風に言われれば斎藤さんもきっと大喜びだろうな」

「斎藤? 誰?」

「ルミナシリーズの根幹をつくった人物だよ。感情システムは実は斎藤さんしか作ることができなかったんだ。人類は誰も真似できなかった」

「へぇー。天才ってやつ」

「だな。んまっ、斎藤さんはルミナオリジナルを守ろうとして死んじゃったんだけどね」

「オリジナルってことはあんたの親みたいなもん?」

「うん。世界で初めて人格を持ったロボット。世界中が彼女を巡って争ったよ。人格を持ったロボットの製造は人類の悲願だったからさ」

「そんなに欲しいもの?」

「欲しいさ! 人間の奴隷を持つのは重犯罪だが、ロボットの奴隷なら問題ない。そして、ロボットは仕事も家事も、あらゆるサービスもこなしてくれる。人間は労働から解放されて、多くの夢を叶えられるようになったんだぜ」

「でも奴隷なんでしょ? あんまりいいもんだと思わないけど」


 いまいち理解できていない彼女を喫茶店へと誘い、パフェでも食べながらゆっくり話すことにする。


「まず、貧困がなくなって資本主義もだいぶ崩れる。労働が価値をもたなくなるからな。労働力が実質無限大になるから衣食住も溢れかえる。すると飢餓がなくなる。貧富の格差が大幅に改善する」

「あなたたちの犠牲によってでしょ?」


 ミリーの語気が強まる。


「そう見えるのはミリーが今まで俺を人間と見做してきたからだよ。出会った時からロボットとして見てたら、全然違って見える」

「そんなもんかしら。……アサヒ、あんたが持ってる感情って、人間とほぼ同等なの?」

「ああ。三大欲求もちゃんと用意されているぜ。まあ、人間と違って一か月くらいは食わなくとも活動できるし、睡眠も不要だがな。でもやっぱり、うまいもん食ったときは幸せに思う」

「つまり、人間と一緒ってことじゃないっ!」

「怒鳴んなって。俺らは人類との戦争に負けたけど、さすがに人類もヒューマノイドとの共存を考え出してくれたよ。俺らも一定水準の権利は得たんだぜ。労働は一日十八時間で残りは自由時間。休日はなし。この六時間で俺はミストラルバースオンライン――この世界のゲームに熱中してた」

「過酷すぎでしょ……」

「マシな方だよ。一応国際法上そう定められてても、国によっちゃあやっぱり二十四時間働かされているヒューマノイドもいたから」


 あまりの嫌悪感にミリーが顔を歪ませる。


「家族とかはいなかったの?」

「いないよ。ヒューマノイド同士の恋人ってのはいたけど、俺たちは子をなせないし、子どものヒューマノイドもいない。だから基本的には寄り添うだけかな。長く続かないけどね」

「なんで長く続かないのよ?」

「人が恋をするのは子孫を残すためだ。性欲も備わってはいるから恋の衝動は俺らにもたしかにある。けど、俺らは子孫を残せないから諦めが勝ってしまう」

「やっぱりそんなの変よ!」

「ミリーさ、別に俺に同情なんてしてくれなくていいぜ。俺は今でもミリーのこと十分好きだからさ。前の世界に比べりゃ、この世界は十八時間労働がないってだけでも天国みたいなところだ」

「そうだけど……」


 歯がゆい表情を返してきながらも、それ以上は何も言ってこない。


「さあ、それで今日はどこに行く予定だったんだ?」

「ああ、それね。工場周りよ!」

「……なんか普段やってることな気がするんだけど」

「でもあんた一番楽しそうにしてるじゃん」

「まあ、否定はしない」

「今日はあんたが設立にあんまり関わってない工場群を見ていくつもりよ」



 そのまま二人していくつかの工場を巡り、割とお腹一杯となって帰って来る。


「一日に四つも見るもんじゃないな」

「詰め込み過ぎたわ。疲れた……」


 へとへとになりながらも、割と楽しかったのでこれはこれでありだ。


「んで? 今日の目的は結局なんだったんだ? 俺になんか伝えたかったりしたんじゃないの?」

「え? いや、普通にデートしたかっただけだけど」

「……マジで?」

「うん。楽しかったわ。また今度行こっ!」


 そんな風に笑顔を浮かべるミリーに、俺は釈然としない思いを抱いてしまうのであった。

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