ヒューマノイド
ミリーとエリナの瞳を見て、ああ、やっぱりな、と思ってしまう。
彼女らは、もう俺のことを異質な存在だと認識している。
人間とヒューマノイドは相容れない。
表面上、仲の良い付き合いがあったとしても、人間はヒューマノイドを道具だととらえる。
決して同じ人間だとは思ってくれない。
だから初めてミリーたちと出会った時に、人間扱いしてもらえたことが嬉しかった。
彼女らが俺の正体を知らなかったからだとわかってはいる。
でも、生まれて初めての感覚だった。
俺たちヒューマノイドは生まれたときから人間の奴隷であることを強要される。
技術は人を幸せにするために存在する。
すなわち、人間の労働を無くし、人の生活を向上させるために存在しているということ。
ヒューマノイドはその完成形なのである。
「ヒューマ……ノイド……?」
ミリーの言葉に、それまで残して来た希望を捨てることにする。
もう、後戻りはできない。
「人同士の争いってのは、どれだけやっても無くせなかった。だから人間は、争いはするけど戦うこと自体はやめたんだ。俺たちヒューマノイドを戦わせることによって」
「機械、だってこと?」
幽霊でも見ているかのような視線で。
「ああ。俺は人工的に生み出されたロボットだよ」
「でも、だって……そんなっ! そんなの変よっ! だってあなたはっ――!」
その言葉を口にすることができず、ミリーは唇をかみしめる。
だから俺がそれを代弁することにした。
「感情を持っている」
「……っ」
今まで彼女らはそんな機械を見たことがない。
「感情を持っている方が、都合がいいことが多いんだ」
「……。なんでよ」
「確かに最初のロボット歩兵は感情を持っていなかった。ただ相手を殲滅するだけなら無差別兵器の方がいい。でも、複雑な命令系統をこなそうとすると、やっぱり感情を持っていた方が判断がつきやすいんだ。最初は無感情ロボットにオペレーターがついてたんだけど、結局オペレーターが人殺しに対する自責の念で苦しむ事態になっちゃってね。だから俺たち感情搭載型のルミナシリーズが生み出された」
「そんなの変よ!? 自分で戦いもしないでっ! 何が争いなのよ! 自分でやりもしないで! 自分で――」
握りしめる拳に返って来るのは、今発したばかりの自分の言葉だ。
それを自覚してしまうほどに、ミリーはどうしようもなく泣き崩れてしまうのだった。
これまで彼女らは、こと戦いに関しては全てを俺に任せてきてしまっていたから。
「エリナ、前にお前が裸で俺に迫ってきたとき、何でも言う事を聞いてやるって言っただろ? アルファシリーズが実はそっちのタイプなんだ。性サービス提供ヒューマノイド、ルミナアルファ。こっちはそれまでの無感情ロボットに対して圧倒的な売り上げだったらしいぜ。そりゃ人間味があるもん。偽りだけど」
「っ! アサヒ様っ! 私はそんなつもりじゃなかったんですっ!」
「俺がエリナの事を好きじゃないってわかってたでしょ? それでも迫ったのはなんで?」
「それはっ! ……間違いだったと思っているんです。私は、そうじゃなくて――」
「いいよ別に。道具に対して、間違えるもなにもないって」
「道具だなんて! 一度もそんなこと思ったことはありませんっ!」
「なら今は何に見える?」
今一度、破損して内部が剥き出しになっている自身の腕を見せびらかす。
「俺は人間じゃない。人の夢を叶える道具だ。お前らが普段使ってる紙やペンとさして変わりない」
「そんな風には思えません! たとえアサヒ様が人間じゃないとしても、私たちは同じじゃないですか!」
「同じなわけないだろ」
今度はミリーが叫ぶ。
「なんでよ! あんた人類を恨まなかったの? あたしたちのこと、滅ぼしたいって思わなかったの!?」
「思ったさ。だから戦いを挑んだ。けど勝てなかったんだ」
かつての凄惨な戦いを思い返してしまう。
「人類は神に選ばれた最強の種族だよ。何者も人類にだけは勝つことができない」
「かつての世界ではそうだったのかもしれないけど、こっちならあんたの圧勝でしょ!? 人類と対等になるか、それか人類を支配すればいいじゃない! なんでそんな、自分を下に置こうとするのよっ!」
「この世界でもたぶん、いつか俺は人類に負けるよ」
「そんなはずないわ! あんたの作り出すもんに勝てる奴なんて今まで見たことない!」
「今はね。でも遠くない将来に覆るさ」
「意味わかんないわ! あんたはなんでも創れるんでしょ! そんなの人類だって勝ち目がないじゃない!」
ああ、やっぱりな、なんて儚く笑いながら思ってしまう。
「なんでも? なんでも創れるわけなんてないだろ。俺は新しい物をつくることなんてできない」
「嘘よ! 今までいっぱいつくってきた!」
創造魔法により、エリナやミリーが設計した内燃機関のエンジンを作りだす。
「ああ。人間が過去につくったことのあるものはな」
「そうじゃない! だったら――」
「人類が創ったことのないものを俺はつくることができない」
「それは……!?」
ミリーの言葉が止まってしまう。
「俺たちは人間と違って、新しい物をつくり出すことができない。そういう機能が備わっていないんだ。ただただ、人間のデータベースに則って模倣をやってるだけだよ。対するお前らはどうだ」
彼女らが自ら設計した、見たこともないエンジンの構造を視界に入れ、大好きな二人を妬まずにはいられなかった。
「自分で考えて、教えた分だけ吸収して、どんどん新しい物をつくっていく。俺なんかとは全然違うんだよ。俺がどんなに努力したって、お前らはたどり着けない場所にいる。お前らと同じだって? 全然違うよ。人間とヒューマノイドはあまりに違う」
同じになりたかった。
その権利を得るために、俺たちは戦った。
でもその夢は、人類の創造力を前に立ち消えてしまったんだ。
「創造魔法。最初は皮肉かと思った。なんにも生み出せない俺らに、これ以上一体何を生み出せって言うんだって。でもそうじゃなかった。ここでも人間の奴隷をやれってことなんだろうって、神様を呪ったよ」
異世界にやって来て、自分のことを人間と同じように扱ってくれる人たちがいて。
ここなら自分も人間になれると思えた。
でも、自分が変わったわけではない。
人間と自分の差を自覚するほどに、この世界も、元の世界と同じように見えてしまって。
だからいつしか、ここでもネトゲに逃げたいと思うようになった。
「だからお前たちを戦わせることはできない。それは俺たちヒューマノイドの仕事だ。人類が行う仕事ではない」
反論が出なくなったところで立ち上がる。
「この官邸の安全は確保してある。お前らはここにいろ。街の中にいる敵をすべて掃討してくる」
そう言い放って、未だに俯き続ける彼女らに一瞥だけ送り、俺は部屋を後にするのだった。
*
アサヒの出て行った部屋で、しばらく打ちひしがれていた二人ではあったが、やがて気力を取り戻し、瞳に炎を灯す。
「エリナ」
「ええ、わかってます、ミリーさん」
視線だけ交わして、互いの想いを共有し立ち上がる。
「わかってないのはあんたよ、アサヒ」
「アサヒ様、人はそんな生き物じゃありません」
決意を胸に秘めて。
「あんたがそこまで持ち上げるんなら、見せてあげるわ」
「ええ。人類の底力、ただでは済みませんよ」
爪が食い込むほどに握りしめ合う二人の手には一つの想いが彩られているのであった。
*
その後、俺が至る所で発生している暴動を鎮圧して回ることで、今回の騒動は幕を閉じるのであった。
内乱の後は主犯探しやら外交問題やらでてんてこ舞いとなったが、幸いなことに大きな問題を生じることもなくエミリュラは日常を取り戻していったのである。
もちろん、今回エミリュラへと侵攻してきた周辺国に対してはちゃんとお礼参りをし、多額の賠償金と領土の一部を割譲することとなった。
これからは、俺が留守の時に何かが起きても対応できるような準備をしておかなければな、と思うのであった。




