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陸戦最強兵器

 旧ペスト国、現エミリュラの主要都市ラマレルカンの城壁において、目の前に広がる軍団へと目をやる。

 ベルメド国軍だけかと思っていたら、隣国のいくつかの国も義勇兵として混ざっているようで、その数は三万人ほどに及ぶそうだ。


「アサヒ様、お初にお目にかかります。旧ペスト国将軍レイケル・ズスマーと申します」


 ラマレルカンにおける防衛最大責任者のレイケルが挨拶をしてくる。


「よろしくね。さてどうしよっか。とりあえずあの軍団は叩き潰せばいいのかな?」

「は、はい。そうしたいのは山々なのですが、こちらの攻城兵器の射程外でもございまして。打って出ようにも、こちらの防衛兵も二千名程度と数の上で不利な状況にあります」


 街壁上に設置されているカタパルトの射程を相手もよくわかっているのであろう。

 敵ベルメド軍はそのギリギリ外側に陣取っている。

 ただ、俺が来ているという情報はまだ相手に伝わっていないようだ。


「ああ、いいよ。戦うのはこっちでやるから」

「は、はぁ……」

「その他に何か情報はある?」

「ここにいる軍隊はベルメド国軍のあくまで一部でして、周辺の村々を彼らは占領しております。また、ラマレルカン大森林にも奴らの兵が派兵されていると報告があがっております」

「なるほどねぇ。分散配置ってことはいちおう俺が来た時のための対策もとってるってわけか」


 一か所に集まっているとペルート国のときのように一掃されてしまう可能性が高いため、軍隊をあえて分断しているのであろう。

 相手が槍と弓を持った物量軍隊であれば、各個撃破のいい的ではあるが、エミリュラでの戦力を俺のみと捉えた場合には、分断配置の方がよい。

 なぜなら、すべての戦場にいちいち俺が移動して行かなければならないからだ。


「どのように対処なされますか?」


 サラから質問が飛ぶ。


「ラマレルカンに張り付いている敵は砲火で排除する。たぶんすぐ撤退するだろうから追撃かな」

「追撃できるのですか? アサヒ様が追撃しているところを見たことがないのですが」

「まあ見てなって。そのまま各村の占領軍へと攻撃を開始する」

「防衛よりも攻撃の方が、難度があがります。問題ございませんか?」

「うん」

「……周辺には多数の村が存在します。すべてを回るともなると、時間もかかりますので優先順位はどのようにいたしましょうか」

「端から順にやっていけばいいよ」

「それでは早馬を使ったとしてもかなり時間がかかりますよ?」

「問題ない。全部なぎ倒していくから」

「……アサヒ様、畏れながら村を焼き払うのには反対です。村民が人質とされている可能性が高く、ペスト国民に強い反感を持たれることとなりましょう」


 サラの懸念を横目に長距離砲を創造魔法でつくりだす。


「あー、すまん。言葉足らずだった。なぎ倒すのは敵だけだよ。人質の救出まではできないけど、敵軍は九割以上壊滅できると思うから、どうせ撤退しかなくなるよ」

「一体何をなさるのですか?」


 サラがなおも目を細める。


「だから言ってるだろ。サラは何もしなくていい。見てなって」


 その言葉でサラは黙ったので、砲撃を開始する。

 長距離砲による砲撃でベルメド軍の陣地が消し飛ばされ、人が舞っていく。

 攻城戦を行うのであれば兵士たちは密集させておいた方がいいが、炸裂砲を前にするとこれほど逆効果なものもない。

 一発ごとに数十人単位の人が消し飛び、長距離砲を並べることでその砲撃を0.5秒ごとに行っているのだ。

 つまり、三万人の軍勢など十分もしない内に壊滅することを意味している。


 だが、相手とてこちらの砲撃の脅威を全く知らないわけでもない。

 ペルート国との戦争で多用しきたこの兵器の特性は広く伝えられているのであろう。

 敵軍はすぐさま撤退を開始し、被害から逃れようとして行く。


「よし。レイケルさん、門を開けてもらえる。こちらから打って出る。あなたはこの都市を引き続き防衛していくほしいかな。俺らが出たら門は閉めていいから」

「わ、わかりました……」


 あまりに凄惨な光景へ言葉を失っていたレイケルではあるが、反応くらいはできたようだ。

 門から外へと歩んでいき、そこで再び創造魔法を使う。


「これは……一体……」

「サラもラマレルカンで待ってていいよ?」

「いえ、わたくしも同行させて頂きたいです。しかし、これは一体なんなのでしょうか」

「とりあえず乗んな。一人乗りってわけでもないし」


 創り出した鋼鉄製のそれに二人して乗り込んでいく。


「エミリュラでは、もう鋼鉄も内燃機関も爆薬も作れるから、これそのものは再現することができちゃうだろうな。まあ、その技術はまだミリーやエリナたちにはないだろうけど」


 エンジンを始動し走行を開始する。

 ミリーたちに見せた『飛翔』を使ってもよいのだが、あれは搭乗者が剥き出しな上に搭載モジュールが本当に最低限となっているため、使い勝手が悪い。

 それに対し、こちらは技術的にも能力的にも信頼性の高いものであることを歴史が証明している。


 動き出したそれの中で、サラはこの不可思議な乗り物をキョロキョロと眺めながら、先ほどまでの質問を口にすることすら忘れてしまっていた。


「第一次世界大戦では重機関銃の登場と塹壕戦によって莫大な死者数を出してしまった。密集突撃をしてはならないという教訓から生まれたはずの塹壕は、いつしか塹壕を奪い合うだけの命を消耗する地獄と化した」


 時速八十キロほどで走行するソレは、騎兵ならまだしも撤退していくベルメド軍の歩兵にはすぐさま追いついてしまう。

 こちらの姿を確認するや、ベルメド軍の者たちは驚愕に目を見開いていた。


「これはそのために開発された兵器。塹壕戦は誰の目から見ても意味のない総力消耗戦だ。けど、それが最も有効な戦略になってしまうから、みんな頭を悩ました」


 取り付けられているは百二十ミリの砲塔と機関銃。

 腰を抜かして逃げ出す兵士たちを死傷させるには十分すぎる火砲だ。


 ダァァァァン!!!


 砲が火を噴き人が吹き飛ぶ。

 機関銃が鉛玉を大量に吐き出して、血の雨が降る。

 例え火砲を受けなかったとしても、ソレがただ突進するだけで、幾人もの兵士たちが踏みつぶされ、骨と肉を砕く音と、泣き叫ぶ声が響き渡る。


「これは……」

「戦車。陸戦最強の兵器だ。馬よりも速く駆け、矢玉から身を守る装甲を持ち、敵を消し飛ばす火砲を備える。ベルメド軍は対処方法なんて当然知らないだろうから、彼らは何もできないまま死んでくよ」


 言葉通り、戦いはただただ一方的なものであった。


「なんだあれは!?」「迎撃だ!」「いや、逃げろ!」


 人々の混乱と焦りと苦しみに満ちた声が響く。

 槍衾やりぶすまを用意するが、戦車の前では小枝を並べているも同然だ。

 槍ははじけ飛び、持ち主はキャタピラに踏みつぶされていく。


「戦車に槍兵で戦うってのは絶望的だろうなぁ。騎兵相手じゃないんだから」


 目に付いた敵兵に砲弾や銃弾を撃ち込んだり、戦車でそのまま突進したり。

 なす術のない彼らは、生を諦めるよりほか選択肢がなかった。


「だいたい片付いたね」

「……散らかした、という方が正確ではないでしょうか」


 それに鼻で答えながら、進路を周辺村へと向ける。


「このまま村を占領している軍を蹴散らしていく。たぶん明日くらいまでには終わるかな」

「相手もただで済ましてくれるとは思えませんよ。アサヒ様が言うところの人間相手となりますので」

「そうだね。楽しみだ。一体どんな創意工夫を凝らしてくるのか」


     *


 村の奪還を開始して、五つ目の村に到着したときである。

 入り口で敵兵に遭遇し、そのまま村の中へと入ったところ、落とし穴が用意されており、車体が沈むこととなった。


 だが、戦車はもともと地面の隆起があるところを想定されて設計されている。

 この巨体に対する落とし穴ともなると、たかだが数時間で用意できる深さはこの程度が限界で、さして問題にはならない。

 そこへ――、


「今だ! 集中攻撃!」


 大量の魔法がこちら目掛けて降って来た。


 もうここまで考えるか……。

 戦車が撃破されるのもそう遠くない未来に起こりそうだ。

 呑気にそんなことを思いながら、構わず戦車砲を放っていく。


「くそっ! 一時撤退! 立て直しを――」


 指揮官と思しき者を機関銃で消し飛ばした。

 魔法と言っても人を殺せる程度の威力であって、鋼鉄の塊である戦車を破壊できるほどではない。


「なっ! 隊長! クソっ! このばけも――」


 兵士たちも戦車砲を前に吹き飛んでいく。

 いくら火だの水だの雷だのをくらわせたところで、効果はいまひとつである。

 敵をあらかたなぎ倒して、次の村へと出発するのだった。


「村人の救援は行わないのですか?」

「そっちは専門外だから、レイケルさん? だっけ? 旧ペスト国の人に任せるよ」

「アサヒ様、前々から思っていたのですが、アサヒ様はなぜ人から嫌われる行動のみをされるのですか? 敵兵を倒すだけではなく救援まで行えば、エミリュラの――アサヒ様への忠誠度もあがろうかと思われます」

「別に人気欲しさにやってるわけじゃないけど……」

「ではなぜ敢えて敵兵を皆殺しにしていくのですか? 戦争とは通常敵兵を三割も死傷させれば片が付きます。皆殺しにする必然性などございません。それではむしろアサヒ様が恨みを買うこととなりましょう」

「そうだね。俺もそう思う」

「ではなぜそうされるのですか」


 あくまで感情を込めない表情でサラが問うてくる。


「理由を知ってサラはどうするの?」

「今後の国家方針を考える上で参考にしたいと考えております。真意があるにしろ、ないにしろ、アサヒ様のそういった軍事行動は一般的とは言い難いです。そのため、それに応じた国家戦略と外交方針をつくる必要がございます」


 てっきりミリーのようにそんなことはするなと止めに来るのかと思ったら、サラの考えていることは違ったようだ。


「……圧倒的な軍事力の差があれば相手は戦いを諦める。俺という人物を抑止の対象にしようと思っているだけだよ。別に大した理由はない」

「わたくしには……、そうは見えません。アサヒ様にはもっと別の狙いがあるように思われます」

「ないよ。人と人がいたら――いや、人でなくともいい。生き物と生き物がいたら争いってのは絶対に起きる。どれだけ仲良くしたり、戦争回避の努力をしたって争うこと自体は避けられないんだよ。ならそれを誰かが受け持たなきゃいけない。それが俺の役割ってだけだ」

「そうですか……」


 サラはそのまま考え込んでしまい、うるさいエンジン音が鳴り響く車内での時間を過ごすことになるのであった。

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