殲滅兵装
巨体から繰り出される猛撃に、足が地面へと埋まってしまい。
強化繊維による防御衣類であるため斬り裂かれこそしていないが、服の中は滅茶苦茶だ。
痛みが発生しながらも、それを無視して顔を上げる。
そこには深刻な表情となるセイラの姿があった。
まるで死体が動いたかのような驚きと、それでいて無事でいた俺を安心しているかのような顔となる彼女は、未だに脅威が去っていないことを目で語っている。
「くそがっ!」
ライフル弾を連射していくも、ドラゴンはすぐ様飛び退って柱の影へと逃げていく。
多少弾が当たってはいたが、ヤツの致命傷には至らず。
俺はすぐさま振り返ってセイラの状態を確認していく。
「セイラ、大丈夫か?」
「え、ええ……。アサ、ヒちゃん? こそ、大丈夫なの?」
ドラゴンの一撃は何トンというレベルであろう。
それを支えた身体が無事に見えない当然だ。
幽霊でも見ているかのような表情となる彼女は、腕から酷く出血しており、放っておくと死んでしまう。
「俺は大丈夫だ。ミリー、アルス、サポートしてくれ!」
「わかったわ!」「わかった!」
彼女を担いで入り口側に逃げていこうとするもドラゴンは柱へと体当たりを始める。
何をしているのかと思ったら、柱を倒して入り口を塞いでしまうのであった。
魔物は通常こういった知性のある行動をとって来ない。
想定脅威度を大幅に引き上げ、どのように対処すべきか頭をフル回転させる。
「ミリーが治療を!」
役割を変えて、今度は俺とアルスが彼女らの盾となりながら戦っていく。
ライフル弾を何発も打ち込んでいるというのに倒れる気配がない。
おまけにこの速さでは、当初考えていたロケットランチャーも当たるかはかなり微妙なところだ。
「【マテリアルクリエイト】」
ロケットランチャーを創り出して、ドラゴン目掛けて発射していく。
予想した通り相手には避けられてしまうが、それは問題ない。
武器をロケランとライフルで交互に入れ替えながら牽制攻撃を続けて近づかせないようにする。
「最低限だけ止血したわ!」
「セイラ、歩けるか?」
「なんとかね。ふふっ、アサヒちゃんってベッドの上でも荒っぽい方が好き?」
「この状況で冗談言えるなら上等! 行くぞ! 走れ!」
目指すは報酬部屋――当初の目的である大地の宝玉が祀られている部屋だ。
ボス部屋から直通となっており、扉は奥まった場所にある。
ドラゴン側もそれを理解したのであろう。
逃げようとする俺たちに相対することで阻止しようとしてくるのだが、ロケット弾にはさすがに当たりたくないようだ。
創造魔法により弾を無限補充できるため、連射可能なロケット砲を前に接近できずにいる。
ならばとドラゴンは入り口と同じように柱を倒しに行こうとしたのだが――、
「もう倒しておいたぜ」
なんて不敵に笑う。
セイラの治療を行っていた際に、奴へと放っていたロケット弾は、ドラゴンに命中させるためではなく邪魔な柱を予め別方向に倒しておくためのものだったのだ。
これで出口が塞がれる心配はない。
「走れ! あとちょっとだ!」
仕方がなしにドラゴンは決死の突貫を繰り出してくるも、今度は近接職が主体のアルスが出ることに。
ドラゴン側は決め手に欠ける。
「アルス!」
ミリー、セイラは部屋へとなだれ込み、残るは彼のみ。
ドラゴンもここぞとばかりに、口の中へと火を溜め込んで今にも吐き出さんとしていた。
ここに来てまたゲームにない仕様。
このボスにドラゴンブレスの設定はなかった。
ライフルを乱射する横で彼に手を伸ばす。
あと少し――、
口から吐かれた灼熱の炎は瞬く間に部屋へと広がり、報酬部屋がある狭い入り口へと迫る。
「手を伸ばせ!」
「アサヒ!」
ギリギリのところで彼の手を捕まえて、無理矢理にこちらへと引き込む。
扉の前に鉛の壁を創造魔法でつくり出して、行き来を不可能にするのだった。
*
肩で息をしながら、全員の状態を確認していく。
セイラの腕以外は大丈夫そうだ。
「ミリーちゃん、添え木をしてもらえる。骨もやられちゃってるみたいなの」
「ごめん、気付かなかった。すぐやるわね。それにしても、帰りをどうするかが問題ね」
治療を始める横で、アルスが口惜し気な表情を浮かべる。
「すまない……。俺の判断ミスだ。アサヒの言った通り、一度撤退しておけばよかった……」
「みんなの責任よ。自分を責めないで」
ミリーが慰めを入れる横で俺が補足を行っていく
「気にすんなって。それに帰りも問題ないよ。ほら、そこ」
部屋の中心には台座が置かれており、その中心には大地の宝玉が置かれている。
そしてその裏手には道が続いているのであった。
「報酬部屋の裏手に出口につながる一本道がある」
「そうなんだ?」
「ああ。地下十階だから山登りみたいになるけど、それさえ抜ければすぐに出られるぜ」
この辺りはゲーム通りの仕様で助かった。
「そっか、なら早く行きましょう。セイラを早く安全なところで休ませてあげたい」
仰々しい台座の上に置かれている宝玉を手に取る。
持っているだけで任意生産物の枠を二倍にしてくれるという破格の効果を持つこのアイテムは、プレイヤーならば誰もが欲しがるものだ。
それを慎重に鞄の中へとしまって、全員で坂を上り始めようとしたのだが――
ゴトンッ!
台座の辺りで仕掛けが動くような音が響き、周囲の石板が動き出す。
「なんだ! 何が起きている!?」
周囲に警戒を飛ばしていると、報酬部屋の壁から新た穴が出現し、そこから魔物の群れが出現するのであった。
「敵だ!」
すぐさまライフルを放っていき、排除にかかるが、その噴出口は一つや二つに収まらず、周囲全体からわらわらと湧き出してきている。
「数多い! 坂の方から逃げるぞ!」
「セイラ、がんばって」
ミリーが支えながら必死に足を動かさせる。
彼女の体調はとても走っていいような状態ではないが、今足を止めると押し寄せる魔物に飲まれてしまう。
もはや狙いをつける必要もないほどの魔物が溢れ出てきているため、グレネード弾を何度も放ちながら範囲攻撃で対応しているというのに、敵の途絶える気配がない。
最後の最後に来てゲームにはない仕様……。
こちらを確実に殺しにかかっている。
高鳴る鼓動を感じながら、それでも引き金を引き続けるしかない。
「みんな、もう置いて行って」
セイラがそんなことを。
「何言ってんの! 踏ん張んなさい!」
「三人でも助かった方がいいわ」
「寝覚めの悪いこと言ってんじゃねぇよ!」
何度も炸裂弾を放っていくが、敵のおさまる気配がなく。
その他の兵装を考えてみるも、大規模な爆弾は通路の崩落やこちらへの被害も考えられる。
ならばと機関銃を作り出そうとしたのだが――、
「またあいつだ!!」
通路の天井部分から、ボス部屋で戦っていたドラゴンが現れたのを視界の端にとらえる。
「くそっ、この忙しい時にっ!」
あいつ相手では機関銃が有効であるかはかなり怪しいところだ。
武器の取捨選択へと思考をやっているところで、セイラの足が止まっていってしまう。
「お姉さんのことは、もういいから」
「セイラ! 走って!」
「違うの。もう、体が、もたないの……」
セイラの顔は蒼白としており、額には焦りとは別の冷や汗が流れている。
すでにあれだけ出血してしまったのだ。
応急処置こそしたが、そもそも体を動かしていいような状態ではない。
急斜面を魔物の大群から逃れるのは無謀と言えよう。
ミリーと視線だけで会話をして、二人でセイラを担ぐ。
だが、こんな状態じゃいずれ追いつかれる。
戦う以外に選択肢はないが、彼女らを守りながらこの数と戦うのは至難の業だ。
それを認識し、頭の中に引っ掛かり続けているある事柄へと、俺は思いをやる。
俺の考えている通りなら、たぶんできる。
でも、この状況だとチャンスは一度だけ。
失敗すれば全員死ぬ。
それでも――、
そんなことを思っていたら、アルスから声がかかった。
「みんな、俺がこの場で魔物どもを足止めする。みんなは先に行ってくれ」
「何言ってんのアルス! あんたも一緒じゃないとダメに決まってんでしょうがっ!」
「そうだアルス、俺たちにはリーダーのお前が必要だ」
足を動かしながら会話を続ける。
「アサヒ、俺はな、後悔しているんだ……」
迫りくる魔物を剣で払いながら、儚く笑ってくる。
「なんで、お前の話をもっと聞かなかったんだ。なんでお前のことをもっとよく知ろうとしなかったんだ。なんでもっと、お前のことをわかってやろうとしなかったんだって」
話している状況ではないとわかっているくせに、歯を食いしばりながら、それでもこれだけは言っておかなければならないと彼は言葉を続ける。
「やめろアルス、お前一人を置いてなんていかせないぞ」
そんな彼は、遂に走るのをやめてしまった。
「いや、やめない。これは俺の意地だ。俺はもう絶対に後悔したくないんだ。仲間の足を引っ張って、間違った判断ばかりして、その結果、仲間の命を失う結末なんて、絶対に見たくない」
「アルス! 止まるな、走れ!」
「嫌なんだ。悔しくて、やるせなくて、でも――、」
その目を見開く。
「お前たちを想う気持ちだけは誰にも負けていない」
涙を瞳に貯めながら。
この時、俺は昔のことを思い出していた。
ああ……、そうか。
そうだった。
たしか、こんな瞳だった、と。
魔物の群れがアルスに迫る。
もう目の前だ。
「アルス!!」
ミリーの叫び声が響き渡る。
迫りくる魔物たちに、アルスは剣こそ向けているものの多勢に無勢だ。
次の瞬間には彼の身体がズタズタに引き裂かれていることであろう。
故にミリーとセイラは目を背けてしまった。
時間の流れが止まっていく中で、走馬灯を見るように幾重もの過去を思い返す。
たくさん死んだ。
たくさん殺した。
仲間を殺され。
敵を倒して。
それが俺の生き方だ。
一生そうなんだ。
神から与えられたこの宿命は絶対に変えられない。
彼らが倒れたとて、それは今まで倒れてきた仲間と何ら変わらないじゃないか。
だったら、この場で彼らを見捨てたって、いいんじゃないの?
ふと、みんなの顔を見る。
エミリュラに残して来た皆の顔を思い返す。
失う事を怖がるようになるのが怖かった。
だから俺は思い入れができないように距離を取ることにしたんだ。
――でも、それって本当に俺のやりたいことだったっけ……。
無味無色となってしまった過去を思い出す。
ネトゲに夢中になって、ミストラルバースオンラインだけが輝いて見えた日々。
違うんだ。
俺はずっと、かつての世界で戦わなければよかったと後悔してきた。
――でも……じゃあ、なんで俺は戦うことにしたんだっけ。
胸の奥にある、小さな希望を思い出す。
アルスとセイラとミリーが、消えかけて無味無色になった世界に希望に火をともしてくれた。
だから俺は決して忘れない。
彼女らの優しさを。
ここに生きる人たちが、NPCではなくて人間であるということを。
俺を……人間だとみなしてくれたことを。
――そうだ、そうなんだっ。
「だったら、俺は――!」
動き出した時間の中で、その目を見開く。
「【マテリアルクリエイト】!!!」
俺が使える特殊魔法にして、熟練度がないと勘違いしてきたもの。
彼女らが耳にしたのは、人が斬り裂かれた音でも、ましてや彼の断末魔でもなく。
重い質量に魔物どもがぶつかる音であった。
想像とは違った異音に全員が目を見開く。
降り注ぐ火花は魔物の攻撃を受け止めたことによるもので。
尻餅をつくアルスの目の前には、俺の展開した巨盾が壁のごとく存在するのであった。
「なに……が……?」
「アルス。お前の気持ちはちゃんと受け取っている。お前たちの優しさを、俺は絶対に忘れることはない。生まれて初めて、感じることのできたものだったから」
「なん、なの……これ……」
大地を踏みしめるは金属の塊。
「これまで見せてきたのは基本兵装だけだった。でも現代戦において、ただ火力が高いだけの兵科ってのはあんまり強くないんだ。機動力こそがもっとも重要なパラメーターで、だからこそ砲もミサイルもロケットも自走式になった」
二足歩行式のソレはエンジン剥き出しの状態で、魔物たちの攻撃を受け止め続ける。
「それが二十世紀までの現代兵器。これは二十一世紀後半の――」
覚悟を決める。
「――第三次世界大戦における、俺たちの兵器だ」
両の腕には剣と盾。
胸の部分に搭乗する俺はマニュアル操作にてすべてを実行していく。
「また、この席に戻ってきちまったな。でも、今度は……後悔していない」
人型殲滅兵装。
無数の魔物たちによる攻撃をものともせず、剣によって奴らを薙ぎ払っていく。
それとともに、俺は魔物たちへと侮蔑の視線を送るのだった。
「おい魔物ども、人間様に手を出すとはいい度胸だな」
背部火器群を展開。
20ミリバルカン砲4門、40ミリ機関砲2門、120ミリ戦車砲2門、150ミリ長距離砲1門、誘導ミサイル砲塔2門。
「人類の英知の結晶、その目でしっかり見届けることだ」
火砲が火を噴いた。
重砲撃による弾幕は魔物どもをなぎ倒し。
降り注ぐ鮮血は雨の如く。
舞い散る肉片は落ちる間もなく、すべての動く者は須らく死を迎える。
あれほど魔物がいたというのに、ほんの一瞬ですべてが終わった。
「残敵ゼロ。排除完了」
あまりに一瞬の出来事で、ミリーたちは瞬きをするのも忘れていた。
展開した二足歩行式のソレを収納モードへと移行させ、アルスの傍に歩み寄る。
「さあ、セイラの傷が手遅れになる前にゆっくり歩いて帰ろう」
三人は口が開いたまま、黙って俺の後をついてくるのだった。




