探検をしよう!
次の日、街外へと逃げ出して野宿から帰って来た俺は、怒りマークのついたミリーとアルスに捕まり宿へと引きずられることとなった。
「ちょっとアサヒ! あんたセイラに何したのよ!」
宿の部屋では、未だに甘い吐息を吐きながら、体をのけぞらせるセイラのあられもない姿があるのであった。
あー、やっぱりこうなったか……。
「えーっと、ま、まあ、普通かな」
「普通って、これのどこが普通なのよっ!?」
「いやぁ、俺も必死でさ」
などと後ろ頭を掻く俺に、セイラのだらけ切った顔がこちらへと向けられる。
「ああ! アサヒちゃん! 昨日のはすんごくよかったわ! あんなに気持ちいいのなんて初めてよ! あなたの白いアレを全身に浴びてから、あたしったらもうずっと興奮が止まらないの!!」
「んなっ!」
「おいちょっと待て、誤解を生むような言い方をするな」
白いアレってエアロゾル噴霧したただの煙のことだろ。
「アアアアアサヒ、あんた、せせ、セイラと、まさか、そんなことをっ?!!!」
「ちょっと待て、誤解だミリー」
「ああん! アサヒちゃんったらっ! 誤解だなんてっ! 昨日はあんなに激しかったじゃない!」
「激しく逃げようとしたんだよっ!」
「そしたらアサヒちゃんたら、いきなり白いのを出しちゃうんだもの。しかもあんな量を。お姉さん、興奮が収まらなくて、一晩中悶えてたんだからっ!」
「誤解を生むような言い方をするなぁぁ!」
「アサヒ。あんたってやつは……っ!」
「ちょ、ちょっと待てミリー。お前は完全に勘違いしている。違う、俺とセイラの間にそういったことはない」
「じゃあなんでセイラがこんなに乱れ続けてるのよ!? 前もあったじゃない! 念願の貴族の子と一晩を過ごせたって朝帰りしてきたときっ!」
たしか冒険者をやってたときにそんなこともあった。
あの時は身分がハードルとなっていた覚えがある。
彼女はそういった願いが叶うと、満足するのではなく、より興奮していくタイプなのである。
「いやいや、違うって。第一、なんでミリーがそれを気にすんだよ」
「それは――!!」
とそこから口がパクパクと動くだけで、言葉が後に続かない。
「もぅ! 知らない!」
ミリーに殴られた。
なぜに。
「言っとくが、俺は本当にお前が想像しているようなことはしてないぞ」
「むぅぅ。じゃあ何したってのよ!?」
「セイラに拘束されて、身の危機を感じたから、即効性の媚薬を大量にばら撒いたんだ。その隙に俺は逃げ出した」
「あぁぁん、もうアサヒちゃんったら。ちゃんとミリーちゃんの本音を聞き出すまでは答えを言っちゃダメじゃな~い」
なんて具合にセイラはふざけていた。
コイツ、今まで演技してたのか。
ミリーじゃないが殴ってやりたい。
「セイラ、あんた大丈夫だったのね?」
「いえ~、まだお姉さんの身体は火照ったままよぉ。アサヒちゃんのがすごかったからん」
「あんた……、どんだけ強力なの使ったのよ」
そもそもセイラはこの世界に存在する媚薬の類を一通り試したことがあり、一定の耐性を持っているはずだ。
「いやだって相手はあのセイラだよ。思いつく最上位のやつを使ったよ。中途半端のだとかえって増長させるだけかと思って」
「たしかに……」
セイラ以外が大きなため息をつく。
「で? ダンバル遺跡に行くの?」
「もちろん。精神的に疲れてしまったが、行くぞ! ここからは徒歩だ!」
「アサヒちゃ~ん、お姉さんが精神的に癒してあげるわよぉ~ん」
何て言ってくるセイラを無視して、四人して遺跡に向かって歩いていくことにするのだった。
セイラは媚薬が抜けきっていないのか、二言目にはエロい発言ばかりをしていて、みな困った表情となってしまうのであった。
*
「ここね」
だいぶ古そうな石造りの遺跡の入り口があり、地上部分に建物は入り口のみだ。
このダンジョンは地下迷宮となっており、モンスターがうじゃうじゃ出てくる場所として有名であった。
「隊列はいつも通り、俺が前衛、セイラが後衛、アサヒが支援攻撃、ミリーが側面攻撃という分担で行く。よしっ! 行くぞ!」
アルスがやる気満々にパーティーリーダーとして仕切ってくれる。
久々の冒険者業かつリーダー役に浮かれているのであろう。
ダンジョンの中はどういう原理だか常にかがり火が焚かれており、そこまで視界が悪いわけではない。
敵は中盤ダンジョンというだけあって頻繁に出てくるのだが――
「敵だ! 俺が前に――」
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
ライフル銃を手にした俺からするとだいぶ雑魚の部類で、現れた瞬間に死亡していくというちょっと可哀想なことになっていた。
「終わったね。次行こっか」
「あ、ああ、そうだな……」
またも敵が現れる。
「次の敵は魔法を――」
ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!
「よしっ、やったな。アルス!」
「あ、ああ……」
こんな具合に、出会い頭に俺のライフルで瞬殺されてしまうため、他のメンバーはすることがない。
それでも、セイラはまだ魔法による遠距離攻撃ができるため、役立つ機会があるのだが、近接戦闘主体のアルスとミリーはほぼ暇をしていた。
「なーんかすんごい楽なんだけど」
「えっと、んじゃあ俺は戦うのやめていいかな?」
真面目にやれとミリーに後ろから軽く叩かれる。
「だって俺ばっかズルいじゃん」
「あんたが強すぎんのよ」
「昔は照準もだいぶ下手だったのに、手慣れて来たなぁ。……ってあれ、ちょっと待てよ、これっておかしくない??」
慣れたとかそういうレベルなく、俺の敵が現れてから構えて照準を合わせて引き金を引くまでの速度は異常に速かった。
特別な訓練をしているわけでもなしにそれができるのって、もしかすると――、
「熟練度システムって……生きてるんだ……」
実感がなかったのでてっきりないものかと思ってきたが、ミストラルバースオンラインは特定の武器や魔法を使えば使うほど、その熟練度が上達し、強くなることができた。
レベルシステムのないこの世界において、強くなる方法は強力な武器と防具用意するか、多彩な支援アイテムを準備するか、熟練度を上げる、の三択であった。
ということはライフル銃の熟練度があるということになる。
……だが、それだとおかしい。
俺はこれまでライフル銃をそこまで多く扱ってきたわけではない。
にも関わらず、このレベルで上達しているということは、『火器』で熟練度が一つの括りになっているというパターンだ。
実際問題、ミストラルバースオンラインではマスケットライフルと火薬を用いた爆弾は作成することでき、どちらの熟練度も『火器』という一つの括りになっていた。
ということは、俺が長距離砲やら機関銃やら化学兵器やらで倒して来た数だけ熟練度が上がっているというわけだ。
「熟練度? なに?」
「……いや、なんでもない、先に進むか」
道は全部覚えていたはずなのだが、どうもゲームのときとはマップが異なる。
これがわからないところだ。
この世界はおおよそ俺の知っている通りにシステムが生きているのだが、たまにクエやマップが異なることがある。
この変化がなぜ生じているのかは未だによくわかっていない。
「うぅ……。くそっ! いろいろとアサヒに教えることで彼の心を掴みたったのにっ!」
「まあいいじゃん、あたしとアルスはやることなさそうだし」
「くぅ……今となっては俺たちがパーティーのお荷物か……」
「あっ! 宝箱!」
盗賊職のミリーが前へと出て、トラップが仕掛けられていないかを慎重に確認していく。
「うん、大丈夫そう」
「おっ、ミリー助かる」
「さすがミリーちゃんね。お姉ちゃんキュンキュンしちゃう」
「セイラ、あんたはちょっと距離取って」
なんてやり取りをしている横で、アルスはさらにズーンと落ち込んでいるのだった。
「近接職のミリーですら役に立ってるのに、俺だけ……、俺だけなんの役にも立ってない……」
なんて言いながら。
*
そのまま遺跡の攻略を進めていったのだが、
「うーん、おかしい」
地下六階のセーフゾーンに俺が唸っていると、ミリーが声をかけてくる。
「何がよ?」
「この遺跡は地下五階までのはずなんだ。それが六階もあるというのがおかしい。いや、この調子だと六階ではおさまらないかもしれない」
「なんであんたがそんなことを知ってんのよ、ってツッコみは置いておいて、別にダンジョンの地下が長いのなんて普通じゃない。リオレムダンジョンなんて地下百階まであるそうよ?」
リオレムダンジョンとは冒険者が腕試しに挑む有名なダンジョンのことだ。
「うーん。やっぱ魔法に関連しているところが俺の知っているところからの変更点なのかなぁ……。ダンジョンは魔法でつくられてるわけだし」
「あんたじゃないけど、地下百階の建物を普通の建築技術でつくれって言われたらうんざりしちゃうわ」
「ミリーもだいぶ蛮族が垢ぬけて来たな!」
「殴るわよ?」
「やっぱ蛮族だったわ」
ドカッ!
蹴られた。
*
一晩をダンジョンの中で寝泊まりして、地下十階に到着したところでようやくお目当てのボス部屋の前に到着する。
「よしっ! 最後くらいは俺も活躍できるはずだ! アサヒ! お前にだけ頼っているわけじゃないってところを証明してやるぞ!」
「あー……。うん。悪いんだけど、たぶんボスも一発かな」
「そんなわけあるか! さっき扉から少しだけ姿を見たが、像のように巨大なドラゴンだったんだぞ! ドラゴンは高い身体能力と強靭な皮膚構造を持つ上に、ブレスによる範囲攻撃までしてくるんだ。四人での連携は必須になる。これまで通り、俺が前衛、アサヒが後衛で敵の注意を引き付ける。セイラは支援と回復に集中しながら、余裕があれば魔法攻撃、ミリーは隙を見て奴の急所を狙っていってくれ」
「わかったわ」「は~い」
うーん……。
たぶんロケットランチャーで一発なんだけど、ここで倒しちゃったらさすがにアルスが可哀想だなぁ。
仕方がないので彼の言った通りに動いていくことにする。
いざとなったらぶっ放せばいいだけだ。
大扉を開いてボス部屋へと入っていく。
幾つもの柱が並ぶ大部屋で、その中心には体長十メートルほどの巨体が鎮座しているのだった。
コイツは翼のないタイプのドラゴンで、トカゲのように壁を走ることもでき、この無数にある柱を使って三次元的な攻撃を仕掛けてくる。
「いくぞっ!!」
アルスは前衛として突撃し、俺は手ごろな柱を見つけて陰から狙撃開始。
ライフル弾は弾かれこそしないが、十メートルの巨体に対して、わずか六ミリしかない弾は、一発や二発では大したダメージにならない。
おまけに、もっともっさり動くものかと思っていたら、非常に機敏な動きで柱間を飛び回っていた。
「おいおい、ゲームじゃもっとゆっくりだったぞ……」
そんな愚痴とも独り言とも取れない言葉を吐きながら、二十ミリ機関砲を創造魔法でつくりだす。
この素早さは俺たちにとって脅威だ。
重武装のアルスやハイディングが得意なミリーならまだしも、セイラが標的になった場合、防御手段が乏しい。
ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ!
機関砲を斉射し、猛攻を加えていくも、ヤツは瞬時に俺の攻撃が危険だと判断したのであろう。
柱の陰に隠れながら、あるいは射線上にアルスが入ってしまうような位置取りをしながら逃げ回る。
――ポジショニングまで理解できている!?
「アルス! 撤退だ! 想定より知性が高い!」
「まだだ! ここは押し切れる! 多少早い程度で攻撃は大したことがない!」
剣を振り下ろして奴へと斬撃を加えていく。
ミリーも背後を取って短剣を突き立てていく。
俺の攻撃を最も警戒しているがゆえに、アルスやミリーたちの攻撃にまで気が回っていない様子だ。
だが、それだけこの敵は現状況を理解できていると言うことに他ならない。
想定よりもだいぶ危険な相手だ。
舌打ちをしながら、創造魔法により新たな武装を創造しようとしたその瞬間、
ドラゴンが猛速でセイラ目掛けて突進を開始した。
創造の瞬間というのは俺にとってもっとも大きな隙ができるときで、それすらも奴は見抜いていたのであろう。
凍り付く背筋を無理矢理動かして、走り込みながらライフルを放っていく。
三十メートルはあったであろう距離が一瞬でつまってしまい、
セイラには鋭い爪が――!
一撃目を何とか杖で防いだのだが、二撃目で左腕を大きく割かれてしまい、鮮血が舞う。
苦痛にまみれる悲鳴も束の間、すでに奴の腕は降り上がっていた。
「セイラァ!!」「セイラ!」
アルスとミリーが駆けるも間に合うわけもなく。
セイラは片手で杖を掲げて一応防御しようとしているが、奴の腕力の前では爪楊枝を掲げているのと大差ない。
もうダメだと理解した彼女は目をつぶっていた。
最悪の結末が次のフレーズには待っている。
そんな中、俺は迷わず、
我が身を彼女の盾とする選択をとった。




