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冒険にいこう!

「なあアルスー、ちょっと相談があるんだけどさ」


 エミリュラへと移住してきたアルスとセイラ、それにミリーを酒場へと呼び出して、折り入った相談を持ち掛ける。


「なんだアサヒ。こっち系だから俺と付き合ってくれって話ならのらないぞ」

「誰がこっち系だ。違うわ。ちょっとピゼルケンにまで冒険に行こうと思ってて、一緒に行かないかなぁと思って」


 そう口にするや、アルスは席を立ちあがって、瞳に涙を溜めながらこちらの肩を掴んでくるのだった。


「おお……。おお! ついに戻ってきてくれるのか! アサヒ!」

「いや、冒険者はやら――」

「お前のためにすべての準備は整っているぞ! 道具類はすべて俺が整備しておいたし、何から何まで準備は万端だ!」

「いや、道具は自分で――」

「お前も冒険者をたった三か月しかやったことがないんだ。いろいろと精神的にも苦労をかけたと思うし、以前は突き放すようなことを言ってしまった。だが、それは俺の人生における最大の間違いだったと反省している。これからはみっちり教育やメンタルケアまで考えるからな!」

「あの、アルス、えっとね――」

「それと、ミリーやセイラにもちゃんとその辺は言っておく、あいつらはなんだかんだ言っていいやつらだ。とくにミリーなんて表面上は文句ばかり言っているが、内心ではお前のことを結構気に入っていると思うんだ」


 本人を前に言う事かよ。


「だからお前が心配することなんて何もない! 大丈夫だ! 俺がすべての責任を取るから、大船に乗った気でいてくれ!」

「……」


 うーん。

 やっぱ一人で行こうかなぁ……。


 実は、この誘い自体は俺の発案ではなくセイラからの提案なのである。

 俺がピゼルケンに行くことをセイラに偶然話したところ、もしよかったらかつてのパーティで行かせて欲しいと頼まれたのだ。


 アルスは俺をパーティから追放してしまったことをそれはそれは後悔しているらしく、何とかして俺に懺悔ざんげの機会を与えてもらえないかと日々苦心していたとか。

 そこで彼らを誘うことで、そんなことに悩まなくてもいいんだと暗に伝えるつもりだったのだ。


 けど……。

 現段階でとても面倒くさそうである。


「ア、アルスちゃん、そ、そんなにいきなり喋ったら、アサヒちゃんが困っちゃうかもよ?」


 セイラがこれでもかというぐらいに気を払いながら彼へと述べていく。


「あっ! そ、そうか。す、すまない、アサヒ。俺としたことが性急だったな」

「ああ。うん。別にいいって。そんで、ピゼルケンに行く? えっと、冒険者に戻るつもりはないんだけど、ちょっと行く当てあってさ」

「冒険者には……戻らないのか……」


 アルスの昂っていた感情がドライアイスレベルにまで冷え切り、輝いていた瞳には雨が降り始める。


「あーっと、アルスさ。俺、今この都市の市長をやってるからそんな簡単に転職できる立場にもないんだ。エミリュラにいる多くの人に対して責任も負ってるわけだし、それを投げ捨てるわけにもいかないんよ。けど、今回みたく他国やダンジョンに行く機会は今後も増えると思うから、そんとき限りの冒険者ってのでどうだ?」

「そ、そうか。……そうだよな、その通りだ。一度負った責任を投げ出すのは確かに良くないことだ。わかった。それでよければ、むしろこちらから頼みたいくらいだ。今後ともよろしく頼む」


 そんな風に述べて、頭を九十度下げてくるのだった。

 一体どっちが気を使っているのやら……。


「それで? ピゼルケンにはなんで行くの?」


 ミリーの方から質問が飛んでくる。


「ああ、それなんだけど、ピゼルケンにあるダンバル遺跡を探索したいんだ」

「ダンバル遺跡……? 知ってる?」


 セイラへと話のパスを渡すも、彼女も首を振っていた。


「なんでそんなとこ行きたいのよ?」

「人口爆増状態のエミリュラを支えるために、任意生産物の枠を増やしたいんだ。そのためにも大地の宝玉を手に入れたい」

「に、任意生産物?」

「あ、そっちはどうでもいい。とにかくダンバル遺跡にある大地の宝玉がほしいんだ。それがあるとエミリュラをもっと発展できる」

「ふーん。まあ、私は別に付き合ってあげてもいいけど、二人は?」

「もちろんついて行くぞ!」

「みんなが行くんならお姉さんもついていくわよん」

「じゃあ決まりね。そしたら行こっか」



 ピゼルケンはゲーム中盤あたりに存在する国の名前だ。

 この三人は強さで言うと中盤でも普通に通用するレベルなので問題ないであろう。

 ……というか、なんでこんな強い三人が序盤も序盤のセルムの街にいたのか不思議で仕方がない。


「でもこっからだと結構距離があるわよ。エミリュラをそんなに長く空けて問題ないの?」

「まあ政治関連は全部サラが取り仕切ってるから、正直俺がいなくとも……」

「あんたっていちおう市長名なのよね?」

「大丈夫だろ。それに馬車よりもよっぽど早い乗り物を用意するぜ!」


 顔を見合わせる三人を横目に開発所へと連れて行く。

 開発所は研究室よりも広いスペースの大型の物をつくるときに使う場所だ。


「乗り物はズバリ! これだ! ジャジャーン!!」


 かけてあった布を取り払って、最近熱中していたソレをお披露目する。


「えーっと……なに、これ?」

「ふはははは! 車だ! どうだ畏れ入ったか!!」

「い、いや、なんで畏れ入るのよ」

「ミリーやエリナが作ってるエンジンよりよっぽど高性能なんだぜ!? 改良に改良を重ねた特注品だ!」


 なぜだかジト目を送り続けてくるミリーなのである。


「おまけにエンジンができたはいいが、車なんてもっと大変だったぞ! 部品点数が多いから、組み上げると大抵思った通りの形にならねぇからな! 何度この開発所で火事を起こしたことか」

「最近のボヤは全部あんたが原因だったのね」


 自動車の一番の難しさは部品点数が多いこと。

 組み立てると図面通りの形にならないなんてよくある話だが、車はそのハードルが非常に高いのである。


「で? 結局これってなんなの?」

「自動車だ。馬車よりも断然速いぜ! 六人まで乗れて、しかも屋根付き! 中で寝泊まりだってできちゃうんだ!」


 楽し気に語っていく俺を、三人はどこか呆れたような、それでいて安心しているような。


「あんたがいつも通りでなによりだわ。んじゃあこれに乗ればいいのね?」


 車の解説を熱心に始める俺を無視して三人はいそいそと中へ乗り込んでいってしまったので、仕方なく俺も搭乗しピゼルケンに向けて出発する。


     *


 ――のだが、


「「オエェェェェェ」」


 搭乗から一時間もしない内に、アルスとミリーが車酔いして休憩する羽目になった。

 舗装されていない道路な上に、サスペンション性能もいまいちであるため、当然と言えば当然だ。

 一方のセイラはけろりとしている。


「二人にはちょっと辛かったみたいねぇ。アサヒちゃんは大丈夫なの?」

「うん。そういうセイラも大丈夫そうだね」


 彼女は酒に対してもすこぶる強いので、恐らく酔うと言う機能を脳がどこかへ忘れて来たに違いない。


「いやぁ、道路の舗装もその内進めないとなぁ。石油精製でアスファルトが無限につくられてるから、あれも早く使いたいんだよなぁ」

「ふふ、アサヒちゃん、楽しそうね」

「ん? まあこれもすべてはネトゲのためさっ! 夢の引きこもり生活に早く戻らねばっ!」


 こんな具合に、走っては休憩を繰り返して、二日目の夜にようやく目的のピゼルケンへと到着するのだった。


 *


 夜も遅かったので宿を取ることにしたのだが、


「お客さん、申し訳ないが、部屋は残り一つしか空いてないんだよ。ベッドは二つだ。それでもいいかい?」


 セイラと顔を見合わせた後、後ろの方でげっそりとしながら椅子にもたれかかる二人へと視線を送る。


「この二人をベッドに寝かすしかないかしらねぇ」

「そしたら俺らは床かな?」

「あっ、アサヒちゃんの車って中で寝泊まりもできるんでしょう? あそこにしたら?」

「そうだな。んじゃあそうすっか」


 ミリーとアルスを部屋のベッドに横たえ、荷物を置いてから俺らは車へと向かうのだった。

 車の後部座席の席を倒してスペースをつくる。


「そしたら、寝よっか。お姉さん、こんな雰囲気久しぶりだから、ちょっと熱くなってきちゃったかも」

「こんな雰囲気?」


 よくよく状況を観察する。

 低い天井にけっして広いとは言えない車内で二人っきり。

 流れで彼女の提案に乗ってしまったが、この状況はあまりよろしくない。


「あー……、やっぱ俺は宿の床で寝よっかな」


 出て行こうとする腕をセイラががっちりと掴んでくる。

 すると、必然的に彼女の胸にぶら下がる巨大なものが押し当てられてくるわけで。

 しかも、俺が一瞬目を離した隙に彼女は上半身全裸となっていた。


「あの、離して欲しいんだけど。ってかいつ脱いだんだ。秒で半裸になるとかマジックショーかよ」

「お姉さん、アサヒちゃんのことがもっと知りたいなぁ」


 無理矢理逃げようとしたのだが、スルリと彼女の体がまとわりついてきて、気付いたときには彼女が俺の上で馬乗りになっていた。

 おまけに柔道の寝技かと思うほどにがっちりと拘束されており、身動き一つとれない。

 魔法使い職であるというのにすごい腕力だ。


 ――あれ、これヤバいんじゃね?


 意図せずモンスターハウスに飛び込んできてしまったときのような緊張感を背筋に感じながら、この状況にどうやって対処すべきか頭をフル回転させていく。


 セイラは男癖が非常に悪く、世の中のすべての男を食べなければ気が済まないタイプだ。

 セルムの街にいた頃、彼女に食べられたことのない男性なんて数えるほどしかおらず、俺はその内の一人である。


「さあ、アサヒちゃん、冒険者同士のスキンシップなんてよくあることよ? 朝まで遊びましょ!」

「待てセイラ、落ち着け。俺はそういうのに興味がない」

「お姉さんは興味津々よ!! とくにアサヒちゃんの、ココ、にね」


 そう言って、セイラが下半身をさすってくる。


「セイラ、頼むから真面目にやめてくれ」

「アサヒちゃんは、目の前に未知の材料や機械があったら、触らずにはいられる?」

「い、いや、確かに触りたくはなr――」

「でしょう!! お姉さんもそうよ。アサヒちゃんにずーっとお預けをくらって、もう狂っちゃいそうなの」


 息を荒げながら、こちらの服を脱がしていく。

 俺のことをしっかり拘束しているというのに、一体どうやって脱がしているんだ!


「ああ、夢にまで見たアサヒちゃんがようやく食べられる。セルムの街にいた男性で未経験者はあなただけよ!」

「お前は未成年にまで手を出していたのかっ!」

「当たり前じゃな~い。ショタもおじさんも青年も、等しく食べてみないとわからないものよ」


 あー、ダメだ。

 もはや普通のやり方じゃ彼女は引いてくれない。


 酔わない彼女に効くのかわからんが、止むを得ん!


「セイラ、たぶんお前は大変なことになるだろうが、すまん! 【マテリアルクリエイト】」


 右手にそれのエアロゾルを大量に生成して、白い煙として社内へと充満させていく。

 すると、すぐさま効果が表れた。


「あぁぁぁん!!!!」


 セイラは途端に体をのけぞらせながら、ビクビクと倒れていく。


「今の内っ!!」


 俺はすぐさま彼女の拘束から逃れて、自分の服を手に引っ掛けながら車から走り去るのであった。

 決して振り返ることなく。

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