コンドームをつくろう!
「ゴムをつくるぞ!」
いつものごとき勢いでそんなことを言うとエリナとミリーはキョトンとしていた。
「ゴムって、もう普通につくれるじゃない。タイヤとかパッキンとかにすでに使ってるでしょ?」
「いや、そっちのゴムじゃなくて、避妊具のゴムの方な」
避妊具という言葉を出すと、途端に二人の顔が真っ赤に染まっていく。
「な、なんでそんなのつくる必要があるのよっ!?」
「いやいや、超重要な発明だろ。望まない子どもが生まれるから、不幸な家庭や捨て子が後を絶たないんだろ? それに性病だってゴムつけりゃ高い確率で防げるわけだし。ゴムの発明は偉大だぜ」
「そ、そりゃ、そうだけど……」
「それに愛し合う男女の間に間違いはつきものじゃん?」
ミリーの顔がイチゴよりも甘くて赤い顔となっていく。
対するエリナは、間違いという言葉に棘でもついていたのか、小さく俯いていた。
「男女の両方がちゃんと教養を持っていても、妊娠を防ぐ手立てがないってのはやっぱ困るだろ。つーか今までってどうやってたんだよ?」
「そ、それは……」
小さな声となりながらも説明していってくれる。
「え、えっと、動物の腸を使うなんて話は聞いたことあるわ。あとは魚の浮袋とか」
「比較的まともな方なんだな。よかったよ。鉛やヒ素を食うとか言い出さなくて」
「な、なまり?? ヒ素?」
「ああ、いや、なんでもない。やりたいこととしては動物の腸に比較的近いかな。男のやつを何かしらのもんで覆って、外に出ないようにするって考え方だ。さて、じゃあここで必要になる機能ってのは何だと思う」
「あぅ。えっと、それは、その……」
いつもなら我先にと答えを言い合う癖に、二人はモジモジとしたまま答えようとしてこないのであった。
「おいおい、こんなのもわかんないのかよ?」
「こ、答え辛いのよ! あんたにデリカシーってもんはないの?!」
「いやいや、普通に人間の三大欲求の一つに対する、重要アイテムの機能分解だぜ? むしろこれを卑猥にとらえるのは、ミリーの頭ン中がピンク色だからだろ」
「だ、誰がよ!! べ、別に、ひ、ひ、卑猥なことなんて、考えてないわよ!!!」
わかりやすいなぁ……。
「まあいいけど。答えを言えば伸縮性がありながら薄くて破れないものだ。つまり伸び弾性率と強度が重要パラメーターになる。ゴムは使用時に破損するってのが致命的な欠陥になるから、絶対にそうならないようにしなきゃならん」
「『絶対』なんてできるものなのですか?」
エリナから当然の疑問が飛ぶ。
「うーん、まあ世の中『絶対』なんて言い切れるもんはほとんどないけど、可能な限りそれが起こらないようにする。さて問題だ。これから俺たちは0.0何ミリって薄さのゴム膜をつくる。問題を簡素化するために、うすーいゴムの平面膜だと思ってくれ。この膜に何らかの欠陥が起こるとしたらどんな欠陥だと思う?」
創造魔法で薄いゴムの膜をつくって見せる。
問題を平面膜とすることで、二人はようやく思考を回せるようになったようだ。
紙と羽ペンをとりながら、必死にいろんな仮説を出していく。
「膜厚が不均一になる、とかはいがでしょうか。強度、弾性率の不具合になろうかと思います」
「うん。正解。他には?」
「穴が空くとかは? 最初から穴が空いてたら意味ないわけだし」
「それも正解。あとどんなのありそう?」
こんな具合に一通り欠陥の洗い出しができたであろうか。
「こんな風にできあがり物の欠陥を予め予想しておくのは、物を作る上でとーっても大事なことなんだ。最初から予測できていれば、それをケアした開発や生産を行うことだってできるだろ」
「でも、それだって抜け漏れはでるじゃない」
「その通りだミリー!! エアコンで不具合があれば修理屋を派遣するか代替品を渡せば問題ないが、ゴムに欠陥があったらどうなると思う。例えばミリー! お前にお付き合いしている彼氏がいて、その人と行為に至ったとする。だが、気付いたらゴムが裂けてて望まぬ妊娠をしてしまった、なんて自体になったらどう思う!?」
ガスッ!
殴られた。
「あたしたち一応女子なのよ!!? もっとデリカシーもって喋んなさい!」
「いやぁ、今日もミリーは蛮族だなぁ」
「今のは明らかにあんたが悪いでしょうが!」
「まあ、話を戻すとして、そうなったら取り返しがつかない。だからこそ、品証をものすごくシビアにやるんだ」
品証、という言葉に二人は首を傾げていく。
「品証? ってなに?」
「品質保証。そのための検査工程のことだ。品証ってのは生産と同じくらい重要な項目だぜ。製造ラインってのどんだけ突き詰めたって不具合を生じるし、予期せぬエラーも吐くもんだ。それでも世の中に物を出すという以上、可能な限り不良品を無くす努力をした方がいい。今まで作って来た工場にもちゃんとあったんだぜ?」
「まあ、たしかに買った避妊具が二回に一回の割合で壊れたりしたら嫌ね」
「おいおい、お前は好きな人と一夜限りのラブロマンスを考えてんのかよ? 好きな人とは何度もしたいもんだろ! 使用頻度を考えたら、二回に一回どころか1%の不良でも困る!」
ゴスッ!
また殴られた。
「まあゴムに限らず、急ぎで欲しい物とか、絶対に不具合を生じて欲しくないものが、買った瞬間から壊れてるってのはやっぱムカつくもんだ」
なるほどねぇ、と言いながらミリーは俺が創造魔法でつくったゴムのシートの手触りを確かめていく。
エリナもちゃっかりゴムシートをさわさわしていた。
「……二人とも何してんの?」
「い、いや、これはちょっとっ! その、は、初めて見るもんだから気になっただけよっ!」
「そ、そうです! け、決して触り心地を確かめていたわけではないですよ!」
お前ら……。
うーん、二人はたしかに二十歳かそこらの年頃の娘だ。
やはり興味があるのであろう。
「すまん、やっぱこの工場は一人でつくるわ。本当は品証工程をお前らに作ってもらいたかったんだが、これじゃあままならなそうだ」
「な、何言ってんの! やるわよ! やる!」
「そ、そうです! 私もやります!」
「大丈夫かよ……。まあ、やる気があるのはいいことだけど。んじゃあ、二人はゴムに極小の穴があったときに欠陥検査をどうやってやればいいか考えてみてくれ。競争だぞ!」
そう言うとミリーの瞳に炎が宿る。
「エリナ、今日こそあんたをやっつけてやるわ」
「え、ええ。そうですね」
対するエリナはどこか後ろめた気だ。
「ん? どしたの? まさか避妊具ってところにあてられた? あたしだってちょっとは恥ずかしいけど、それはそれ、これはこれだからねっ!」
「ええ。私も頑張ります」
二人で別々に作業を開始していく。
のだが……なんというか、この絵面は我ながらあまりよろしくないな。
製品形状へと成型したゴムを金属棒に装着し、二人はそれをじっくりと眺めている。
装着されたソレをあれこれ触ったり、つついたり、両手で包んだりしている光景は、他の奴らには決して見せられないもので。
しかし、世の中とはどうして良くない方へと進んでしまうのだろうか。
サラがいそいそと実験室へと入って来て、この光景を目の当たりにするのであった。
部屋の状況を一瞥した後、俺へと声をかけてくる。
「……予算の件についてご相談があるのですが」
「ツッコまれないと逆に不安になるんだけど」
「ツッコんだ方がよろしかったのですか? では――」
一呼吸おいてから、サラは、
「実物でアサヒ様が試す際には、わたくしも呼んで下さい」
「「んなっ!!」」
当然エリナたちは驚愕を表明してしまうわけで。
「あー……、うん。量産工場における検査工程だから、実物検査はたぶんないかな。いや、男性側のみでは装着感とかのアンケートを取るかもしんないけど」
「アサヒ様が試す際にはわたくしも呼んでください」
「……。サラってさ、痴女なの?」
「違います」
真顔で答えてくる彼女は一体どこまでが本気で、どこまでが冗談なのであろうか。
「……えっと、それで予算だっけ?」
これ以上この話題に踏み込むのは危険だと判断し、話を戻すことにした。
サラはどうも思考が読めないので、この手のやり取りがしづらい相手だ。
*
予算の話を終え、サラも興味があるからと残る中、ミリーたちが考え付いた検査案を出していく。
「えっと、そしたら、あたしの案ね。ゴムの中に空気を入れて水中に入れるってのはどう? 穴が空いていれば、気泡が出てくるはずでしょ?」
「おっ、最初からいいね。けど、三十点かな。その検査は今回の検査には向いてない」
「な、なんでよ!」
「穴が小さいと、泡が出るまでに時間がかかる。それに泡を見つけるのは結局目視検査になるんでしょ?」
「むぅぅ、そ、そうだけど」
「今回は全品検査をしなきゃならないから、あまりに時間のかかる工程は不向きになる。計算してないからわからないけど、たぶん検査は一個一秒くらいで終わって欲しいかな」
「い、一秒!?」
「量産数考えたらそんなもんよ。百個つくるとかならゆっくりやってもいいけど、一万、十万、百万とつくるともなれば、検査工程に時間はさけないよ」
「そんなに必要なの?」
「需要を考えたらいると思う」
「むぅ……」
次はエリナの番となる。
いつもと違って落ち着いた雰囲気なのだが、彼女はどこか違った緊張感を漂わせていた。
「次は私の番ですね。金属棒に装着しながら電解液に浸けて、通電チェックをするのはどうでしょうか? ゴムは絶縁性ですが、穴があればそこで電流がリークします。どの個品が不良を起こしているかもすぐにわかるはずです」
「おお!! エリナ正解! メキメキ成長しているな!」
答えへとたどり着けたことに、エリナは安堵の表情を浮かべていた。
対するミリーは非常に悔しそうにしている。
「エリナの言う通り、ゴムってのは絶縁性だ。それを生かして、穴が空いていれば逆にそこから電気が流れる。すると不良検査が行えるってわけだ。しかも通電チェックなんて一瞬でできるから、量産ラインを動かしながら全品検査もできちゃうってわけだ」
そんな具合に検査工程をつくりあげていく。
といっても彼女らと話したのは原理の部分だけで、実際の構造をどうするとか搬送とか管理とか創らなきゃいけないものは山のようにあったわけだが。
工程が作られていくのを見ながら、サラが感心したようにコメントを述べてくるのだった。
「こうやって人間に必要なものをアサヒ様はどんどんつくれるようにしていているわけですね。半導体がどのようなものかは未だイメージできておりませんが、待ち遠しい限りです」
悪魔討伐のためにはエッジコンピューティング技術が必要となるため半導体は必須アイテムだ。
サラが首を長くするのも無理はない。
「よしっ! 人が生きていくために必要な技術はだいぶ出そろってきた! 次はなにするか。薬か、それとも電子基板か」
ワクワクと話し続ける俺に対して、飽きないわねぇと肩を竦める女子たちなのであった。




