同棲生活をしよう!
「アサヒ様! おはようございます! 朝はお早いのですね!」
「ああ。うん……」
非情に薄手のシャツを着たエリナが朝の挨拶をしてくる。
胸元が大きく空いているもので、屈んだだけでも多くの男の視線が吸い寄せられることであろう。
「……エリナ、家だとずいぶん薄着なんだね」
「ああ、すみません、お見苦しいところを。自宅では開放的な格好が好きでして……。お気に障るようでしたら変えますが?」
「いや、別にいいよ。裸ってわけでもないしね。家でくらい好きな格好したいだろうし」
薄着というか、シャツ一枚な上にブラすらつけていないため、先っぽの部分が透けて見えている。
おまけにわざとらしく伸びをしてきて、へそまで見せてくる始末だ。
このほかにも、彼女は風呂に誤って入ってきて、逆ラッキースケベを演出したり、超ミニスカで過ごすことによってパンチラしまくってくるなんていう日もあった。
同棲を始めてからエリナはこんな調子で、家事は率先してやろうとしてくれるし、俺のことを色々と気遣うので基本的にはすごくいい子なのだが、同時にエロさをアピールしまくってくる。
自分のスタイルが女としての武器になることを十分に理解しているのであろう。
その一方で、自ら手を出したり、それに類する言動は一切とってこないのだ。
きっとセイラの入り知恵であろう。
まあ、悪さをされないのであれば、俺としては何でもいいが。
「あっ! そう言えばアサヒ様、ちょっと見て欲しい服があるのですが」
なんて言いながら、新しく購入した服を見せてくる。
「あー……。うん。バニー服だね」
どこにそんなの売ってんだよ……。
「バニー服?? というのですか? 可愛い服だったので、買ってしまいました」
「たぶんエリナは似合うと思うよ。兎人だから耳はもう自前のがあるわけだし」
俺の反応が良かったからか、エリナは大急ぎで部屋へを出る。
そして二秒もしない内に帰って来た。
もう着替えていやがった。
「そうでしょうか!?」
「びっくりショーっかよ!?」
なんてツッコみを入れているところに、窓からミリーが入って来た。
「アサヒー、邪魔するわよー」
「お前は盗賊かよっ!? 窓から入んなや!」
「一応、冒険者やってた時は盗賊職よ。ってちょっと待て! エリナのその恰好は一体なによ!?」
露出だらけの彼女の姿を見るや、ミリーがなぜだかこちらに非難めいた視線を向けてくる。
どれだけうがった見方をしても、バニー服は普段着には見えない。
「ああ、これは――」
「ミリーさんには関係ありません」
「え?」
エリナがそう冷たくあしらう。
「そんなことより、不法侵入ですよ。警備隊のライカさんを呼びますよ?」
「べ、別にいいじゃない! 今までも普通に来てたんだからっ!」
「この家は現在私とアサヒ様の居住地となります。そのため、入るのであれば当然『両者』の許可が必要になります」
両者、という部分をわざとらしく強調してくる。
「エ、エリナ……! あんた謀ったわねっ!」
「何のことですか? 別に私は一般常識の話をしておりますよ?」
同棲にここまでの計略を盛り込んでくるとは……。
「い、いや、二人とも今まで普通に俺の部屋に勝手に入って来てたじゃん。いやまあたしかに、プライバシーを守れと何度も言った覚えがあるけど」
「あら、私はアサヒ様との同棲を始めてから、部屋へと入室する際には必ずノックをして許可を得てから入るようにしておりますよ。むしろ、今までのなあなあな状態はよろしくないかと思われます。アサヒ様が指摘されてきた通り、改善すべきかと思います」
あー……ヤバい。
エリナ本気だ。
この子、すんごく計略高い。
「なっ! あ、あんたね! 自分が同棲できるようになったからって、いきなり態度変え過ぎよ!」
「ミリーさんはなかなかしぶといので、アサヒ様の出される課題での勝率が半々と言ったところです。少ないチャンスをものにしようとするのは普通のことだと思いますよ?」
もはや取り繕うつもりもないらしい。
「ぐぬぬぬ、エリナめぇぇ」
「さあミリーさん、不法侵入しないでください」
「エリナの部屋ならまだしも、アサヒのとこに来るくらいいいじゃない! 入り方もちゃんと外からアサヒの部屋に直接乗り込んだわ!」
「いや、窓からは入らんでほしいんだが……」
ただ、さすがにちょっとやり過ぎだな。
意見くらい言っておくか。
「エリナさ、まあいいじゃん。ミリーを締め出すなんて可哀想だろ? 別にミリーまで居候してこようとしてきてるわけじゃないし、友達が遊びに来た感覚で入れてあげればいいじゃん」
「むぅぅぅ……、で、ですが――」
「エリナ、頼むよ。俺はミリーとも普通に接したい」
「……。むぅ。アサヒ様がそう言われるんでしたら入れてあげなくもないですがぁ」
物凄く嫌そうな態度ではあるが、渋々認めてくれる。
「はぁ……まったく。お前ら仲良くしろよ」
「ライバルなんです。ミリーさんのことを人として嫌ってなんていませんよ。ただ、徹底的に戦っているだけです」
「そうよ。別に二人で遊びに行くことだってよくあるんだから! でも、どうしても譲れない部分だってあるのよ!」
「さいで」
朝から無駄に疲れた。
「で? ミリーはなにをしに来たの?」
「別に。とくに用もなく来たわ」
「用もなく窓から入ってくんなや!」
「まっ、正直に言えばエリナがアサヒに無理矢理迫ってないかを抜き打ちで見に来ただけよ。案の定、色仕掛けをしてたけどねっ!」
主に彼女の服を指しながら言ってくる。
俺がエリナに迫るんじゃなくて、エリナが俺に迫るんだ。
「違います! これはちょっと可愛い服を見つけたからアサヒ様に見てもらってただけです!」
「とか言って、そのままアサヒに迫るつもりだったんでしょ!」
「お前らー、喧嘩してるなら俺はタイヤの量産工場つくりに行ってくるからー」
「ダメです! なら私もついて行きます!」
「何言ってるのよ! 不法侵入を主張するくらいならずっと家を見張ってればいいじゃない。アサヒとはあたしが行くわ!」
あー、めんどくせぇ……。
二人を無視してタイヤ工場予定地へと赴くが、二人は金魚のフンのごとく喧嘩をしながらついてくる。
途中でサラと出会って呼び止められた。
「アサヒ様。おはようございます。本日もご機嫌麗しく」
「いや、あんま麗しくないんだけどね。おはよ」
「アサヒ様にお聞きしておきたいことがあるのですが、今後の外交方針はどのようにいたしましょうか? ペルート国と同じようなことを周辺諸国でもやっていくという認識であっておりますか?」
つまり堂々と戦争を吹っかけていくと。
「いや、全然あってない。すべての属国を併合してしまったエミリュラは、今やあらゆるもんが足りていないんから、しばらくは内政強化かな。サラには政治、法律関係を担当してほしい」
「……国の根幹を成す部分ですが、わたくしなぞに任せてよろしいのですか?」
「ミリーが補佐ね。さすがに最終確認は国の代表としてやるつもりだけど、俺そういうのあんま興味ないからさ」
「ちょっと! なんでわたしなのよ!」
ミリーから文句が飛んでくる。
「元貴族だろ? ミリーにはその面の才能ありそうだし、得意分野にも見えるからそれくらいやってくれよ」
「えぇ……」
明かに嫌そうな顔を向けられながら、話を進めていく。
「俺はどっちかというと軍事、経済、インフラ整備の方が得意だから、そちらに務めたい」
「わかりました。では随時相談させて頂きながら、そのように進めていきます」
そう述べていそいそと行ってしまうのだった。
最初はここに移住するだけだったはずのサラだが、今や国の中枢を担う人物となっている。
彼女はそれほどまでに優秀なのだ。
話が一時的に逸れたから喧嘩を辞めるかとも思ったが、結局二人は、一日中いがみ合いを続けるのだった
明日も同じようならさすがに文句を言おう。
*
夜になったためミリーが渋々帰っていった後、寝る前の挨拶にエリナがやってくる。
「アサヒ様、就寝の挨拶に来ました」
朝と同様に、だいぶ攻めている肌着でやってきた。
というか就寝の挨拶ってなんだ。
「ああ、うん。おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ」
と挨拶を終えるのだが、部屋から出て行こうとしない。
「……その、少しお話をしませんか?」
「うん。俺も話しておきたいことがあったから。とりあえず座る?」
なんて呼ぶと、顔をほころばせながらベッドに座る俺の隣へとやって来るのだった。
「えっと、今日はその、すみませんでした。なんだか今日のことを振り返って、今更ながらに反省してしまいまして……」
「ああ。うん。そこは真面目に反省してほしいかな」
よかった。
反省はしているらしい。
「それでアサヒ様はどういったご用件なのでしょうか?」
「エリナ、その服装だと寒くない?」
真冬の季節ではないものの、肌の露出面積が非常に大きく、どう考えても寒いであろう。
「いえいえ、私は体温が高い方でしかも暑がりですので、問題ありませんよ」
「鳥肌立ってるけど」
「よ、よく見ていらっしゃいますね! もっとよく見ますか?!」
とか言いながら、さらにその肌着すらも脱いできた。
「ちょっと待て脱ぐな!」
「なぜですか? 下半身ならまだしも上半身くらい良いじゃないですか? 男性の方は夏になると半裸となられる方が多いです。男女差別はよくないとアサヒ様もおっしゃられていたじゃないですか」
胸にぶら下がる巨大なそれを揺らしながら、訳の分からんことを言ってくる。
「それは『男女差別』をいい様に利用した男女差別搾取だ」
「だ、男女差別搾取……?? と、とにかく! 私は朝も言った通り、どちらかというと開放的な方が好きなんですっ!」
「今度エリナのお母さんに真相を聞いてみよっかなー」
「さ、最近そうなったんですっ!」
はぁ……、と大きくため息をつきながら、暖かい服を取り出して彼女に羽織らせる。
「さすがに風邪をひく。無理するな」
「で、ですが――」
「ちゃんとお前のことは見てるから。無視してるわけじゃない」
そんな風に述べるとエリナは俯いてしまう。
「……アサヒ様、そろそろ少しくらいは反応してくださってもいいです。私だって鋼のメンタルというわけではないのですよ」
なんて、虫の鳴き声のような音量で述べてくる。
「エリナ。前も言ったけど、俺はそう言うことに興味がない」
「では私と、してみませんか?」
床を見つめたまま、そんなことを。
「してみれば、本当に興味がないのかどうか、わかるかもしれませんよ? 聞くところによると、とても気持ちの良いものだそうですし」
そしてそのまま、吐息がかかる距離にまで迫って来た。
「アサヒ様……私は、興味があります。とても興味があって、でもそれができない現状に狂ってしまいそうです」
「どうして興味があるの?」
「それは……、答えずとも、わかるんじゃないのですか?」
「ならエリナこそ、どうして俺が興味を持たないのか、わかるんじゃないの?」
彼女の拳が握られていくのを目の端にとらえる。
「お前のために言っておくけど、別にエリナだからってわけじゃない。ミリーもリューナもライカも、全員だ」
「どうして……、なのですか?」
彼女の声が震え出してしまう。
「未来がないからだ」
「……意味が、よくわかりません」
「だよな。エリナ、一つ聞きたいことがある」
改まって彼女の顔を見据える。
「もし俺が、『制限なくエリナの言う事を本当になんでもすべて聞く』と言ったら、お前はどうする?」
「なんでも……?」
「そうだ」
そう述べて彼女に羽織らせた服をはだけさせる。
「今なら、エリナの言う事を何でも聞くよ。エリナは、それをどう思う?」
「それ……は……」
唾を飲み込む音と共に、エリナの手がゆっくりこちらへと伸びてくる。
そこから、彼女はもう言葉がでなかった。




