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エンジンをつくろう!

 あれから、幾度かの軍事衝突を経て、ペルート国から従属願いが出されることとなるのであった。

 これにより周辺の国々はすべてこちらに従属したこととなり、エミリュラはいくつもの都市を抱える国家へと成長を遂げたのである。


「さて、ペルート国との問題も無事決着がついたし、国土と人口が馬鹿みたいにデカくなっちまった。そこで、エミリュラ国は国土強靭化を行っていきたい!」


 市長官邸にてそんな宣言をしていると、いつものごとくミリーから、なにまたわけわかんないこと言ってるのよ、という視線を向けられ、エリナは苦笑いを浮かべていた。


「えーっと、アサヒ様、一体なにをされるのでしょうか?」

「インフラ整備をやるぞ! 任意生産物は無限の原材料を吐き出し続けるから、物には困っていない。というか最近はつくり過ぎて倉庫を圧迫し始めてるから使わないとヤバい! そういうわけで、各都市に上下水道、電力、ガスおよび道路交通網のインフラ整備していく」

「新たに我が国となった街々を発展させていくと言うわけですね」

「そうだ。次いで内燃機関だな。これまで動力はすべて俺の創造魔法を頼りに作ってきたが、エンジンやらポンプやらは、いい加減自分らで作れるようにならないと、どう考えても手が足りない」


 本当は動力を化石燃料に頼らず、すべて電動化してしまってもいいのだが、今は電磁気学の進捗がダメダメなのでその選択肢は選べない。

 エミリュラにある学園では学生たちにそのあたりを重点的に学ばせているので、これから芽が出るのを待つしかないであろう。

 ちなみに、エミリュラに作った学校は学園と呼べる規模にまで発展している。


「内燃機関とはどういったものなのですか?」

「簡単に言えば動力だな。動力って何かわかる?」

「えっと、風車とか水車とかでしょうか。あとはアサヒ様が創られているエンジンとか」

「その通りだ。風車は風の力、水車は水の力で動力を得ているが、内燃機関は化石燃料を燃やして動力を得るんだ」

「発電設備と同じというわけですね」

「そ。けど、ちょっと違う部分もある」


 内燃機関の簡単な図式を描いてみせる。


「発電機だと魔素を熱に変えて、その熱で水を蒸発させて、その蒸気の圧力でモーターを回していた。熱がモーターを直接回しているわけではなく、水を沸騰させることで回転力を得ている」

「ですよね。今回も水を蒸発させるのですか?」

「いや。機関車って乗り物があるんだけど、その乗り物がまさにそれで、石炭を燃やして水蒸気の力で列車を動かすんだ。けど、水蒸気駆動の内燃機関にはいろいろと弱点があるんよ。なんだと思う?」

「……沸騰するまでに時間がかかる、とかでしょうか? あとは動力のオンオフが切り替えにくいとか」

「その通りだ。さて、この問題を解決するにはどーすればいいでしょーか?」


「沸騰である必要がないんじゃないの?」


 考え込んでしまうエリナに対し、ミリーからあっさりと回答が述べられる。


「おっ! いいねミリー、沸騰である必要がないっていうと、つまりはどういうこと?」

「液体って気体になると体積がだいたい1700倍に膨張するでしょ。あんたが見せてくれた図式だと、狭い空間に液体を入れて、それを気体にすることで押し出す動力を得てるわけじゃない。これが基本原理なら、液体→気体って変わる機能は沸騰である必然性がない気がするの」

「おおおお!! ミリーすごいぞ! 正解だ!」


 わしゃわしゃとミリーの頭を撫でると、半分キョトンとしながらもミリーは誇らしげにはにかんでいた。

 対するエリナがどんな顔をしていたかは言うまでもない。


「蒸気機関には石炭と水の二つが必要になる。だから必然的に小型化ができないし、ミリーが言った通り水の蒸発は気液変換のオンオフ応答性が悪いんだ」

「それを解決してくれるものなんてあるの?」

「まあそう焦るなって。今見せてやるよ」


 用意しておいた石台の上にごく少量のガソリンを取り出して燃焼してみせる。


「今回はこれ――ガソリンを使う。石油から精製されるもので、蒸気機関における石炭と水の両者の役割を担うことができるんだ」


 目の前で燃やしてみせることで、二人ともどういうことかを理解したのであろう。

 感心した態度で燃焼し終わった場所を眺めている。


「そっか。ガソリンが燃えると気体になるから、それでいいのね」

「そう。できるのは二酸化炭素で火をつけたらすぐ燃える。燃料でありながら、気液変換もできるって優れものなんだよ」


 次は中身がわからないようにしながらピストン構造を創造魔法で作り上げる。


「内燃機関をつくるときに難しいのは、吸気と排気をどうやってやるかなんだ。ガソリンを燃やす以上、酸素――まあ普通の大気でいいんだけど――これを常に吸気する必要がある。一方で、発生した二酸化炭素は次の燃焼を妨げるから排気しなきゃならない。でも、さっき言った通り、高圧によってピストンを押し出すから、系は密閉にしなきゃいけない。矛盾してるだろ?」

「吸気と排気の瞬間だけ開閉する仕組みが必要ってわけね」

「そうだ。そしたらここからが問題ね。二人ともこの矛盾を解消する構造を図面に書いてみてくれ!」


 二人が羽ペンを取り、頭を捻りながらいろんな図を描いては紙を丸め、また描いては紙を丸め、を繰り返していた。



 しばらくの時間を置いて、二人の満足したものができあがるのを待つことにし、できあがったものをそれぞれ発表してもらう。


「いやぁ、二人とも面白い構図を考えるなぁ。よし! じゃあやってみっか!」


 これを実際に手作業で試作するとなったら大変だが、幸いにも俺には創造魔法がある。

 二人が図面にしたものを作ってみて、駆動させてみることにした。


 結果は――、


「うぅ~、吸気はうまくできたのに……」

「私のは燃料注入がうまくいかないなぁ」


 二人ともできあがり物の不具合と睨めっこをしながら必死に頭を回している。


「そしたら、明日から昼食後に必ずこの時間をとるから、何度も挑戦して、ちゃんと満足のいくもんができるまでやろうぜ」


 静かに頷くエリナとミリーはすでに次のアクションが頭の中にあるようだ。

 その場で紙に新しいのを書き出して、どこをどう変えていくかを必死に考えるのであった。


 *


 そんな日々が過ぎていき、何度も何度も試すことでようやく二人のエンジンが完成する。


「動いた! 動いたよぉ! やったぁぁ……!」


 二人とも最初は競争だったというのに、途中から互いにアドバイスを出したり、一緒に考えたりするようになって、それが上手くいくと抱き合いながら大喜びをするのだった。

 実際ものづくりとはそういうものだ。

 最初はうまくいかないんだが、何度も何度もやってようやく動くようになる。


「よかったな、二人とも」

「うん。アサヒがいっつもすんなり物を組み上げてるから簡単なもんかと思ってたけど、結構難しいのね」

「そりゃそうさ。簡単にできりゃ苦労はねぇよ。……そんでどうだ? 思った通りのもんができたときの気持ちは?」


 そう聞くと二人して目を見合わせる。

 そして、笑顔で答えてくるのだった。


「「さいっこうっ!!」」


 メキメキと成長していく二人は頼もしい限りで、もし俺に何かあったとしても、このエミリュラを支えてくれることであろうと思うのだった。


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