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招かれざる来訪者

 最近のロド村は、人口流入、新規の産業立ち上げ、異種族許容、教育の拡充、インフラの整備、これらが相まって、急速な拡大を遂げていた。

 村は街と呼べる状態にまで発展しており、最近では新たに外壁を建設したばかりだ。

 定住している種族も人族、兎人族、魚人族、蜘蛛人族のほかに、犬人、狼人、蜂人が加わっている。


 問題が発生するとすればそろそろかなぁ、なんて思っていたら、悪い予感というのは当たってしまうもので、エリナが深刻な表情で俺の部屋へと飛び込んでくるのだった。


「アサヒ様っ! 大変です!」

「どしたー? 貴族とか領主の類でも来たかー?」


 それを言うと、エリナはキョトンとした表情を返してくる。


「や、やはり、アサヒ様は未来がお見えになるのですね……?」

「いや、これは単純に想定された内容だよ。いつの時代もそうだからね」

「時代……?」

「あーいいのいいの。そしたらとりあえず会いに行くかな。で? 誰が来たの?」

「あ、えっと、この辺りの領主となるクエール・デンナモです」


 うーん、知らない名前だ。

 やっぱゲームのときに出てこないキャラもいっぱいいるもんなんだな。


 部屋に置いてあったライフルを担ぐと、エリナはぎょっとした顔となるも、それ以上は何も言ってこない。


 外門へと向かって進んでいくと、領主とやらはすでに街中にまで入ってきていたみたいで、中央広間のあたりで遭遇することとなった。


 クエールは一言で言うなら豚のような奴で、馬上で不敵な笑みを浮かべながら、ロド村の住民に対して虫でも見るかのような視線を送っていた。

 ここまでいかにもな奴が出てくるとは思っていなかったが、世の中いるとこにはいるもんなんだなぁと感心してしまう。


「えーっと、あんたがクエなんとかさんかい?」

「貴様っ! 無礼だぞ! 領主であるクエール様になんて口の利き方をするんだ!」


 なんて傍にいる騎士風の男に叱られてしまう。

 だが、俺はそれよりも騎士たちの風貌に気を取られてしまっていた。


 あの格好のNPCは見たことがある。

 ミストラルバースオンラインでは基本的にフレンドリーファイヤーができず、通常村や街にいるNPCを攻撃するということができない。

 だが、ある特定の手順を踏むことで街の住人を攻撃することができ、すると、どこからともなく、目の前に立っている騎士と同じ格好をした者たちが現れて、こちらを処罰しに来るのだ。

 強さはたしか序盤から中盤に差し掛かるあたりで登場する王国騎士と同じ程度だったはず。


「よいよい、ロド村に住まう蛮族どもに教養などあるはずないであろう。わしは寛容な領主だから、それくらい気にしないぞ。それで、お前が村長のアサヒとやらか?」

「そうだけど? 何の用?」


 って聞いておきながら実は予想がついているけど。


「お前は最近この村で不当に物品をつくり、あろうことかそれを国内外で販売しているそうだな。わしが調べた結果、この村はいくつもの法律に違反していることがわかった。よって村長の貴様をこの場で逮捕する!」


 そう言って騎士たちが前に出て来ようとするも、騒ぎを聞きつけたリューナとライカに阻まれてそれ以上を進むことができない。

 蜘蛛人と魚人は中盤に登場するキャラで、強さで言えば騎士たちよりも明らかに上だ。


「二人とも、手は出さないでね」

「約束できかねるの。この不届き者どもが危害を加えるのであれば黙ってはおらん」

「そうだ。アサヒ殿に何かされては困る」


 そう述べて敵意満々にクエールを睨みつけるのだった。

 一体多ならまだしも、ここいる騎士たちはたかだか十名程度。

 リューナやライカのほかに、周囲にはクエールへと敵意を向ける蜘蛛人、魚人は多数いる。

 どちらが不利であるかは言うまでもない。

 だが、それでもクエなんとかは余裕の表情を浮かべていた。


「法律に従わないのか? これだから野蛮な蛮族どもは。まあ、仕方ない、保釈金で許してやってもいいぞ? 金貨三百万枚分だ」

「さ、三百万……っ!?」


 エリナが息を呑むのも当然であろう。

 彼の言った額は俺がこれまで稼いだ分に加えて、今後儲ける分までもを含んでいる。


 予想通り、彼はここら一帯の既得権益で利益を得ていたのであろう。

 それがロド村によって脅かされているため、その対処に来たというわけだ。


 利権とは技術によって置き換えられてしまうと後戻りができない場合が多いので、法律で縛ったりそれが自分たちの領域に入って来られないように外交防衛するのが常だ。

 だが、今回俺たちは急速に文明を発展させてしまったため、対処が追い付かなかったのであろう。


 よって、彼の取り得る手立ては俺が持つ利権を奪うというやり方になる。

 保釈金というのはそれを言い換えたに過ぎない。

 まったく、どこの世界でも、クズはいるんだな……。


「はぁ……。話になら――」

「そんな法律、存在しないでしょ?」


 俺が喋ろうとしたところで、横やりが入る。

 凛とした碧眼を持つ彼女は、元大貴族の令嬢様だ。


「なんだ小娘。お前のような村娘に法律なんて難しい言葉はわからんだろう」


 ミリーが襟を正して挨拶をする。

 その様は今まで見たことのないようなもので、おそらくは貴族の挨拶なのであろう。


「ご挨拶が遅れました。私は、ミリー・リエルト・テレミカルフと申します。クエール様がおっしゃる法律というのが、わがルーペルト国の一体どの法律のことを指しているのか教えて頂けますか?」


 クエールはミリーの容貌をじっくりと眺めたあと、何かに気付いたのであろう。


「なっ……!? テレミカルフの御息女!? なぜこんなところにっ!?」

「質問に答えていただけますか?」


 一瞬、脂汗を浮かべたクエールであったが、徐々に立て直してくる。


「ふ、ふんっ! 貴様のような奴に答える義理などない! 第一、お前はテレミカルフの面汚しであろう! そんな小娘がわしにたてつくとはいい度胸だ!」

「論理をすり替えないでくださいっ!」

「知っているぞっ。お前はゼイベルア家との婚約に嫌気がさして、家を抜け出したおてんば娘だそうじゃないか! このテレミカルフの面汚しめっ!」

「法律の話とは関係ありません!」


 ミリーは出来得る限り平然を装おうとしているが、その眉がわずかに寄っている。

 それを見たクエールの唇はさらにつり上がるのだった。


「実は、わしはこう見えてゼノン・ゼイベルア様とは親身にさせていただいていてな。よくあのお方と話すんだ。知っているぞ」

「……っ! やめて! 言わないで!」


 ミリーの表情がいよいよ歪んでしまう。


「お前もう、()()()()、なんだそうだな」

「やめて!!」


 お手付け、という言葉にミリーの拳は爪が食い込むほど握られてしまう。


「そうなんだろう? 大事に守っていたそうだな。いつまでも拒否し続けてきたから、無理矢理にしたと聞いたぞ。ゼノン様はさぞ楽しかったそうだ」

「い、言わ、ないでよぉ……」


 やがてミリーは消え入るような声になってしまう。


「いい声で泣くそうじゃないか! ゼノン様は何度もお前に――」



 ダァン!



 躊躇わず引き金を引いて、彼の頬を銃弾が掠める。


「それ以上他人のプライバシーに関わることを喋ったら、法律とか関係なく排除するから」


 クエールの頬を血が垂れていき、彼の顔が怒りに染まる。


「貴様! わしの顔を傷つけて、許されると思ってるのか!?」

「エリナ、ミリーのところに行ってあげて」

「おい! 無視するな! わしを誰だと思っている!」

「許さなくていいよ。元々相手にするつもりもなかったから。もう帰っていいよ。この街への侵入は村長として今後許可しない」

「なぬぅ!? 貴様! わしに向かって――」


 ダァン!


 再び彼の頬を掠める。


「もう一度言う。次は警告だ。聞かない場合は命を奪う」

「ぬぐぅぅ!! ぐぬぬぬぬ! 行くぞ! 貴様! こんなことをしてタダで済むと思うなよ!」


 そんな捨て台詞を吐いて、クエールは言ってしまうのだった。

 手勢十名程度では蜘蛛人や魚人、その他異種族に囲まれている状況が不利だと思ったのだろう。


 そんな彼には聞こえない声で、独り言のように呟く。


「次お前が来る時こそ、タダでは済まないよ……」


 この後の展開が読めているだけに、そんなことを言ってしまうのだった。


 ミリーの元へと歩み寄る。

 この中で唯一、精神的に傷を負わされたのは彼女だ。


「ミリー、大丈夫か?」


 彼女の心境を考えれば俺は声をかけるべきではないかもしれないが、それでも心配は心配だ。

 だが、案の定彼女は走ってこの場から逃げてしまうのだった。


「あっ、ミリーさん!」

「待って」


 追いかけようとするエリナを引き留める。


「……俺が行くよ」


 我ながら、なんとも間違った選択をしてしまうものだな、なんて思いながら、彼女の去っていった方へと走り出すのだった。

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