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宣伝会をしよう!

 さっそく学園へと移動し、初の宣伝を行わせてもらう事にする。


「担当教員に伝えておきました。本当にこの後すぐで大丈夫なのですね?」

「むしろ来てすぐに宣伝させてもらえる方にびっくりだわ。なんなら今日そのまま生徒を何人かお持ち帰りするつもりでもあるからな」

「はい、それは構いませんよ」


 いいのかよ……。

 この学長、本当に学長か?


「それで、宣伝というのは一体何をされるのですか?」

「あ、ああ、それね。ふっふっふ。今日宣伝で使うのはこれだ!」


 最近ずっといじり続けてきた物を取り出して見せる。


「……これは?」

「時計だよ。時を正確に刻む機械」

「これが……時計なのですか?」

「うん。時計って言ったら日時計が一般的だと思うけど、これは日時計より全然正確だよ」


 そもそも日時計は季節に応じて時刻が変わってしまうし、晴れていなければ使えない。


「一番短い針が日時計で示される時刻ね。それをさらに六十分割したのが分針だよ。まあまだ結構誤差のある機構だから改良の余地はありかな。微細加工と電池がつくれるようになりゃクォーツ時計が作れるからもっと正確になるんだけどなぁ」


 エリナとサラは興味深げに時計を覗き込んでいる。

 この二人の反応はまあまずまずと言ったところだろうか。

 リューナにはいまいちのようだが、まあいいであろう。



 教室へ入ると、生徒は五、六十人近くおり、こちらを訝し気に眺めてきた。

 教師でもない俺がいきなりやってきて宣伝まがいのことを始めるともなれば、当然そういう反応となろう。

 対してサラには――、


「ああ、学長様っ! 今日も麗しい」

「なんて神々しい方なの。この前雨の日に外をお歩きになっていたら、あまりの神々しさに雨の方からサラ様を避けていたそうよ」

「凶悪な魔獣ですら学長様の前では美しさに見惚れてしまうそうよ」


 なんて具合に、滅茶苦茶人気があった。

 うーん。

 この人ホントにロド村に来ちゃっていいんだろうか。

 いろんな意味で不安だ。


 なんて思ってしまったが、こればっかりは本人の決めることなので何も言う事は出来ない。


「皆さま、すでにご承知おきの通り、本日はわたくしの知り合いのアサヒ様からお話がございます。どうぞお聞きくださいますようお願い申し上げます」


 そんな風に紹介されて、説明を始める。


「ロド村のアサヒ・テンドウって言う。この教室にいる生徒さんたちは錬金術師を目指していると思うが、是非うちの村に来て欲しいと思って今日はその宣伝に来ている。ロド村には新たな学校を開いて、科学者の擁立を始めようとしている」


 生徒たちからは当然胡散臭そうな表情を返されてしまうわけで。


「おいおい、クレイグラスの生徒に話すことかよ」

「科学者ってなんだよ?」

「どうせ田舎のお遊びだろ」


 なんて声が聞こえてきた。


「その成果物として、まずはこれを見てもらおうと思う」


 布で覆っておいた先ほどの時計の姿を露わにする。


「……なにあれ?」

「見たことねぇな」

「透明な箱?」


「みんなは知らないかもしれないけど、これは時を正確に刻む機械だ。日時計は知っていると思うけど、それの機械版かな。もちろん夜でも駆動し続ける」


 みな半信半疑となりながら時計を眺め続ける。

 しばらくその時計観察タイムを挟んでから質問が飛んできた。


「どうやって動いてるんですかー」


 言葉尻には敬意こそないが、やはり錬金術師の卵というだけあって興味はあるようだ。

 リューナとエリナに合図して、用意しておいた紙を配っていく。


「これはゼンマイ式で動いている。一度回せばだいたい一日は持つかな。巻く作業は子どもでもできるレベルの簡単なものだ」


 そう言いながら目の前でゼンマイを巻いてみせる。

 配った紙にはゼンマイの仕組みのみを記しており、頭のいい者であればメカニズムを理解できるであろう。

 でも、ポイントはそこじゃない。


 生徒たちがふーん、と微妙な反応となる中、何名かが手を挙げてきた。


「質問だね? じゃあまず君から。名前は?」

「シーオと言います。その透明な板は何ですか?」

「ガラスだよ」

「……ガラス? それがガラスなんですか?」

「そうだよ」

「なにから作られているんですか?」

「石と塩かな」

「それは知っていますが、どうやってそんな透明度を出しているんですか?」


 この質問は想定していたので、俺は持ってきていたガラス板を取り出して、彼へと手渡す。


「それは企業秘密かな。うちの村に来るなら教えてあげるよ。まだ量産工場はないけど、これからつくる予定だよ。窓に使って行こうと思うんだ」


 この世界にはガラスというのが都会などのごく一部にしか存在しない。

 一般的な家庭の窓には木の板がはめられているだけなのだ。


 次の者を指名する。


「エイティアと言います。この紙はどうやって作ったんですか?」

「それも秘密かな。でも冒頭だけ言うと、セルロースの脱色を極限までやっていく。セルロースは木片ね。今度量産工場をつくるから、ロド村に来たら実体験できるよ」


 疑問にすべて答えてもらえないことに、エイティアと名乗った女性は歯がゆそうな表情を浮かべている。


「次は?」

「ランベルです。この紙の記載物はどうやって書いたんですか?」

「オフセット印刷だよ」

「おふせっといんさつ……? とはどんな印刷方式ですか」

「秘密」


 皆の表情が変わっていくのを肌で感じ、おおよその目的を達成できたものと認識する。


 そろそろ気付いたであろう。

 この宣伝会のポイントはゼンマイ時計が時を刻む機械として優れているか否かではない。

 ポイントは、この時計にしろ、配布した紙にしろ、印刷物にしろ、どのようにしてそれを用意したかにある。


 たしかに、現状ではすべて俺の創造魔法頼りとなっているが、これらを量産できるようにするのはそう難しくない話だ。

 モノづくりを目指す彼らであれば、できあがり物の優劣もさることながら、準備過程の次元が違うと理解できるはず。


「よしっ。とりあえず今日はこんな感じにしようかな。サラ、生徒たちの時間をくれてありがとう。もしロド村に来たいって人がいたら言ってね。衣食住はこっちで用意するから。ただしロド村の学校は勉強もしながら実践的な仕事もこなしてもらう。学費は取らない。次は一か月後にクレイグラスに来るから」


 まあ、さすがに即決できる者はいないであろう。

 次のタイミングで来たいと思う人がいればいいかな。


「お時間を頂きありがとうございました。ちなみに、わたくしもアサヒ様にご同行させて頂くつもりですので」


 サラがそんなことを述べて教室を後にする。


「そしたら帰るかな。えっと、サラは荷造りとかしたいよね? 半日くらいなら待てるけど」

「いえ、部屋へ寄らせて頂ければそれで構いません」


 なんて言って、彼女は革製のアタッシュケースと、布に包んだ彼女の身長よりも大きい何かを手にしてくるのだった。


「……えっと、そのデカいのは?」

「武器でございます。こう見えて昔は冒険者をしておりましたので」


 えぇ……。

 そもそもお前いくつだよ。

 見た感じエリナたちと同じくらいの年齢に見えるけど、過去に冒険者をやってて、しかも今は学長ってどんなキャリアだ。

 っと思ったが、とくにツッコみも入れずに帰り支度をしていく。


 街の門でセルム行きの馬車を予約し出発を待っていると、さっきの学生たちがやってきた。

 たしか質問してきた者たちと、そのほかに数名いる。


「あ、あの」

「ん? まだ質問あるの? けど残念、こっからは有料だなぁ」

「いえ、その――」


 思い詰めた表情から、男――たしかシーオと言ったか――は頭を下げてきた。


「俺らをロド村まで連れて行ってくれ!」

「……え?」

「あんたの見たこともない道具に正直ひとめぼれした! だから頼む! 俺らをあんたのところで学ばせてくれ!」

「えぇ……。いや、今日生徒を持ち帰るって冗談で言いはしたけど、マジで言ってんの? ここでの生活とかいろいろあるでしょ? そんな即決しちゃっていいの?」

「はいっ!」


 生徒たちが皆頷いてくる。

 動揺し続ける俺に対して、サラが補足を述べてくれた。


「アサヒ様、ご存知ないようですので少しだけお教えしておきますと、錬金術というのは通常貴族のお遊びとなります。錬金術で生計を立てるのはこのご時世非情に難しく、その一方で、彼らのように本気でそれを夢見る者も存在します。そんな彼らにとって、クレイグラスでの学びがいかに不毛であったかは本人たちが一番知るところかと存じます」


 ……なるほど。

 たしかにこの世界の文明水準から考えて、錬金術師を名乗る者にできることなど限られていよう。

 元の世界でも、錬金術師は科学の発展にこそ貢献していたが、まともなお金を生み出せるようになったのは産業革命以降だ。


「というか、それがわかってて学長のサラは何もしなかったのかよ……」

「何とかしようとはしましたが、わたくしにはその術がございませんでした。いくら願ったり、あるいは予算を持ってきたところで、人々の生活を豊かにできるような錬金術を生み出すことはできないのです。その点、あなた様の技術はとても魅力的に見えました。わたくしがロド村へと行くのを即決した理由でもございますよ」

「……そう。わかった。まあなんにしても、まさか本当に今日の今日でついてくる奴がいるなんて思ってなかったよ。そういう志なら願ってもないかな。わかった、俺が全員面倒みてやるよ」

「はいっ! よろしくお願いします!」


 結局、彼らを着の身着のまま来させるわけにもいかなかったので、荷造りや諸々の手続きをさせて、二日後にクレイグラスを発つこととなるのであった。

 早速学生がゲットできたのは思わぬ収穫だ。

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