42:最後通牒
「誰だ! ここは許可なき者は立ち入りが禁じられている!」
「邪魔だ。獄苦粉躯」
門番は抵抗を許すこと無く消し去る。これくらい許されるだろう。
「き、貴様何をしている!? ここをヒシズ王国の王城と知っての狼藉か!」
「じゃあ案内してもらおうか。生者晦冥、《支配》」
「――仰セノママニ」
一瞬にして皮が焼け落ち、服を着た骸骨となった警備員は、俺の命令に従い廊下を歩き始めた。
さすが王城、かなりの豪華絢爛さだ。王都以外の街から搾取しているのだろう、と理解するのは容易かった。「領主館の大きさの建物がいっぱいある」というのはまさにその証拠。
それに他の人々は、俺たちから金を奪おうとか、そういった魂胆が見えた。だが王都の人々はただ欲望のままに生きているようだった。胸に目が行くなんて貧しい者はしないはずだ。
明日の未来すら見えていないのだから。
「きゃあ! が、骸骨!?」
「獄苦粉躯」
「ひいぃ!?」
「獄苦粉躯」
度々廊下で誰か――文官などの役人だろう――と遭遇するも、もう案内役は事足りているので消し去っていく。そうすれば皆等しく血と肉の塊にしかならない。
死してなお、傲慢さが滲みでている《《目》》が転がってくるも、全て踏み潰すか蹴飛ばす。どちらにせよ跡形もなく潰れるのだから変わらない。
「……ネビュトス殿、戦場ではそのような事はしないで頂きたいでござる」
「もちろんさ。こいつらは戦いを生み出した元凶なのだからこうしているだけ。俺としては殺した相手は燃やして土に還すつもりさ。不死者に変えることもあるだろうけど、兵士にそれをするつもりはないよ」
「それを聞いて安心したでござる。――拙者も、平和のためには、ネビュトス殿の目的のためにはこのような残酷さも必要だと分かっているでござるよ。綺麗ごとばっかり言っていられないということもでござる」
「なら良かった。俺も時には間違いを犯すこともあるだろうから、そのときには正してくれ。その逆もまた然りだ」
「承知でござるよ」
誇り高き日本の武士。彼らが礼儀を重んじる人々であることは重々分かっている。それでも俺の進む方向へ着いてきてくれたことにはとても感謝しているのだ。不必要な殺生は控えよう――もちろんこの城の人々を除いて――と心に誓った。
「到着デゴザイマス」
「ご苦労だった。せめてもの感謝だ。回帰錨霊:帰還」
そう呟くと同時に、骸骨と入れ替わるように錨が現れた。これが回帰錨霊の能力だ。
「転移」
もちろんすぐに回帰錨霊を戻しておく。これでよし、だな。
「行くぞ」
そう言い放ち、扉を思い切り蹴飛ばした。無様に吹っ飛んでいく扉。その向こうで突然の事態に目を丸くして驚いている一人の男がいた。
溢れんばかりの肉が存在を主張しており、衣服は豪華なもので頭の上には王冠のようなものがちょこんと乗っかっている――いや、彼が大きすぎて小さく見えるのだろう。単体で見ればしっかりとしたものだ。
「やぁ。ヒシズ王国の国王さん。ちょっと話があるんだけどさ――」
「誰だ貴様は! 我が城に土足で踏み入れる無礼者め! 警備の者はどうした!」
「全員肉塊になったよ。あんたの腹みたいに」
「ぐぬぬ……! 近衛兵! 出てこい!」
気持ちの悪い顔がしかめっ面へと変わるのと同時に大きな音を立てて四人の全身鎧が入ってきた。
「時間がないんだわ。四重詠唱 ・獄苦粉躯 」
「なっ……!?」
その様を見て口をあんぐりあけ、言葉を失っている国王。百面相みたいなもんだろうか。やっぱり国王ともなれば笑いのレベルが違うんだな。表情がコロコロ変わるのは滑稽だ。
「ははっ、さすが。面白いな。じゃあ本題に入るぞ」
「は、早く申したまえ」
お、切り替え早いね。腐っても国王なだけはあるな。
「簡単さ。俺たちは最後通牒をしに来たんだよ。選べ――服従か、死か」




