31:立派な主権国家だよ。国名決めてないけど。
モミジとの勝負が終わり、通話でツァトリーとアリアに執務室へ集合するよう伝えた。そろそろ日没なのと、予定より早く訓練が終わってしまったからだ。
「ただいま~。作戦はどうなってる?」
「おかえりなさいませ陛下。こちらは順調に進んでいますよ。ヴィルが兵法に明るいので助かりました」
「いえいえ、それほどでもないさ。妾はただの執事で少し知識を得る機会が多かっただけのこと。アリアこそ地理に詳しくて助かったよ」
「上手くいってるようで何よりだ。そろそろツァトリーも来る頃だろう、集合したら少し説明をしてくれ。日付が変わる前に準備を始めたい」
「了解です」
そうして話が終わった瞬間、空間が歪んだ。そこから出てきたのはツァトリーだ。噂をすればってやつだろうか。
「あれ、みんな来てるんだ。待たせちゃったかな」
「いや、俺とモミジも今来たばっかだよ。さ、座ってくれ」
ツァトリーが座ると同時に俺も座った。
そして説明役の二人が立ち上がり、プレゼンテーションのような形式になった。
「では今から、本日と明日以降の予定について説明させていただきます。まず、本日は陛下による兵力増強に費やします。具体的には、十万の兵がいれば絶対に失敗はしないと確約できます」
「妾は数万もいれば充分だと思ったが、アリアがどうも譲らなくてな。さすがに十万で負けることはないだろうと妾も約束する」
さ、さすがに多くないか十万は……なんて思ったが、計画は彼女たちに一任したのだからこんなことで文句を言う訳にはいかない。黙って話を聞くことにしよう。
「本題は明日以降です。明日の明朝よりアルカ大陸へ出立。その後一番近い街であるゲーテにて冒険者登録をします――」
アリアはそこから数分ほど説明をしてくれた。時々ヴィルが解説を挟む感じで。
「じゃあ解散です。陛下、中庭に来ていただけますか? そこで不死者の創造をお願いしたいです」
「任せてくれ」
「あ、そうだ。陛下……もう一つお願いしたいことが」
「なんだ?」
「あの……国名を決めてほしくて……」
「あーはいはい国名ね……って国名!? 大事なものじゃんそれ!」
「陛下は訓練してたので聞くことができなくて……それに我々が決めるのも不敬かなと……」
「気持ちも分かるけど……!」
確かに決めてなかったな、国名。
国じゃないだろ、とツッコまれそうなものだが、領土はここだし主権はあるし人民もいる。立派な主権国家だ。国名決めてないけど。
まぁ……骨関係とかかなぁ?
「私はまだ少しヴィルと相談したいことがあるので、国名が決まりましたら魔術でお呼びください。その頃にはやることも終わってると思いますので」
「あ、あぁ……分かった」
そう言ってアリアは小走りで去っていってしまった。
「そんな急に決めろって言われても……」
アイデアが必要なときはスマホで調べるなりしていたがここは異世界。しかし知識の宝庫はある。俺はその足で図書館に向かうことにした。
いつもならばちょっと高速で走って行くのだが、考え事をしているのでゆっくりと歩いていく。
「骨……骸骨……不死者……不死者の皇帝……」
ぶつぶつ呟いているうちに図書館に着いてしまった。
「はぁ……」
別に不満があるわけではない。重要なものは適当に決めたくない、というプライドが邪魔をして決められないことに少し苛立っているだけだ。
「不死者に関する本でも探すかぁ……あ、そうだ。創造:〈大骨司書〉」
魔法陣から現れたのは、白衣を来た骸骨――それと背後に浮かぶ無数の目玉。ちょいと気持ち悪いな……
「偉大ナル主ヨ。如何ナルゴ要件デスカ?」
「この図書館の司書として活動してくれ」
「承知」
相槌をうつと、背後の目玉が散らばって行った。ギョロギョロと動いているのは恐らく本の情報を認識しているのだろう。
「終ワリマシタ。何ヲ知リタイノデスカ?」
「お、早いな。あー、俺が知りたいのは、国名に使えそうな不死者に関するワードだ」
「了解。オ勧メ致シマスノハ――」
「決めた。ありがとな。ここで待機していてくれ」
「了承」
よしよし……いい名前になったんじゃないか? 個人的には結構気に入ってるんだが。




