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17:神薙流の剣客

 俺があの空間で想像したようなワードがすらすらと、しかも江戸の侍から出てきてはたまったもんじゃない。俺は一体なんなんだと考えさせられる。


 だがやはり、最大の違いは種族だろう。

 俺の場合は不死者(アンデット)で服はなかったし持ち込みもない。彼女は人間で服を着ていたし刀を持ち込めている。ついでに言えば自分に関する記憶の有無もだ。


 時代については何とも言い難い。彼女は江戸時代の侍だが、俺は平成時代の人間だ。それに彼女がこの地――この大陸ではないけれど――で旅をしたのは数百年前だ。ツァトリーも太古の魔王って言ってたしな……あれ、太古の魔王?


「モミジ、そういえば先程の姿はなんだったんだ? あの巨大な……」

「あぁ、それのことでござるか。勇者殿たちとの旅の終わり、魔王との死合(しあ)いの最中に彼の者が放った呪術を受けてしまったのでござる。確か、勇者殿はマオウインシ、と呼んでいたでござるな」


 そう言ったモミジは、目を閉じて考え込む素振りを見せた。

 勇者との思い出を回想しているのか、魔王因子(マオウインシ)について思い出しているのか。そしてその状態のまま話を再開した。


「それにより魔王が取り憑いてしまった拙者を、勇者殿は大粒の涙を流しながらこの地に封印したのでござる。意識がほとんどなく、身体が勝手に激しい抵抗をしたのにも関わらず……拙者を殺さなかったのは勇者殿の温かい心あってこそだと思っているでござる」


 す、すごくいい話だ……もし涙を流せたなら、と思ってしまうのも無理はないだろう。


「巨大な姿に関しては、拙者も分からないとしか言えぬ。最初は今の拙者のように人の姿だったのだ」

「……なるほどな。色々教えてくれてありがとう。さて、俺から1つ提案があるがいいか?」

「もちろんだ。申してみよ」

「侍にこんなことを言うのは(はばか)られるかもしれないが……俺の配下になってくれないか?」


 勝手なイメージではあるが、侍などは主従関係を大事にするものだと思っている。だから俺のようなどこの馬の骨とも知らない――俺は馬の骨じゃないけどさ――やつに「配下になって」と言われてどう反応するか予測できない。正直俺は激昂されて斬られてもおかしくないと思っているくらいだ。


 しかしそんな恐怖とは裏腹に、モミジは満面の笑みを浮かべた。


「もちろんでござる! こちらこそよろしくお願いするでござるよ!」

「えっと……近衛家とかはいいのか? 主従関係だとか」


 そう俺が怖がりつつも尋ねると、モミジは不思議そうな顔をした。頭上に「?」が見えそうなほどだ。


「問題ないでござる。だって拙者、死んだのでござろう? それに勇者殿とは主従ではないでござるからな、今は主がいないでござるし。それに何より、そなたは恩人。その誘いを断る訳がないでござる」

「そうか。良かったよ! これからよろしくな、モミジ」

「よろしくでござる……あ、まだ名前を聞いてなかったでござるな」

「それは失礼。俺はネビュトスという。この地の、そして不死者(アンデット)の皇帝だ」


 そう言うと俺は手を差し出す。

 すぐに意図を理解したモミジは、俺の手を握り返す。


「陛下~!!! やっと見つけました~!!!」


 そんな感動的なシーンに割り込んできた声が1つ。しかもとっても聞き覚えがあるぞ~?


「陛下! こんなところで何を……ってまた女ぁ!?」


 それはもちろん皆のメイド、アリアちゃんです。


「紹介するよ。こちらは新たな配下であるコノエ・モミジだ」

「紹介に預かったモミジだ。気軽にモミジと読んでくれて構わないでござる。流派は――今は神薙流。太刀術は免許皆伝だ」


 ちょっと待て新情報。太刀術の免許皆伝って、かなりすごくないか?


「たち、じゅちゅ……太刀術の免許皆伝、ですか。すみません、知識不足なもので……」

「まぁ、知らないのも無理はないでござるな。恐らく数百年は経ったでござるからな」


 アリア、噛んだのを流してる……中々の胆力を持っているようだな。それにモミジも中々のスルースキル。

 すごいな。俺なら間違いなくツッコんでるね。


「待った、聞いたことがあるぞ! 妾の記憶では女神を――」

「それこそ待ったでござる。どこか、女神の目が届かぬ場所はないか?」


 ヴィルも参戦し、喋ろうとしたところをモミジが止めた。さっきまで優しげな笑顔を浮かべていたのに対し、今は真面目どころかまさに《《真剣》》の如き顔持ちだ。

 恐らく彼女は無駄を嫌うタイプ。そこまでする理由があるのだろう。


「分かった。ヴィル、ツァトリーに城へ戻ると伝えてくれ。アリア、モミジ。一旦城へ戻ろう。話はそれから。それでいいか?」

「もちろんです、陛下」「大事無い」「あぁ」


 それぞれ三者三様の返事をし、城へと歩み始めた。

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