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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
四章
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96話

 地母神の言葉にマリアはゆっくりと頷く。

そして一旦わたしの方を振り向いて、にっこりと笑った。


「それじゃあメロディ先輩、最後の大仕事、やって来ますね」


「いってらっしゃい。とっとと済ませて、いっしょに帰るんだからね」


「はい!」


 元気よく返事をしてマリアは前を向き、地母神の方へ進み出る。

地母神はゆっくりと引き下がって、自分が立っていた場所にマリアが立つよう誘導する。

そしてマリアがそこに立った瞬間――彼女をやわらかな光が包みこんだ。


「これは……!」


「今、マリアと主が繋がったのよ」


 見たところマリアが苦しんでいるような様子はない。

むしろその表情からは心地よさような雰囲気すら感じられた。

わたしには何もわからないが、主とやらと既に何かやり取りをしているのだろうか?

わずかの間の沈黙、その後に、マリアが口を開いた。


「わたしは、わたし自身に誓います。この【王宮世界】という物語(せかい)を、【王宮世界】に暮らす命のために紡ぐことを!」


 マリアを包む光が大きく輝きを増して、彼女の内側へと取り込まれていく。

光を取り込んだマリアは一見何も変わっていないように見えるが、それでもこれまでとは違っていた。

その立ち姿は気高く美しく見える。

その息遣いは優しく心地良く聞こえる。

その周囲には甘く芳しい匂いを纏っている。

明らかに人間とはもう異なっている。

まるで、地母神と同じように。


「おめでとう、【輝神マリア】。今からあなたがこの世界の支配者よ」


 地母神は微笑みマリアを祝福する。

それにマリアは、今までとなんら変わらない笑顔で答えた。


「ありがとうございます。それじゃあ今からはわたしの好きなようにやりますね」


 くるり、とマリアはわたしの方に振り返る。


「いっしょに帰りましょう、メロディ先輩!」


 彼女はもう神様だ。

今は息をするよりも簡単に、わたしを打ち倒すことも出来る。

わたしがいなくなったあとも、この世界とともに永遠に存在し続ける。

人間とは何もかも違う存在になった。

それでも、そこにいたのはわたしが恋した女の子だった。


「ええ、いっしょに凱旋といきましょう!」


 わたしの手とマリアの手が再びしっかりと繋がれる。

そして今度はマリアの力で帰るための【門】が開かれた。

わたし達は笑い合いながら【門】に向かって駆け出したのだった。


「うふふ、おめでとうマリア。わたしもこれでずっと見たかったあなた達が紡ぐ世界を見ることが出来るわ」


 後ろでは地母神が別れの言葉を贈ってくれていた。


「もはや人にわたしの手助けは必要ないのですね……良かった、みんなどうか健やかに……」


 そして何やら満足気に、キラキラ光ってその場から消え去っていったのだった。



 それからわたしとマリア、それと神隠しに遭っていたことになっているハミィを【手鏡の部屋】から連れ戻して、三人揃って元いた場所と時間に無事帰還した。

マリアがえいっと指を振ると戦いの犠牲者がみるみる蘇生し、負傷者の傷も癒えた。

マリア・ヴィルトゥオーサ改め【輝神マリア】、初めての祝福である。


「みなさん、聞こえますか!?新しくこの世界の神になった【輝神マリア】です。これから色々と手探りですが、この世界のためにがんばっていきますのでどうかよろしくお願いします!!」


 いまいちしまりのない神からの啓示が世界中に響き渡る。

このときをもって後に【竜王戦役】と呼ばれる人と竜との戦いは終わりを告げ、新たな暦――【輝神歴】が始まった。


 【オルガノ王朝】は正式に【ムジカの上王】の位を放棄した。

ムジカ・オルガノ・コンチェルト十五世は新たに【輝神教会】の教皇の地位に着き、側近である【魔法使い】と共になんだかんだ権威を保っている。

地母神から輝神への信仰の変換はとてつもなく大変そうだが、神様直々に手伝っているのだ、がんばってもらおう。


 【トライアド帝国】は禅譲を受けて皇帝が【ムジカの上王】を兼ねることとなった。

とはいえ結局それは形式だけのもの、ドラゴンとの戦いで計画していた三国統一作戦は変更を余儀なくされ、遺憾ながら大陸統一への道はまだ遠い。

まあ皇帝陛下は全くへこたれず、()()()の実験に力を注いでいるけれど。


 【クラシック王国】は大変なことになっている。

元々諸侯の力が強かったところに、【輝神マリア】の生誕の地ということで宗教勢力が大盛り上がり。

ルードヴィヒ王の望む統治の形にはどうやってもなりそうもない状況となった。

後を継ぐセバスティアン王太子も苦労しそうだが……そこはきっと神のご加護があるだろう。


 【ピアノ公国】は相変わらず貧乏な軍事国家である。

異様な忠誠心を持つ将兵が無傷で戦闘経験だけを得たのだから恐ろしい。

わたしにとって幸いなのは例の拘束用の【遺物(マスターピース)】は使い切ったらしいこと。

そして公王とその婚約者が【輝神教会】に友好的なことだろうか?


 大体こんな風に、【メロディトゥルーエンド】の世界は続いている。



「というわけでブルース、今日も花嫁修業に来たわよ」


「なんで!?」


 なんでと言われても、わたしは嫁入りする家のしきたりに慣れるべくストレイン家を訪れているだけだが?


「神様の恋人と結婚って……僕の命が大丈夫じゃないよどういうことなの……」


「恋愛と結婚は別よ。そして政治的にドミナント・テンション家とストレイン家の血を引く後継者の誕生は必要なの、覚悟を決めなさい」


「初恋の人の恋人に政略結婚を強要されて初恋の人に消されるかもしれないこの状況に対する覚悟を決められる人はそういないと思うな!!」


 ブルースの悲痛な叫びが虚しく響き渡る。

とっとと腹をくくって、あそこで優雅にマリアとお茶を飲んでいるストレイン伯爵夫人のように泰然としてほしいものだ。

……ん?マリア?


「お先にお邪魔してます、メロディ先輩!実は今お話しているその問題をどうにか出来そうなものを見つけまして!」


「こんなところでのんびりしている暇……くらい作れるのよね。それで何を見つけたの?」


 わたしの質問にマリアはえっへんと胸を張って答える。


「黄金竜ヴォーカルが封印されていた【聖都オラトリオ】の地下空間にまだ生きている【遺物(マスターピース)】……かつて騎士を()()するために使われていた育成機が残ってるみたいなんです。これがあればメロディ先輩、いや、全ての女性は繁殖の苦しみから解放されます!」


「……それをいっしょに探しに行こうって誘いに来たの?」


「はい!!」


 わたしははーっとため息を付く。


「全く、神様の恋人っていうのは思ってた以上に大変みたいね」


「メロディ先輩の恋人だって大変なんですよ?」


 軽口を言い合って、それからにっこりと笑い合う。

やらなきゃいけないことがたくさんあっても、それでも二人はずっといっしょ。

こうして今日もわたし達は手を繋ぎ駆け出したのだった。

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