9話
「ふわぁ……」
寝不足である。
わたしは睡眠時間を削って【浮いている板】の内容を出来る限り確認した。
そして判明したことがこれらだ。
【トライアド帝国】所属の『攻略キャラ』がマリア・フォン・ウェーバーと恋人にならなければ帝国は戦争に敗れ、皇帝陛下は倒すべき悪――【浮いている板】の表現でいう【ラスボス】として戦死してしまうこと。
リズム以外の【トライアド帝国】所属の『攻略キャラ』がマリア・フォン・ウェーバーと恋人になると帝国は戦争に勝ち【ムジカ大陸】を統一するが、わたしたちドミナント・テンション家は政争に敗れ奸臣の汚名を背負うはめになること。
リズムとマリア・フォン・ウェーバーが恋人になったとしても【トゥルーエンド】でなければわたし自身は悪女として裁かれてしまうこと。
要するに……
やだ、わたしの前途、多難過ぎ?
【地母神ヴィルトゥオーソ】がわたしの境遇を憐れまれて【浮いている板】を見えるようにしてくれたのではないかという気持ちになってくるレベルだ。
わたしが今後行うらしい行動は【トライアド帝国】の侵攻に積極的に参加して、お父様の命のもと停戦を目論む帝国宰相子息レゾナンス・マイナー・トライアドと場合によってはそれに加担するブルース・ストレインの暗殺計画の主犯となるくらいだというのに。
帝国騎士として当然の行いでは?
とにかく、わたしが【リズムトゥルーエンド】を目指さなくてはならないのはわかった。
わたし自身の幸せは諦めるとしても、リズムにマリア・フォン・ウェーバーと恋人になってもらって【トライアド帝国】とドミナント・テンション家に栄光をもたらすのは絶対だ。
人柄もわからない他国の娘をかわいい弟とくっつけなければならないことに心苦しさはあるが、これは国とお家のためだから仕方あるまい。
すると問題になるのは二人を恋人にさせるという目標の難易度だ。
まずふたりにお互いを意識してもらう必要があるわけだが……向こうにリズムを意識させるのは楽勝だろう。
リズムはちょっと童顔だけど美形で優しくて今はまだわたしに劣るが剣にも優れている。教養も礼儀作法も完璧だ。
マリア・フォン・ウェーバーに一目惚れするらしいブルースには悪いが、一度話せば彼女がリズムに一目惚れする可能性だってある。
対してリズムにマリア・フォン・ウェーバーを意識させる方だが……これはちょっと難しい。
リズムは色恋にうつつを抜かすような軽薄な性格じゃないんだもんな。
【浮いている板】の情報と姉という立場を積極的に活用してリズムの【キャラポイント】とやらを稼ぐ必要があるだろう。
リズムも【浮いている板】を読むことが出来たらきっと協力してくれるんだけどな……
そんなことをうんうん悩んでいると大声が響いた。
「姉上!!」
リズムがわたしを呼んでいた。
「ど、どうしたのリズム?そんな大声を出して……」
「さっきから呼んでいるのに返事をしてくださらないからです!もう昼食の時間になるのにずっと素振りをしていて、今日の姉上は少し変ですよ?」
えっ、もうそんな時間?
わたしとしたことが、剣の鍛錬の時間に考え事をしてしまうとはなんたる不覚。
「ごめんねリズム、ちょっと考え事をしてしまっていたみたい」
誤魔化そうとするが、リズムはわたしを心配そうな目で見つめていてそれは難しいようだ。
「もしかして、マイナー・セブンスコード家の件でなにか気になることでもあるのですか?俺は姉上の為ならなんでもしますから、悩み事があるなら聞かせてください」
「ありがとう。そうねリズム、わたしちょっと未来のことがわかるようになったみたいで……」
「えっ」
あっ、何言ってるんだわたし。
いきなりこんなこと言って、おかしくなったと思われちゃうじゃない!!
しまった、どうしよう。誤魔化さないと。
わたしもお年頃だし、そういうあれな感じってことでなんとか……
「ごめん、リズム今のは、あの、えっと……」
「姉上、詳しく、教えてください」
「……リズム?」
「今日の姉上を見ていたら、何か大変なことが会ったのはわかります。理解するのに時間はかかるかもしれないけど、俺は姉上を信じます……だから姉上を悩ませているもののこと、おしえてくれませんか?」
……!
弟よ!!
わたしが思っていた以上に、最高の弟だったのね!!
*
メロディ・ドミナント・テンションは弟を溺愛している。
しかし、リズム・ドミナント・テンションはそれ以上に姉を深く愛している。
姉はまだ、その事に気がついていない。