84話
しばらくして、謁見の準備が整ったと知らせが来た。
移動しつつ、わたしはマリアに問いかける。
「会談だけど、大丈夫?」
「……大丈夫です、言うべきことは【道標】でちゃんと確認しましたから」
マリアは気丈に答えるが、粛清をいとわなくなった国王と相対する重圧はどれほどだろう。
しかも他ならぬ故郷の王がそれなのだ、ちょっとかける言葉が見つからない。
だがわたしにとってマリアはもう大切な身内、重圧を一人で背負わせるなんて出来はしない。
「ねえ、図書館で魔導書を見つけたときのことを覚えている?」
「魔導書ですか?はい、メロディ先輩がささっと対応するの、素敵でした」
「あれ、多分魔導書の言うことをちゃんと聞くのが本当の運命だったと思うの」
「へっ?」
マリアが顔をぽかん、とさせた。
わたしはくすりと微笑んで話を続ける。
「でも図書館で魔導書を見つけて大騒ぎになるって大筋はあってるから、関係なくそのあとの未来に進んだ。今回だってきっとそうよ、大筋さえ合わせちゃえば【トゥルーエンド】に進める。気楽に行きましょう」
「気楽に……そうですね!これまでずっと【道標】を見てきたメロディ先輩がいっしょなんですから、なんとか出来ますよね!」
「そうそう、いざというときはわたしもフォローするんだもの」
思えばこれまで大体の問題は力技で解決してきたわたしである。
これからもきっとそんな感じでなんとかなる……はず!
*
気持ちを楽にして挑むルードヴィヒ王との謁見及び会談。
わたし達は帝国での会談のときと同じくマリアとわたし、護衛の騎士達という顔ぶれ。
対するルードヴィヒ王の側にはルードヴィヒ王の脇を廷臣達がずらりと固めている。
その中の一人が一歩前に出ると、【道標】が反応した。
『アマデウス・フォン・ウェーバー サブキャラ 所属:【クラシック王国】
【クラシック王国】宰相。伯爵。
マリアの父親。
どんなときでもマリアの身を案じている優しい父。』
相変わらず重要人物のものとは思えないこざっぱりした記述である。
それはいいとして、彼がマリアの父親……面影があるというかとても若く見える。
わたし達騎士はほとんど老化をしないが、それを加味しても若く……もはや幼くすら見える容貌だ。
だが彼は一国の宰相、見た目で侮ることは出来ない。
わたしは気を引き締め直して、彼の発言を待つ。
「【聖女】マリア・ヴィルトゥオーサ殿、貴方の訪問を大いに歓迎します。そして上王陛下とフォニム帝よりの親書、確かに拝見させていただきました」
ウェーバー伯爵が語る様子をルードヴィヒ王は表情も変えずただ見つめている。
皇帝陛下は自ら【聖女】に対応したのに……と少し気に障るがこのくらいは当然我慢。
まずは落ち着いて、マリアを見守ることにする。
「ウェーバー伯爵、わたしはルードヴィヒ王への使者として参りました、あなたはお控えください」
おっと初手から飛ばしていくなマリア!?
今回の会談で必要なのはルードヴィヒ王から直接同盟参加の意志を聞くこと。
どこかでウェーバー伯爵に引っ込んでもらわなければならないのは確かなのだが、度胸がある。
さて家名を捨てたとはいえ実の娘からのこの態度にウェーバー伯爵はどう出るか?
「私はこの件において国王陛下より権限を預かっております、【聖女】殿まずは私の話を……」
「ルードヴィヒ王!これはわたしとの会談を望まないと受け取りますがよろしいか!?」
攻める、がんがん攻めるぞマリア!!
あまりの剣幕に廷臣達の表情に焦りが生まれ始める中、ルードヴィヒ王の目がぎらりと見開かれる。
「……やかましいぞ、ウェーバーの娘よ」
その声は低く、会談の場の空気を一気に冷やす。
しかしマリアはこんなことで退くつもりは一切無いようだ。
「わたしは【聖女】マリア・ヴィルトゥオーサ、ウェーバーの娘ではありません」
毅然とした態度でそう言い返す。
ルードヴィヒ王は苛立ちを隠すつもりが無いようで、脅すような声色でそれに返す。
「では【聖女】殿、お前のその態度、それこそ王国の同盟参加を望まない故のものと受け取れることをどう考える?」
「全くの誤解、我々に同盟締結以外の選択肢は無いと強く主張します!」
ごり押しである。
護衛の騎士の皆さんの表情が青ざめ始めている。
だがやはりマリアは一歩も退くつもりがない、背筋を伸ばして話を続ける。
「既に帝国のフォニム帝は同盟参加を明言し、わたしも次代の神として帝国への祝福を惜しむつもりはありません。そして公国のクレシェンド公は【オラトリオ騎士学校】での同級生、その内心は存じています。あとはルードヴィヒ王、あなたが頷くのみです!」
脅しにかかってる!
しかも後半、公国の話は完全にフカシだぞ!?
「頷かなければどうするつもりだ……!?」
「あなたは頷きます!そうすればわたしは【クラシック王国】の王権を神の名のもとに保証するのですから!!」
今度は廷臣達の顔が青ざめだす。
それはルードヴィヒ王の宿願、諸侯からなる廷臣達の力が削がれることを意味する。
その様子を見てルードヴィヒ王も少し気が納まったらしい。
「ふん……元々同盟には参加するつもりだったのだ。今回はどの態度許そう」
忌々しそうではあるが、同盟参加の意志を示した。
そして慌ただしく正式な返書が用意され、会談は終了した。
その後用意された客間に通されわたしとマリアの二人っきりになったところで、ようやくマリアは大きく息をついて肩の力を抜いた。
「はぁ、緊張しました……でも実際なんとか出来ましたね!」
「そ、そうね……」
ここまでマリアが振り切るとは思ってなかったよ!
まあこういう度胸、わたしは嫌いじゃないんだけど……




