8話
今度は途中で投げ出したりせず、【浮いている板】の内容を確認する。
よく意味がわからない単語が多く、信じがたい内容も更に多かったが一度そのまま受け取ってみよう。
そうするとわかることがこうだ。
これから先起こる【ムジカ大陸】を巡る戦乱の行方は主人公――マリア・フォン・ウェーバーという少女が【オラトリオ騎士学校】での生活の中で誰と親しく交友関係を築くかで左右される。
更に言えば、彼女の恋人になった人物の所属する国が勝利する。
そうなると【クラシック王国】が非常に有利だ。
【クラシック王国】に所属する恋人候補――【浮いている板】での表現だと『攻略キャラ』は、入学前からマリア・フォン・ウェーバーと交流を持っているのだから。
マリア・フォン・ウェーバーも【クラシック王国】を勝たせようと行動するだろうし……
と、考えたところで浮かんでくるのがわたしは【浮いている板】を見ることが出来るという点だ。
この常にわたしの目の間にある【浮いている板】は、わたしにしか見えていない。
もしかしたら、マリア・フォン・ウェーバーにも見えていない。
つまり……戦乱の勝利条件をわたしだけが知っている。
……。
一旦落ち着こう。
この結論は【浮いている板】を完全に信じた上で、【ムジカ大陸】中でもわたしにしか見えていないという希望的観測の元で成り立つものだ。
しかしこの【ムジカ大陸】には大きな事件が起こるときには【地母神ヴィルトゥオーソ】の祝福によって不思議な力を得たものが現れ時代を動かしてきた歴史がある。
未来の物語が記述されていて、物語の結末に干渉する方法が記された、特定の人物にしか見えないこの【浮いている板】。
これは正に【地母神ヴィルトゥオーソ】の祝福だと言えないだろうか?
【地母神ヴィルトゥオーソ】はこの祝福をもって【トライアド帝国】を勝利に導け、と思し召しなのでは?
……。
全然落ち着けてないなわたし。
いや、だって『年表』だと怒涛の勢いで事が進んでいるから驚いてしまったけれど、【ムジカ大陸】統一は【トライアド帝国】の悲願なのだ。
それを叶えられる手段を目の前に転がされたら、冷静ではいられなくなるのも当然じゃないだろうか?
【トライアド帝国】に所属するマリア・フォン・ウェーバーの恋人候補――『攻略キャラ』を上手く彼女と仲良くさせるだけでいいんだよ?
えーっと、【トライアド帝国】所属の『攻略キャラ』の面子はと……
ブルース・ストレイン――確か主人公に一目惚れするとか書いてた。
リズム・ドミナント・テンション――こういうことに弟を使うのは気が引ける。
レゾナンス・マイナー・トライアド――派閥が違うから親しくないのよね。
メロディ・ドミナント・テンション――わたしも入ってるんだ!?
うーん、ブルースをマリア・フォン・ウェーバーとくっつけるのが一番上手く行きそうかな?
そういえば『攻略キャラ』によって戦況が変わったりするのだろうか?
そう思って『シナリオ』のページを読んでみたわたしは衝撃を受けた。
『ブルースルート
メロディによるレゾナンス暗殺計画が発覚します。』
『レゾナンスルート
レゾナンスを救うためメロディと決闘することになる主人公。』
『レゾナンストゥルーエンド
【大将軍派】は数々の謀略が明るみに出て処罰されました。』
やだ、わたしとっても悪役。
そんな確かにわたしは帝国大将軍の娘でレゾナンスは帝国宰相の息子、いざとなれば命のやり取りの覚悟は出来てるけど……!
お父様の命とあらば謀略に加担することも辞さないけれども……!




