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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
三章
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73話

 ついにやって来た十二月、聖誕祭パーティー当日。

わたしは寮の自室で着替えを済ませてあとは会場に向かうだけという状態である。

いよいよ、そういよいよムーサ師匠を裏切るときが来てしまった。

はたして上手くやれるだろうか?いや、上手くやらねばならない。

わたしは気合いを入れ直し、儀礼剣の代わりに【宝剣ストラディバリウス】を佩く。

さあ、運命の分かれ道だ。


 そして訪れたパーティー会場となる講堂。

今年も親衛隊のほとんどがダンスコンテストに参加しているため生徒の多くが出場者側におり、わたしがいる不参加者の集団は少し小さなものとなっている。

とはいえ人の目は多い。

ここでリタと話していればムーサ師匠もわたしを魔法で呼び出すことを少しは戸惑い、時間を稼ぐことが出来るだろう。


「ごきげんよう、リタ。あなたが噂を流してくれたおかげで今年もダンスコンテストは大盛況ね」


「やあ、メロディ。あはは、ファンの子達を煽って競わせるなんて、メロディも最後だからってやるもんだね」


「う……学校行事を盛り上げるのはいいことだし……?」


 人から言われるとちょっとやばいことをしてしまったかもしれない。

うん、お詫びに卒業までの間に親衛隊のみんなへのファンサービスはいっぱいすることにしよう。

そう心に決めて、視線をダンスコンテスト出場者達の方に向ける。

やる気に燃える親衛隊の女子生徒達と彼女らに選ばれたことを喜ぶべきかどうか複雑に思っているであろうパートナーの男子生徒達が並ぶなか、リズムとマリアもそこにいた。

なにか雑談をしているようで、想定外のことが起こっているようには見えない。

このまま何事もなくダンスコンテストが始まって欲しい……が。


 そう都合良くいくはずはない。

わたしに向かって放たれる冷や汗を流してしまうほどの強い視線を感じる。

恐る恐るそちらを振り向くと、当然そこにはパーティーテーブルの下に隠れたムーサ師匠がいた。

何も言葉は発していないが言いたいことは伝わってくる。

なんでぼーっとしてるんださっさとマリアを連れ出しに行け、間違いなくそう伝えようとしている。

正直身の危険も感じる程の圧だが、わたしは意を決して顔をそらす。


「そういえばリタ、今年の優勝候補はやっぱりレガートとセバスティアン王太子だと思う?」


「うん?そうだね、みんな練習を熱心にしてたからダンスの技量の情報はいっぱい手に入れられたけど、一番上手いのはやっぱりあの二人だね」


 必死にムーサ師匠の圧を無視してリタと会話を続ける。

さてここからわたしを魔法で無理矢理呼び出すと決心するまでどれだけ時間を稼げ――


 視界がぐにゃりと歪む。

そして次の瞬間、わたしは講堂の外――庭園にいて、目の前にはムーサ師匠が立っていた。

……決断が早すぎる!!

動揺するわたしに向かって苛立ちを全く隠さないムーサ師匠の声が投げかけられる。


「メロディくんさ、やけに諦めるのが早かったからあたしも()()()()()()()()()()って考えはしてたんだよ」


 声は苛立っているのに、表情は笑っていた。


「でも一応信じてあげてたんだぜ?でも、本当にやっちゃったなぁ……」


「すみませんね、でもわたしにだって帝国の騎士として目指す未来があるんですよ」


 わたしは真っ直ぐにムーサ師匠を見つめ、【宝剣ストラディバリウス】を抜いた。

それを見てムーサ師匠は歯を見せてぎらりと嗤った。


「あたしに勝てるとでも?」


「ええ、わたしの勝ちは生き残ることじゃなくて、【リズムシナリオ】に進むことですから」


「あはははっ!よく言った!!だがそれはもう無理だ!」


 高笑いをして、ムーサ師匠は講堂の方を指差す。


「君の手紙を偽造させてもらった」


 え?

それは、つまり……


「マリア・ヴィルトゥオーサは君に会いにここに来るよ」



 マリアはパーティー会場のダンスコンテスト不参加者の集団を見つめていた。

そこにメロディの姿はない。


(メロディ先輩、本当に抜け出したんだ……)


 今朝マリアの部屋に届いた手紙。

そこには()()()()()()()()()()()()()誘いの言葉が書かれていた。


『あなたにどうしても伝えたいことがある。

 ダンスコンテストを抜け出して庭園まで会いに来て欲しい。

 来てくれなければ、この想いを伝えることは諦める。

 試すようなことをしてごめんなさい、でもあなたも同じ想いだと伝わっているから。』


(わたしとメロディ先輩が同じ『想い』……それってつまり、両思いだってこと?)


 マリア・ヴィルトゥオーサはメロディ・ドミナント・テンションに恋していた。

強くて、かっこよくて、常に自分を鍛え上げることを怠らないメロディはマリアの理想だった。

気にかけてもらっているという実感はあった。

いつもいっしょに行動しているし、視線もよく感じていた。

マリアだって十代の少女である、恋心に目がくらんで全てを都合良く解釈してしまう。


(リズムには悪いけど……この機会、逃すわけにはいかない!)


 マリアは一目散に駆け出した。

もうすぐダンスコンテストが始まるというとき、急に駆け出したマリアに周囲は驚くがもうマリアには何も見えない。

あっという間に講堂の出入り口まで辿り着き、庭園の方を目指そうとしたそのとき。


「待て!!」


 叫び声とともに【飛燕剣(ソニック・ブレード)】が放たれる。

マリアは咄嗟にそれをかわし、声と攻撃の主を確認する。

それは彼女が置いていったダンスコンテストのパートナー、リズムだった。


「リズム、落ち着いて!どうしても行かなきゃいけない用事があるの!理由はあとで詳しく……」


「俺もどうしても()()()に踊ってもらわなきゃ困るんだよ」


 その声は恐ろしく冷たい。

それがこの前自分に告白しようとした少年の――いやこれまで見てきた明るい少年のものとは信じられず、マリアは反射的に剣を抜く。


「どういうこと……どうしてわたしと踊りたいの?」


「姉上のためだ」


 リズムは再び剣を構え、叫ぶ。


「姉上の望む未来も、姉上自身も俺は譲らない!!」

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