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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
三章
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67話

 三年目、わたしにとって最後になる野外演習当日。

朝から粛々と行軍は開始された。

と言っても、わたしの班に課せられた仕事は準備の段階がほとんどで今は輸送を担当する班に任せて静かに行軍するのみなのだが。

ふと見上げた空は、これから日食が起こると知っていても信じられない穏やかな青空だった。


 到着後は物資を整理し、陣地構築に必要なものは二年生、夕食の準備に必要なものは担当の三年生に配布して少し早めの昼休みに移行する。

わたしは同じ班の二人といっしょにおしゃべりをしながら野戦糧食を頂くことにした。


「この演習場に来るのも最後と思うとちょっと寂しいかもね。三回しか来てないけれど」


「わかります!そんなに馴染んでいないはずなんですけどね」


「そういえばメロディ様は卒業後のことは決まっているんですか?」


 卒業後か……

わたしに求められている役割はストレイン家に嫁ぎ【大将軍派】に属する家として盛り立てていくこと。

しかしブルースが一つ年下なため正式な結婚には一年の猶予がある。

なのでその間一年間、王宮で行儀見習いをする予定となっている。

一年間働いただけで何が身につくということでもなく、人脈作りの方が主な目的だ。

だが、その予定が無事に行われることがないことを私は知っている。


 【竜王戦役】。

どんな形になるにしろ、来年は大きな戦争が始まるのだ。

成人した騎士ともなれば侯爵家の娘でも……いや、侯爵家の娘だからこそ関わらないわけにはいかない。

もしかしたら――わたしの目論見通り【リズムシナリオ】に進むことが出来たなら確実に、今いっしょに昼食をとっている親衛隊の子達やレガート、リタとも敵として戦うことになる。

騎士として覚悟はしているが、とんでもない変化が起きるのだ。


 少し考え込みすぎたようだ。

わたしは頭の中によぎる将来のことを振り払って、なんでもないように質問に答える。


「ええ、結婚に向けて行儀見習いをする予定よ」


「そうですか……そうか、メロディ様もやっぱり結婚するんですよね……」


「相手は後輩のブルースくんですよね……うう……」


 そう、こんな風に女子生徒達にモテまくるのも終わりなのだ。

彼女達だって自分の婚約者へ気持ちを切り替えてやっていくのだ、多分、ちゃんと。


「悔いを残さないように日々を過ごさなきゃね……きゃふっ!」


 話に割り込みながらレガートが抱きつこうとしてきたのでひらりと回避する。

こけさせるのはちょっと可哀想なので支えてあげるのも忘れずに。

レガートはこけかけているのを支えられた奇妙な姿勢のままわたしの顔を見つめる。


「メロディのけちー、ちょっとくらいいいじゃない」


「ちょっとじゃないの、スキンシップは許可を取ってからしなさい」


「じゃあ隣りに座っていい?」


「どうぞ」


 レガートはわたしの横にちょこんと座り、肩を寄せてくる。


「話も聞いてたんでしょう?あなたも公妃になるための花嫁修業に入るんじゃない?」


「そうだよ、まあわたしは生まれたときからずっと花嫁修業やってるようなものだから新生活って感じではないけどね」


 なるほど、公妃候補ともなるとそこまで徹底しているのか。

となるとこの学校生活はレガートにとってかなり大切なものだったのではないだろうか。

その間を共に過ごす友人としてわたしを選んで良かったのかと少しだけ気になるが……


「えへへ、メロディにひっつき~」


 幸せそうにわたしの肩に頭を預けるレガートの顔を見て、心配するのはやめた。

レガートは【道標】もなく、自分にとって一番だと思う道を選んでこうしているのだ。

あとで振り返って後悔するかわからなくても、これこそが正しいあり方だ。

わたしも【道標】というズルを少ししてしまっているけれど、自分の選んだ道を自身を持って進むことにしよう。



 マリア、リズム、クレシェンドの三人は少し早めに陣地構築の作業を終えていた。

これから起こる『事件』に余裕を持って対応するためにリズムが努力したおかげである。


「よし……問題ないな……」


「ないけど……なにか焦ってたみたいだけど大丈夫?」


「なにか用事でもあるのかい?」


「ない、全然ない」


 妙に張り切っていたリズムを心配するマリアとクレシェンドだが、リズムはばっさり切り捨てた。

そして少し息を切らせたまま、マリアに向かってこう切り出した。


「じゃあここから夕食まで自由時間だけど……マリア、少し付き合ってほしいところがあるんだ」


「うん……いいけど……」


「ありがとう、じゃあ行こう」


 その少し強引な誘い方。

にこにこしてその様子を見ているクレシェンド。

そして最近のリズムの言動。

ここまで来ればマリアの頭の中にもその()()は当然浮かんでくる。


(あれ、これってもしかして告白される流れじゃない!?)


 マリアはリズムの後についていきながら、あれこれと思いを巡らしてしまう。


(どうしよう……いや、わたしだって学校にいる間くらいは家も国もなく好きな人と仲良くするっていうことはアリだと思うけど、まさか自分が告白される立場になるなんて)


 マリアの恋愛に対する認識はメロディとどっこいどっこいだった。


(でも……答えは断るしかないよね。だってわたしにも、立場を忘れて『好き』になっちゃった人がもういるんだから)


 しかし、『好き』の自覚をもう持っている分メロディより少しだけ前にいた。

なので十分に覚悟を決めてリズムの言葉を待つことにマリアは決めた。

そして陣地から少し離れた水場でリズムは立ち止まり、マリアの方へ振り向く。


(来る……!ちゃんと受け止めて、誠実に断らないと……!)


 マリアがリズムの口が開くのを今か今かと待ち構えているそんなとき。

別の方向から新たな人物が現れた。


「あれ、マリアくんにリズムくんまでなんでここに?」


 イロハ・コトネである。

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