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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
三章
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61話

 それから数日後の放課後。

賑わっていた寮の談話室が彼女の帰還によって一瞬で静まり返った。


「えっと、ヨハンとヨハンナ……ただいま」


 教会に呼ばれてずっと不在だったマリアが帰ってきたのである。


「マリアお嬢様!!おかえりなさい!」


「ずっとお待ちしていました!これからどうなるか、もう決まったんです!?」


 ヨハン少年とヨハンナ少女がマリアに駆け寄っていくのをその場にいた生徒達はちらちらとうかがっている。

【聖女】が一体どういうものなのか、気にならない者はいないのだろう。

その中でマリアは寂しそうな表情を浮かべて、二人に告げた。


「うん……決まったよ。わたしはもう王国のウェーバー家の娘じゃなくて、王朝の聖職者マリア・ヴィルトゥオーサとして生きていくことになるんだ」


 ヨハン少年とヨハンナ少女が息を飲む。

それはウェーバー家の従士である二人との関係も変わってしまうことを意味するのだ。

マリアは微笑み――悲しさを隠しきれていない痛ましい表情で話を続ける。


「でも!学校の一生徒としてこれからも過ごせることにはなったから、『お嬢様』じゃなくて『友達』としてよろしくお願いできるかな?」


「っ!?……わかりましたマリアお……いや、マリア、俺はずっと『友達』です!!」


「できるかなんて、水臭いこと言わないで欲しいです!」


 三人は寄り添い合い、涙をこらえていた。

わたしといっしょにそれを見ていたイロハは、複雑そうな表情を浮かべていた。

マリアの運命の転換に自分も責任があるのではないかと思っているのだろう。


「イロハさん、自惚れては駄目よ。地母神に選ばれたということは、あなた達に関係なくこうなっていた可能性はあるのだから」


「……そうですね。でも、どうしても胸がもやもやして」


 わたしの予想通りだったようで、イロハの表情はやはり曇ったままだ。

ふむ、わたしとしてもマリアが心配だし……そうだ!


「それなら本人と向き合ってしまいましょう、行くわよ」


「えっ、メロディさん!?」


 わたしはイロハの手を引いて立ち上がり、マリアの元へ引きずっていく。


「マリア、今大丈夫かしら?」


「メロディ先輩!はい、大丈夫です……あ、それと多分先輩にも心配をおかけしたと思います、でも身の振り方は決まったのでどうかもうお気になさらずに……」


 元気を振り絞って明るく振る舞うマリアの額をわたしは指で弾いた。


「あいたー!?」


 思わず奇声を上げて驚き、額を手で抑えるマリア。

わたしはふふふと笑って胸を張り、堂々と彼女に述べる。


「残念だけど【聖女】になろうがわたしとあなたが先輩と後輩であることには変わりはないわ、これからも好きなだけ面倒を見させてもらうから、そこのところ気をつけて、ね?」


 マリアはきょとんとした表情を浮かべたあと、つーっと涙を流した。

それは止まらず後から後から流れていき、気づけばヨハン少年とヨハンナ少女にもうつった。


「うぇっ、メロディ先輩、わたし……!」


「さあ、三人とも我慢なんてしないで、悲しい気持ちは全部吐き出しでしまいなさい」


 わたしのその言葉を合図に三人の嗚咽がその場に響き渡るのだった。



 しばらく経って、三人が落ち着いたあと。

ハンカチで涙を拭ったマリアがさっぱりとした表情でわたしに話しかけてきた。


「ありがとうございます、メロディ先輩。ここ何日か不安だったの、全部流せちゃったような気分です」


「いいのよ、これからも何度だって先輩風を吹かさせてもらうんだから」


 わたしの言葉にマリアはえへへと笑顔を見せた。

さて、マリアの方は一旦こんなものでいいだろう。

次はわたしの後ろで気まずそうにしているイロハの番だ。


「じゃあ気分が晴れたところで、イロハさんのことをお願いしてもいいかしら」


「えっ、ちょっとメロディさん、そんな急な……!」


 わたしは後ろにいたイロハを引っ張り出して、マリアと向き合わせる。

イロハは視線を横にそらしながら、なにか言い出そうとしては口ごもるのを繰り返した。

マリアはそんな彼女の様子とわたしが見せる笑顔からなんとなく状況を察してくれたようだった。


「イロハさん、あなたもわたしの心配をしてくれてたんですね?」


「えっと、まあ、話が急に進んだのはぼく達が帰ってきたからっていうのがあるだろうし……」


 イロハは視線を泳がせながらなんとか答える。


「わたしね、教会で偉い人達から色々聞いたけど、先にイロハさんがだいたいのことを教えてくれていたおかげで動揺せずに聞くことが出来たの」


「それは……」


「だから責任なんて感じないでください!そんなことより、これからのことだけ一緒に考えていこう?」


「これからのこと……うん。そうか、ぼくがこれからきみを助けられることもあるかもしれないんだよね」


 イロハの声が少しずつ明るくなり、視線がマリアの瞳に定まった。


「マリアくん、きみが一番大変なのに情けないところをみせてすまない。でもこれからきみの協力者……いや、『友達』としてよろしく頼むよ」


「うん、よろしくねイロハさん!」


 よしよし、これでみんな気持ちの問題はとりあえず片付いたな。

鬱々とした空気の中でマリアと付き合っていくのは面倒だし……

それ以上に後輩が悩んでいるのは放っておけないもんね!

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