54話
聖誕祭パーティーが終われば主要な学校行事はほとんど終わり、生徒達の興味は来年度のことに移る。
一年生と二年生は来年度はどう過ごすか、後輩はどんな子が入学してくるかという話に花を咲かせ、三年生はモラトリアムの終わりを惜しみつつ将来への希望に目を向ける。
が、わたし達には乗り越えなければならない壁が一つ。
「これより学力試験対策会を始めるわよ!」
一月の放課後、自習室に勉強会の参加者――普段は時間が別れているリタ達も含めて全員を集めてわたしは宣言する。
参加者は拍手をしてくれているが、マリアとヨハン少年は気が重そうである。
二人は座学が苦手だから落第が心配なのだろう。
二人以上に心配なレガートとクレシェンド公は呑気に拍手してるけどね!
「普段から勉強会をしてきたからみんな実力はついている……はずよ、だからあまり気負い過ぎずにがんばっていきましょう。オクターヴ、例のものをみんなに」
「了解です、みんなこれをどうぞ!」
オクターヴに配らせたのは学力試験予想問題集――普段の授業の傾向と、先輩方及びリタが集めてくれた過去問題集を元にわたしが作ったものである。
自分で言うのもなんだがかなりの力作である。
「試験当日まで勉強会の時間はこれを使って対策しましょう。目標は全員無事進級よ」
「まあ再試験もあるし気楽にいこうよ」
「レガート、教官達に今年は再試験をしなくてもいいようにしっかり見ておくように言われているから真面目にがんばってね?」
「うう……でもメロディが見てくれるならがんばろ……」
というわけで去年の大騒ぎを繰り返さないための学力試験対策会は幕を開けたのである。
*
その頃、【トライアド帝国】首都【トリニティ】。
皇帝フォニムは貴重な休憩時間を大将軍ビート・ドミナント・テンションに並ぶ腹心、秘書官長ブレイク・ダイアトニック・コードと共に過ごしていた。
「うーん、こっちの梨はみずみずしくて美味しいけど蜜柑はちょっとすっぱいかな。ブレイク、罰としてそこで正座ね」
「はい、フォニム様の仰せのままに!!」
高い政治手腕で知られる秘書官長ブレイクであるが性癖の気持ち悪さは大将軍ビートとどっこいどっこいであった。
皇帝フォニムはソファに寝転がりつつ、梨を堪能し幸せに浸る。
が、何かを思い出したのか次の果物に伸ばした手を引っ込め、正座をする秘書官長ブレイクの方に顔を向けた。
「そういえば【シラベ国】の連中、今どうなってるの?」
「はっ、本日中に帝国領内の港に到着する予定です。迎えにやらせた者達からの報告によれば、帝国に帰参する意思に疑いはないようです」
「ふーん、なるほどね……」
皇帝フォニムは天井を見上げ、少しの間何事かを思案する。
「まあ帝国の威信を高めるせっかくの材料だし、予定通りこの件はがんがん宣伝していく方向でよろしく。ちょうど【オラトリオ騎士学校】に通う年齢の子供もいるんでしょ?編入させて見せびらかそう」
「了解致しました。うちの息子と同い年ですので、気にかけておくよう手紙で知らせておきます」
「そっか、オクターヴと同い年……ということはリズムとも同い年だね」
そう言って皇帝フォニムは、満足したのか再び果物に手を伸ばす。
幸せそうに果物を堪能する姿はとても一国の皇帝には見えない無邪気さだったが、この姿を外では決して見せることがない慎重さをこの皇帝は持っているのである。
秘書官長ブレイクはそんな秘密の姿をさらけ出してもらえる栄誉にしみじみと浸った。
「ブレイク、今ちょっとイラッとしたから正座から土下座に変更」
「ははぁっ!!」
*
二月、学力試験終了後。
わたしは今年も余裕で合格したと知らせる成績表を受け取った。
問題はわたし以外のみんな――特にレガートとクレシェンド公の結果なのだが……
「やりました」
レガートがわたしとリタの前に堂々と成績表を掲げる。
その内容は、かなり低空飛行であるが全科目無事合格。
「やったじゃない!正直あそこまで見てあげたのにその結果は手を抜いたなって気持ちがあるけど……」
「レガートが真面目にやったらかなり出来るのもうわかってるからね……」
「いいじゃない、合格は合格だよ」
確かにそれはその通りなので、これ以上は突っ込まないでおこう。
あとは一年生組の結果だ、一年生の教室まで聞きに行こう、と思ったまさにそのとき。
「姉上!やりましたよ!!」
「メロディさん!吉報をお届けに来ました!!」
リズムとオクターヴの声が聞こえてきた。
この様子だと何もかもうまく行ったようだ。
教室の外を見に行くと、走って駆けつけた一年生組がうれしそうに成績表を見せてくれた。
結果は不安だったクレシェンド公含めて全員合格、ブルースなんかは去年のわたしよりも好成績だった。
だがそれよりも目を引いたのは。
「メロディ先輩!見てください、とてもいい点が取れました!!」
そう言いながらマリアが見せてくれた成績表で、それにはとても座学が苦手だったとは思えない高得点が並んでいた。
「素晴らしいわね、あなたの努力の成果よ」
「いえいえ!リズムとオクターヴくんが普段から見てくれていたおかげです!」
マリアはにっこり笑って二人の方を見つめ、リズムは微笑みで、オクターヴは手を振ってそれに応える。
よしよし、既に大陸中の噂になっているが【シラベ国】の騎士達は帝国に帰参――即ち【道標】にある【帝国シナリオ】に入っている。
このままリズムとマリアの仲を深めさせて来年度は【リズムシナリオ】に突入だ!
*
ここまではメロディの思惑通りことは進んでいる。
しかし来年度こそ彼女は直面することになる。
【ムジカの上王】と【魔法使い】は【メロディシナリオ】を望んでいることに。
そしてマリアの本命がもはや完全にメロディに決まっていしまっていることに――!




