5話
「今は入学準備で忙しい時期なのに二人とも来てくれてありがとう。しばらくメロディくんに会う機会がないと思うと、今のうちに話す機会が欲しくなってね」
「お気になさらないで下さいまし、陛下。もうほとんど支度は終わって、娘は休暇のようなものですのよ」
「ですから陛下にお会いできるのを楽しみにしておりました!」
「良かった。そう言ってもらえて余も嬉しく思うぞ」
あ~お外モードの皇帝陛下、本当に素敵……
皇帝陛下の薄紅色の瞳で見つめてもらいながらこんなことを言って頂けて、喜ばない者は老若男女いないだろう。
「ブルースくんもメロディくんが行ってしまうと淋しいだろう?」
あ、はい。そっちに話を振りますよね。
そういう個人的な感情はさっぱり無いから彼も困ってしまうだろうに。
わたしだったら返答に間が空いてしまうところだ。
「ええ、僕は手合いで未だに彼女に勝てていませんから。一年間も再戦の機会がないというのは悔しいものです」
「おやおや、【騎士】らしい答えを返すようになったじゃないか」
本気ならば彼への評価を改めてもいい立派な答えだ。
でも何度も手合いをしているわたしからすれば笑ってしまう大嘘だ。
ブルースは、剣にあまり興味がない。
才能はある、真面目に鍛錬もしている。なのにわたしに一度も勝てていないのがその証拠だ。
闘争心というものが、少なくとも剣での手合いにおいて彼には感じられない。
わたしは剣の道こそ【騎士】の道と考えているから、そこで彼への評価がいまいち低いわけだ。
まあ彼だって剣以外のこと、母親のように学問とかには闘争心を燃やすのかもしれないけれど。
「ではわたしはブルースとの再戦を楽しみにして、剣技を磨いて待つことにします」
わたしからの返しはこんなものでいいだろう。
【オラトリオ騎士学校】には【ムジカ大陸】にある全ての国の若き【騎士】が集まっている。
他国の【剣技】を知り今よりも強くなるための絶好の場所だ。
*
『【ムジカ大陸】
物語の舞台となる大陸。
【地母神ヴィルトゥオーソ】が信仰され、【騎士】が支配している。
【オルガノ王朝】・【クラシック王国】・【トライアド帝国】・【ピアノ公国】の四国が存在し、
後ろの三国が【ムジカ大陸】の覇権を争っている。
【クラシック王国】
主人公が所属する国。
君主はルードヴィヒ王。首都は【マイスタージンガー】。
人口は大陸内二位で東海小国群との交易網を持っている。
王権力の強化を望む現王と諸侯の間で潜在的な対立が育まれつつある。
【トライアド帝国】
君主はフォニム帝。首都は【トリニティ】。
人口は大陸内一位で資源も大陸内の半分以上を有している軍事国家。
国内の結束力も強く、大陸統一に最も近いと言われている。
【ピアノ公国】
君主はクレシェンド公。首都は【カンタータ】。
人口は大陸内三位で君主は【ムジカの上王】と縁戚関係にある。
クレシェンド公はまだ年少のため、摂政フォルテ伯爵が実権を握っている。
【オルガノ王朝】
物語の主な舞台となる【オラトリオ騎士学校】がある国家。
君主は【ムジカの上王】ムジカ十五世。首都は【聖都オラトリオ】。
名目上は【ムジカ大陸】全土の君主だが、現在は実権はなく【地母神ヴィルトゥオーソ】の祭祀を行っている。
 




