46話
そしてやって来た二年目の野外演習。
今年も重装備での行軍から野外演習の行程は始まる。
去年と比べればみんな慣れたもので、無駄口も無く静かに行軍を進めている。
問題は到着後、三年生の先輩方が用意した物資を受け取っての陣地構築作業だ。
後発の一年生が到着するまでにある程度区割りを終えておかなければならないので迅速に作業しなければならない。
わたし達は今日までの演習の授業で培った技術を活かし、急ぎ、かつ冷静に作業を進めていく。
意外にもセバスティアン王太子が器用でとても頼りになった。
「そんな意外そうな顔をされると複雑な気持ちになるのだが?」
おっと、顔に出てしまっていたか。
「失礼致しました。野営がご趣味だったりするのでしょうか?」
「まあな。王宮から離れられる趣味ならなんでもやっていた、と言ったほうがいいか」
なんだか複雑なご家庭のようだ。
王族は気苦労が多いものだし、王国は後継者争いで色々とあったらしいから尚更だろう。
我らが皇帝陛下も皇配殿下や皇子・皇女殿下の前ではおうちモードになることはないと聞く。
セバスティアン王太子の仄暗い一面を覗きはしたものの作業は順調に進み、無事に一年生を迎えられた。
そうすれば作業は一旦休憩、野戦糧食で昼食の時間である。
内容は去年と変わらず、しかし班のメンバーに大食らいはいないので全員満足の量だ。
去年はユニコーン狩りのついでにおやつを確保できたが今年はそんな暇がないレガートはどうするのだろう?
暇があったら後で様子を見に行ってもいいかもしれない。
「さて……お腹もいっぱいになったし、さっさと残りの作業も終わらせましょうか」
「ああ、俺の担当の作業はほとんど済んでいるから手伝いがいるなら言ってくれ」
「お二人に迷惑をかけないようにわたしもがんばります……!」
意気込んでいるがアニマの担当の作業はわたし達に比べると少し遅れ気味である。
わたしの担当の作業が終わったら手伝うとしよう、あまりからかい過ぎないようにも気をつけて。
*
作業終了後、一年生の早い班がユニコーン狩りを済ませて戻ってくる頃合い。
わたしはセバスティアン王太子とアニマに一言ことわってからアリコーンが襲撃してくる場所の様子を見に来ていた。
この場所を担当した班の仕事ぶりはなかなか良かったらしく、防衛戦もしやすそうだ。
三年生が夕食の用意をしている場所からはいい感じに離れており、襲撃のタイミングで巻き込まれる生徒も少ないだろう。
そんな風に考えていると、後ろから何やら近寄ってくる気配。
わたしが咄嗟に振り返ると、そこにいたのはお腹をすかせたレガートだった。
「メロディの薄情者……」
「薄情者って……しょうがないじゃない、今年はおやつを確保する時間なんてないのよ」
「そっちじゃない、こんなところでのんびりしてないでわたしに会いに来てもいいじゃない」
ああ、そっちか。
「ちょっと景色を見てただけよ、これからちゃんとあなたの様子を見に行くつもりだったわ」
「本当に……?ならいいよ」
機嫌を直してくれたようである。
そのままわたし達は移動せず周囲を眺めながらおしゃべりをした。
話題は大したことではなく、最近わたしが弟に構ってばかりなことへの愚痴だったり景色のことだったり。
それでもそこそこ楽しかったので、目の前をレゾナンスの奴とヨハン少年が言い合いをしながら通り過ぎていったのも見なかったことに出来た。
あの二人、同じ班だったんだな……ヨハン少年に少し同情。
そうしている内に一年生達は全員陣地に帰還、リズム達も無事課題をこなしていた。
時刻はもう夕食の時間で、アリコーンの襲撃が迫っていた。
*
夕食の配給が始まるとわたしは迅速にセバスティアン王太子とアニマに合流、さっさと夕食を受け取り猛スピードで平らげる。
この後すぐ戦闘をしなければならないので腹八分目の量にしておくのも忘れてはいない。
「フロイライン・メロディは何か用でもあるのか?」
「作業は全部ちゃんと終わってますよね?」
二人に少し訝しがられたがここは仕方ない。適当に誤魔化して散歩の名目でアリコーンの襲撃地点に先回りしに行く。
するとその道中、今度はオクターヴと親衛隊のみんなに遭遇した。
聞けば彼らも食事をさっさと済ませてしまって、就寝の時間までわたしと過ごせないかと探し回っているところだったらしい。
アリコーンとの戦闘に巻き込んでしまうが、わたしの手出しをするなという指示を他の生徒達に伝えてもらう人手があると便利でもある。
わたしは彼らといっしょに散歩――アリコーンの襲撃地点に向かうことにした。
「オクターヴはユニコーン狩り上手くいったかしら?」
「はい!でもあのロックってやつが突っ走るものだから僕はほとんど見てるだけだったんですけど……」
「彼、帝国の生徒なら誰彼構わず張り合って来て感じ悪いんですよ!」
「公国の中でもちょっと浮いてますね」
「仲良くやってるのはノイズ・マイナー・セブンスコードくらいじゃないでしょうか、彼も浮いてますし」
オクターヴと親衛隊のみんなの話をうんうん、と聞いていると一瞬空気が静まり返る。
そして押し寄せてくる強大な殺気――間違いない、アリコーンのものだ。
わたしは上空にあるはずのアリコーンの影を探りつつ叫ぶ。
「なにか来るわ!みんな伏せて!!」
「はい!!」
彼も殺気を感じ取ったのか、オクターヴはいち早く反応し親衛隊のみんなを伏せさせる。
そこに上空から強風が押し寄せてくる!
「きゃあっ!!」
「なんだ!?」
親衛隊のみんなの悲鳴と、異変に気がついた生徒達の叫びが響く。
そんな中わたしは、舞い降りた敵――アリコーンと対峙していた。
真白く優美な外見と裏腹に、殺意に満ちた瞳がこちらを射抜く。
上等だ、かかってこい!




