44話
今年の野外演習が近づいてきた。
ということは野外演習の班分けが発表されるということである。
朝の勉強会を終えて掲示されている班分け表を見に行くと、そこには既にリタがいた。
「おはよう、リタ」
「あっ、おはようみんな。レガートには残念だけど今年は違う班だったよ」
「そんな」
レガートはさっと動き出し人混みをかきわけて班分け表を確認しに行ってしまった。
わたしは急がずにちゃんと並んで班分け表を見る。
『第一班 アニマート・ラメント
メロディ・ドミナント・テンション
セバスティアン・ヴァン・クラシック』
おっ、今年はセバスティアン王太子と同じ班なのか。
公国の生徒は名前に聞き覚えがないな、親衛隊に入っている子なら覚えているのだけれど。
まあ【道標】も反応しないし、あまり気にせずそこそこに仲良くやれたらいいな。
「本当にいっしょじゃなかった……」
レガートの嘆きが聞えてくる。
残念だけどそんなに毎年上手くいくはずもないし、諦めなさいという思いを込めて頭を撫でてやる。
すごい勢いでこっちを向いて少し輝いている、ように見えなくもない瞳でわたしを見つめるレガート。
期待してもこれ以上はないぞ、ということで視線をそらして一年生の班分けを確認する。
えーっと、マリアの名前はっと……
『第三班 ノイズ・マイナー・セブンスコード
リズム・ドミナント・テンション
マリア・フォン・ウェーバー』
なんということでしょう、めちゃくちゃ上手くいっている。
これなら野外演習で起きる『事件』にも上手く対応できそうだ。
気分がいいのでオクターヴ達がどういう班分けになったかもついでに見ちゃおう。
『第四班 ロック・モード
オクターヴ・ダイアトニック・コード
ヨハンナ・シュトラウス』
オクターヴはロック・モードのやつといっしょか、上手くやれるといいけど……
ブルースの方はどうかな?
『第一班 クレシェンド・ピアノ・コンチェルト
ブルース・ストレイン
エリーゼ・シューマン』
こっちはクレシェンド公と、親衛隊に入っている王国の子といっしょのようだ。
クレシェンド公の世話は大変そうだがそれ以外は上手くやれそうかな。
大体確認できて満足したわたしは掲示の前から離れてみんなと合流する。
「お待たせ、みんなも確認できた?」
「はい、姉上。マリアといっしょで少し安心しました」
「仲のいい人といっしょだとうれしいですよね。ヨハンは知らない人達といっしょで大丈夫?」
「そんな子供にするみたいな心配しないで下さいよ!」
そして雑談をしながら朝食を取りに食堂へと向かうのだった。
*
演習の授業の時間になり、班ごとに集まるわたし達。
既に知った仲のセバスティアン王太子に軽く挨拶をしてから、初めて会話するアニマート・ラメントの方を見る。
彼女はなんだか緊張している様子だ。まあ一国の王太子と色々目立っているわたしと同じ班だものな。
ならばここはわたしから会話を始めるとしよう。
「わたしから自己紹介させていただくわね。メロディ・ドミナント・テンション、メロディと呼んで下さい」
「俺は【クラシック王国】王太子、セバスティアン・ヴァン・クラシックだ。堅苦しくするな、というのは無理だろうがよろしく頼む、お嬢さん達」
わたしの自己紹介にセバスティアン王太子も続き、アニマート・ラメントの番になる。
彼女は少しきょろきょろとしてから、意を決したように口を開く。
「えっと、わたしはアニマート・ラメント、アニマと呼んで下さい。あの、実はずっとメロディ様に憧れてて、でもわたしなんかが近づいていいのかって思って、話しかける勇気もなくて……同じ班になれてとても光栄です!」
顔を真っ赤にしながらそんなことを言われた。
なるほど、そういうタイプのファンもわたしにはいたのか……
せっかくの機会だ、存分にファンサービスしてあげよう。
「こちらこそそう思ってもらえて光栄だわ。野外演習はよろしくね、アニマ。あとメロディって呼び捨てにしてくれないかしら?」
「そんな、恐れ多いです!!やっぱり愛称ではなくアニマートと……」
「いいじゃない、ほら握手」
「あ、あ、握手!メロディ様のお手に!?」
なんか少し面白くなってきたな。
「あー、フロイライン・メロディ?フロイライン・アニマで遊ぶのはその辺にして、今年度の課題の確認に入りたいのだが」
セバスティアン王太子にたしなめられてしまった。
「ごめんなさい、つい可愛くって。アニマもからかっちゃってごめんなさいね?」
「ひゃい……かわいい……」
二年生の課題は陣地構築であり、覚えておかなければならないことが去年よりもずっと多い。
そこから先はちゃんと真面目に野外演習のしおりを見てやるべきことを確認した。
わたし達が準備した陣地で先輩と後輩が一夜を明かすのだから責任は重大である。
それに野外演習で起きる『事件』に上手く対処するために陣地内の位置関係もしっかり頭に叩き込んでおかなければならない。
夕食中の【幻想生物】の襲撃――ユニコーンの希少種である有翼のユニコーンに対処するために。
 




