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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
二章
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43話

 ノイズが仲裁に入ったそのとき、張りぼての【幻想生物】達の対処も全て終わったようで図書館にいた他の生徒達も騒ぎの中心であるわたし達の元へ集まってきた。

わたしとロック・モードの間の不穏な空気に彼らにも緊張が走り、帝国の生徒はノイズの存在にも不審さを感じているようだ。

そんな中最初に口を開いたのはロック・モードだった。


「ノイズ……君が言うならこれ以上はやめるさ。だが最初に騒ぎを起こしたのはそこの帝国人だってことは変わらないからな」


「だからっ、その本に触っちゃったのはわたしで……!」


「いいのよ、マリア。わたしとあなたが本を探してたらこの騒ぎが起きた、それでいいでしょう?」


「メロディ先輩……!」


 潤んだ瞳でこちらを見つめてくるマリア。

くっ、【道標】で今回の騒ぎを知ってた上でマリアに起こさせたので罪悪感が!

というか魔導書を捕まえる役をロック・モードに取られてしまったわけだがどうしようこれ。


 ロック・モードは一度大きな溜息をし、かがんで踏みつけにしていた魔導書を拾おうとする。

が、その瞬間魔導書は飛び上がり再び宙を舞った。


「んなっ!!」


「もう、なんですかあなた達!わたしの話を聞かずにさっさと終わらせようとしちゃって!!」


 もう歌うようにではなく、普通の話し方になった女性の声が響き渡る。

こいつ、まだ力を残していたのか!


「そこのあなた!地母神に選ばれたあなた!!わたしが大切なことを教えてあげるから、他の人達を黙らせて!!」


 魔導書はマリアの方に飛んでいき、彼女の背後に隠れるようにふわふわと滞空する。

マリアは困惑してわたしの方に指示を求めてくる。


「メロディ先輩、これどうしましょう!?」


 わたしは考えることもなく答える。


「無視してやってしまいなさい!」


「はい!!」


 マリアの肘鉄がきまり、魔導書は勢いよく吹っ飛んだ。


「ええぇーーー!?酷くないですかーーー!?」


 悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく魔導書をリズムが真っ先に追いかけていく。

よし、いいぞリズム。今度こそ捕まえてしまえ!


「大人しくしろ!」


 リズムは見事に魔導書をキャッチし、開いていたページを無理やり閉じる。

少しの間逃れようとする魔導書の抵抗は続いたが、それもだんだん弱くなっていく。

そして最後に途切れ途切れの女性の声が聞えてきた。


「後悔しても……知りませんよ……いまこの学校に……迫っている危機を……」


 そこまで言って女性の声は聞こえなくなり、魔導書の動きも完全に止まった。


「よくやったわ、リズム。ロック・モードくんは大丈夫かしら?」


 リズムが魔導書を間違いなく捕まえたことを確認した後、わたしは振り返って魔導書に弾き飛ばされたロック・モードの様子を確認する。

幸い怪我は無いようで、ノイズに手を借りて立ち上がったところだった。


「……別に大丈夫だ。じゃあな!」


 ロック・モードはバツが悪そうにわたし達の前から去っていった。

ノイズもその後を追いかけ、残ったのはよくわからないけれど問題は解決したんだろうという気の抜けた空気。

そんな中でヨハン少年とヨハンナ少女がマリアに駆け寄って来る。


「マリアお嬢様!一体何があったんですか!?」


「公国の少年と揉めているようでしたが大丈夫です?」


「二人とも大丈夫だよ。詳しいことは後でゆっくり説明するけれど、騒ぎの原因はリズムがなんとかしてくれたし……揉め事も穏便に済んだから」


 そう言ってマリアはリズムの方を見る。


「ありがとう、リズム」


「どういたしまして。でもこのくらいどうってことないさ」


 おお、これはいい感じの雰囲気。

ロック・モードのことで途中不安になりはしたが今回の作戦も上手くいったようだ。

わたしが満足していると、何かあるのかマリアはこちらに振り返った。


「でもメロディ先輩、今回のことでわからないことがあるんです」


「えっ……なにかしら?」


 なんだ?もしや対応が早すぎるのが不自然だと思われた?


「あの本が最後に言っていた『学校に迫っている危機』、いったいどういう意味なんでしょう?」


「ああ、そのことね!あんな怪しい本が言ったことなんて気にしないほうがいいわよ」


「そうでしょうか……まあメロディ先輩がそう言うならそうなんでしょうね」


 良かった、わたし達の行動が不審に思われたわけじゃなかった!

確かに本来今回の『事件』であの魔導書が意味深なことを色々としゃべるはずだったみたいだけれど、大事なことは【道標】にも書いてあるから問題なしだよ!



 その後、騒ぎの原因を説明したり魔導書の後始末を頼んだりで忙しくその日は論文の作業に取り組むことは出来なかった。

でも時間はまだまだ十分にあった。

わたしは自分の論文――テーマは『シラベ国の保有する戦力の類推』にした、に取り組みつつレガートとクレシェンド公がちゃんとした論文を書くように手助けをするという任務も無事こなすことが出来た。

マリアもリズムとオクターヴの助けを借りて論文を完成させたようで、二人に礼を言っているのをみかけた。


 そして迎えた表彰式の日。

わたしは二年連続での表彰を達成し、去年よりもさらに大きくなった黄色い声を浴びる。

親衛隊からの祝いの言葉に笑顔で応えるが、一つ面白くないこともあった。


 一年生で表彰を受けたのがあのロック・モードだったのである。

文武両道とはやるな……でも失礼な態度のツケはいつか必ず取らせるぞ。

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