41話
朝は勉強会でレガートとクレシェンド公に頭を抱え、授業中は親衛隊の黄色い声を浴びながら研鑽に励み、放課後はブルースをしごきつつ自分も鍛錬を積む。
そんな学校生活二年目にも慣れ始めた頃、年度最初の学校行事である論文コンテストのテーマが発表された。
『論文コンテストテーマ:シラベ国について』
それが【道標】に記されていた来年起こることを予告するようなものだったので、わたしは少し驚いた。
【道標】によると来年シラベ国に渡っていた騎士がシナリオに応じた国――最も多く【勢力フラグ】が貯まっている国に帰参し、その子女が【オラトリオ騎士学校】に編入することになっているのだ。
『【シラベ国】
【ムジカ大陸】の東に位置する東海小国家群の一つ。
ムジカ・オルガノ・コンチェルト一世が派遣した調査団の末裔である【騎士】を擁している。
内乱状態が続き、長らく交流が絶えていた。』
どうやって論文コンテストのテーマが決まっているのか少し気になったものの、考えてもわからないことなのですぐに頭から追いやる。
わたしが今から考えなければいけないのはテーマに沿った論文を仕上げることと、学校行事とともに起こる『事件』にどう対応するかなのだから。
*
ムーサ師匠曰く。
「これからマリア・フォン・ウェーバーがこの学校にいる間、学校行事で必ず『事件』が起こる。歓迎パーティーで起きた君と彼女の決闘もその一つだ。そしてそのとき必ず【勢力フラグ】と【キャラフラグ】の大幅な変化が起こる。だから学校行事のときは特に注意してマリア・フォン・ウェーバーと一緒に行動しろよ」
というわけで【マリア・フォン・ウェーバー攻略計画】第三段階、『事件』に参加せよ!である。
今年の論文コンテストでは資料を探しに図書館に行ったとき偶然先代の【魔法使い】が遺した魔導書を発見してしまい、魔導書が起こす混乱を任意の【攻略キャラ】と解決する、という『事件』が起こるらしい。
去年見つけたヴィルヘルム・フォン・メンデルスゾーンの手紙といいここの図書館実は危険物の宝庫なのでは?
ともかく『事件』が起きる場所も状況もわかっているのだから早速参加してしまおう。
わたしは朝の勉強会がお開きになるとき、論文コンテストのために図書館に行くことを提案した。
「えっ、助かります!論文なんてどうしたらいいのかって困っていたところなんです」
マリアは快く誘いに乗ってくれた。問題は……
「じゃあ、ヨハン達も誘わないと。ブルースくん達も来ますよね?」
「ああ!もちろん参加させて欲しい」
「メロディ様、わたし達ももちろんご一緒していいですよね!?」
「っていうかクレシェンド公とレガートさんにも参加していただかないとまずいです!」
「絶対ダブル『おいしいカレーの作り方』になります!!」
一目惚れした少女に誘ってもらえて浮かれているブルースに、ヨハン少年、クレシェンド公という三人の【攻略キャラ】も一緒に参加する流れになってしまうこと。
だが【勢力フラグ】と【キャラフラグ】を稼げるポジションは既に把握済み。
わたしはリズムに目配せを送ってから、にっこりと微笑んだ。
「ええ、みんなでがんばりましょう。ただし図書館ではお静かにね?」
*
放課後、リズム達一年生組とは図書館で合流することにしてわたし、レガート、リタ、親衛隊の二年生組は今年の論文テーマについて確認しつつ図書館を目指していた。
「東海小国家群については交易が盛んな王国の書籍を当たるべきかしらね?」
「いやー、基本はそうだけどシラベ国はたまに漂流者が来るくらいで全然交流ないんだよね」
わたしの質問にリタは首を横に振りながら答えた。
「三国が成立する前、調査団が派遣されたときの王朝の資料が一番詳しいんじゃないかな?」
「かなり古い資料しかないってことね……シラベ国からの漂流者の話は帝国にも少しなら伝わっているけど、公国ではどうなの?」
レガートに話を振ると、彼女もふるふると首を横に降った。
「公国には全然伝わってきてないよ、小人がいるとか不老不死の薬があるとか、おとぎ話がいくつかあるくらい」
「おとぎ話か……小人は要するに平民を大袈裟に言ったものでしょうね。不老不死の薬の話は帝国にも伝わっているわ、派遣された調査団の真の目的は不老不死の薬だった……なんてとんでもない話」
「あっ、それわたしも聞いたことあります!」
「当時の【魔法使い】が遠見の魔法で見つけた、ってやつです!」
「調査団は不老不死の薬を独占したから帰って来ないんだってオチなんですよね~」
そんな風に話していると、いつの間にか図書館に到着していた。
一年生組が先に到着しており、マリアがこちらに手を振っていた。
「メロディ先輩、こっちでーす!」
「ごめん、待たせちゃったわね」
「いいえ、わたし達もさっき着いたところです」
マリアはそう言うが、ヨハン少年の表情はだいぶ待ちくたびれたように見える。
まあ彼は乗り気ではなかったからかもしれないが……
わたし達は図書館では静かにして迷惑をかけないようにすることを再確認し入館する。
そしてリズムに小声で話しかけ、『事件』に備える。
「わたしが問題の魔導書を見つけるから、捕まえる役しっかりね」
「はい、俺に任せて下さい」




