39話
ムーサ師匠曰く、これからしばらく日々の交流で少しずつ【勢力フラグ】と【キャラフラグ】を貯めていくのが【マリア・フォン・ウェーバー攻略計画】第二段階、日々の交流積み重ね作戦だ。
うん、そのままだ。
ともかく出来るだけリズムとマリアを一緒に過ごさせればいいのだが、ここでとても都合のいいことがあった。
マリアはどうも座学があまり得意ではなかったのだ。
その点リズムは座学もばっちり、なのでわたしから弟に勉強を見させると自然に提案できた。
マリアは苦手なことをなんとかしたいと自分でも思っていたようで、それを受け入れ今朝もリズムと二人で勉強会をしているはずだ。
「あっ、居た居た。姉上、おはようございます」
「メロディ先輩、おはようございます」
二人のことを考えていたらちょうど二人も朝食を取りに来たらしい。
しかし挨拶を返そうと振り返ると、そこにいたのは二人だけではなかった。
「やっと飯にありつける……長かった……」
「そんなに長くなかったですよ、それにヨハンがもう少し授業をちゃんと聞いていればもっと早く終っていました」
マリアの従士であるヨハン・ブラームス少年とヨハンナ・シュトラウス少女だった。
名字が違うから関係ないんだろうけど双子感あるなこの二人……と、そんなことはどうでもいい。
会話の内容からしてもしや、と思いリズムの顔を見ると申し訳無さそうな顔をしていた。
「あ、この二人はわたしの従士のヨハンとヨハンナで、ヨハンも座学が苦手だから一緒に見てもらえるようにお願いしたんです」
にこやかにマリアが説明する。
やっぱりか……これはつまり王国の【勢力フラグ】とヨハン少年の【キャラフラグ】も一緒に貯まっているというわけで。
ヨハン少年はこれまでマリアと一緒に過ごしてきた積み重ねがあるわけで。
まずくない?
*
というわけで、わたしとリズムとムーサ師匠の三人で作戦会議をしたいのだが……
「こっちから呼び出すのは初めてだから本当に出来るのか不安なのよね……」
「帰りをどうするかも不安ですよね……」
以前預けてもらった【訪ねの鏡】を使うべく、わたしとリズムは消灯後部屋を抜け出し学生寮の裏にいた。
部屋を抜け出したことがバレたらもちろん反省室送りである。
「えーっと、鏡に月を写して、呪文を唱えるのよね」
リズムと手をつないでこほん、と咳払いをしてから教えてもらった呪文を唱える。
「鏡よ鏡、月の光の導きのもと、偉大なる魔法使いのもとへ、我らを訪ねさせ給え」
この呪文って誰が決めたんだろうか?
ムーサ師匠が自分で自分を「偉大な魔法使い」とか……言いそうだが。
そんな疑問が頭をよぎるがすぐにそんなことはどうでもよくなった。
周囲の景色がぐにゃりと歪んだのだ。
「姉上!!」
リズムがわたしの体にしがみつく。
「リズム、しっかりつかまって!」
こんなわけのわからない状況ではぐれてしまったら絶対大変なことになる。
わたしもリズムとつないでいた手を強く握り、【訪ねの鏡】を持っている手で彼の体をしっかりと包む。
そしてそのまま数秒が過ぎ、歪んでいた景色がしっかりとした形に固まる。
それは明らかに怪しい実験器具が転がる部屋だった。
「ここは……」
「おう二人とも、何か問題でも起きたのか?」
声の方に振り返ると、そちらにも怪しい実験器具が転がっていたがごく普通のテーブルと椅子もあり、ムーサ師匠が読書をしていた。
どうやら無事にたどり着けたらしい。
「はい、ちょっと相談がしたくて……ところで何なんですかこの部屋?」
「何って普通にあたしの自室だぜ?」
落ち着いて辺りを見回す。
確かにベッドやクローゼットなども備え付けられている。
だがやはり怪しい実験器具は転がっているし、変な煙を出しているし、発光する謎の液体もあった。
「使い方がわからないものはわからないままにしといた方がいいぜ?」
「あっはい」
*
ムーサ師匠が紅茶を入れてくれたのでわたしとリズムはテーブルにつき、紅茶をいただきながら現状を報告した。
「ヨハン・ブラームスが目障りか……」
「言い方があれですけどまあそういうことですね。なんとか彼に先んずる方法はないでしょうか?」
ムーサ師匠はクッキーをかじりながら答える。
「ヨハン・ブラームスが一番有利な位置にいることはわかってたからな、対策は用意してあるぜ。先んずるんじゃなくて、こいつがマリア・フォン・ウェーバーから離れるようにすればいい」
「離れる、ですか?彼はマリアの従士ですからそれは難しいのでは?」
リズムの質問にもムーサ師匠は余裕綽々で、クッキーをわたし達にも勧めながら答える。
「何も裏切らせるってわけじゃない、ちょっと一緒にいる時間を減らすだけだ。こいつにはわかりやすい興味を持つ方向があるからな」
ムーサ師匠の示唆を理解すべく、わたしは【道標】を確認した。
『ヨハン・ブラームス 攻略キャラ 所属:【クラシック王国】-
ウェーバー伯爵家に仕える従士。
【剣帝】を目指す小柄な少年。主人公と同学年。
主人公とは幼馴染でいつもいっしょに過ごしてきた。
同僚のヨハンナからは子供っぽさをよくからかわれている。
自軍ユニットとしての性能は敵視を集めるディフェンダータイプ。』
【剣帝】を目指している、これはつまり……
「メロディ、君がヨハン・ブラームスの興味を剣の腕前で引き付けてしまえばいいのさ」




