34話
入学式、【オラトリオ騎士学校】正門に新入生が続々と到着する。
わたしはそこでドミナント・テンション家の家紋が付いた馬車を探していた。
少しの時間待つことになったが、我が家の馬車は無事に到着し、中から一人の少年が降りてくる。
わたしの弟、リズム・ドミナント・テンションと一年ぶりの再会だ。
「いらっしゃい、リズム。少し背が伸びたかしら?」
わたしの呼びかけに、後ろに花が咲き乱れる幻が見えるような笑顔でリズムは応える。
「お久し振りです、姉上!姉上の方はよりいっそう美しくなられましたね!!」
「ふふふ、おだてないの。まあ、元気そうで何よりだわ」
わたし達は近寄り合い、再会のハグを交わす。
すると一人の少年がわたし達の方に声をかけながら駆け寄ってきた。
それは幼馴染で弟の親友、オクターヴ・ダイアトニック・コードだった。
「メロディさん、お久し振りです!相変わらずお美しぐはっ!!」
リズムの振り返りざまの拳が見事に入った。
「リズム、お前、酷くないか!?」
「姉弟の再会を邪魔しようとするお前が悪い……さあ姉上、荷物を寮に運んでしまいたいので案内して頂けますか?」
「出たなシスコンダブスタ対応……メロディさん、僕も案内して頂きたいです!」
わいわいと騒ぎ出すリズムとオクターヴ。
うん、遠慮なく付き合える親友が弟にいてくれるというのはありがたいものだ。
それにしてもオクターヴ、見ないうちにはきはき話すようになったな?
リズムと二人のときは以前からこんなものだがわたしがいるときは緊張して大人しい感じだったが……
なにか自身がつくような出来事があったのだろうか?なんにせよいいことだ。
「メロディ様、見つけました!」
「入学してくる弟さんは見つかりましたか?」
「二人いますがもう一人はどなたでしょうか!?」
わたしの取り巻きの女子生徒達が集まってきた。
もはや慣れてきたが今ここは新入生も集まっていて渋滞状態なのでさらに人混みを作るのは良くない。
リズムとオクターヴ、女子生徒達を連れて寮の談話室へと移動することにした。
*
「というわけで、こちらが弟のリズムでそちらが幼馴染のオクターヴよ。帝国のみんなは知っているでしょうけど、どちらも侯爵家の跡取り息子、その役目を果たせるように指導してもらえるとうれしいわ」
「姉上の手紙でみなさんのことはいつも伺っています。みなさんのおかげで充実した学校生活が送れていると、弟としてお礼をさせて頂きますね」
リズムが今度は背景が光り輝いているような微笑みを見せる。
「メロディ様がそのようなことを……!」
「わたし達こそメロディ様がいらっしゃるおかげで薔薇色の学校生活です!」
「弟さんも素敵な方ですね、メロディ様!」
「ええ、わたしの自慢の弟よ」
すごいぞリズム、これがハミィの恋愛テクニック講座の成果か!?
女子生徒達がわたしだけでなくリズムのこともきらきらした目で見つめだしている。
オクターヴは呆れたような目でリズムのこと見ているけど。
「じゃあ二人とも、そろそろあちらの男子寮で荷解きと着替えをして来なさい。入学式が始まる前に校内の施設を案内してあげるわ」
わたしがそう提案すると、二人は了承し荷物を持って男子寮へ向かった。
そして二人が制服に着替えてくるまでわたしはこのまま談話室で待つことにした。
「メロディ様、校内の案内にわたし達もついていってよろしいでしょうか?」
「弟さん達から見たメロディ様のお話を聞いちゃったりしても……?」
「そういえばレガートさんとリタさんは今日いっしょにいらっしゃいませんね?」
少し暇なので女子生徒達の質問にもひとつひとつ返すことが出来る。
「ついてきても構わないわよ、弟達とも仲良くしてあげてちょうだい。レガートは新入生に公王陛下もいらっしゃるからそちらよ、リタも幼馴染が新入生にいるらしくてそちらに」
リタの口振りからその幼馴染が彼女の言うところの先導者――【道標】にあるところの『主人公』、つまりマリア・フォン・ウェーバーではないこと予想している。
なるべく早く彼女とも接触したいところだ。
そしてレガートの方は……婚約者にして既に公王の座にあるクレシェンド・ピアノ・コンチェルト公を優先しなければならないから今後もいっしょにいられる機会が減るかもしれない。淋しいところだ。
そんな風に女子生徒達と雑談をしていると、観葉植物の影からひょこっとムーサ師匠が現れた。
そしておいでおいでと手招きする仕草をしだした。
わたしがそれに気がついたことを確認すると、指を鳴らして姿を消す。
「……ごめんなさい、急用を思い出したので部屋に戻るわ。リズムとオクターヴには申し訳ないと伝えておいて」
「メロディ様?」
困惑する女子生徒達を置いて、わたしは寮の自室へと駆け出した。
*
部屋に入ると思ったとおりムーサ師匠がいた。
呼び出した理由をわたしが尋ねるより早く周囲の景色が変わり――わたしと師匠、それと制服に着替えたリズムが修練場に集まっていた。
「え?いきなり何が!?って姉上もいる!?」
「落ち着いてリズム!手紙に書いたでしょう、彼女が【魔法使い】よ!」
わたしが慌てるリズムを宥めるのをにこにこ眺め、ムーサ師匠が語りだす。
「よお、リズムくん。お姉様から話は聞いてるし君もお姉様からあたしのことは聞いているだろう?だから面倒な挨拶やらは抜きで行こう」
ムーサ師匠が堂々と腕を組む。
「【マリア・フォン・ウェーバー攻略計画】第一段階、出会いイベントの作戦会議だ」




