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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
一章
32/97

31話

 わたしの可愛い弟、リズムへ。

早いものでもう十二月、【オラトリオ騎士学校】に入学してもう八ヶ月が経ちました。

今こちらはムジカ・オルガノ・コンチェルト一世の誕生日を祝う【聖誕祭】の話で持ちきりです。

聖誕祭パーティーでは異性とペアを組んで行うダンスコンテストがあり、例年はそのためのパートナー探しで生徒達の間に甘酸っぱい空気が漂うそうです。

わたしはダンスコンテストには出るつもりがないのでこの行事に限っては脇役のつもりです。

うん、そのつもりだったんだけれど……


 現実逃避終了。

終業後、わたしは剣術トーナメント優勝を経てさらに規模を増した取り巻きの女子生徒達に追い詰められていた。

話題はもちろん聖誕祭パーティーのことである。


「ダンスコンテストに出るつもりがないって噂は本当ですか!?」


「じゃあわたし達みんなで過ごしてくださるってことでしょうか!?」


「それともレガートさんと過ごすって噂が本当なんでしょうか……?」


 次々と質問が投げかけられ、流石のわたしも押され気味だ。

レガートとリタに助けを求められないかと思ったが、彼女達は人混みの向こうに追いやられていた。

どうやらレガートが何かをやらかそうとしているのをリタが必死に止めているように見える。

うん、ここはわたしだけで切り抜けなくてはならないようだ。


「あー、みなさん!質問には答えるから落ち着いて!」


 女子生徒達は話しかけてくるのをやめ、わたしを期待するようなきらきらした目で見つめた。


「ダンスコンテストには出るつもりはないわ。どう過ごすつもりだったかというと、あなた達のダンスを眺めて応援するつもりだったのだけど、みなさんも出ないつもりなの?」


 わたしの言葉に女子生徒達の中でどよめきが走る。

彼女達はしばらく顔を見合わせ何事かを相談し、やがて一人が手を上げて質問してきた。


「それはもしかして、ダンスコンテストで優勝したらメロディ様からのご褒美がある、という?」


「えっ、ご褒美?えーっと……一生徒のわたしからなにか正式に送るなんてことはないけど、優勝した方にはダンスのコツを教えてもらったりしたいとは……思っているかな?」


「それって……」


「つまり……」


「メロディ様と二人きりになれるチャンス!?」


 女子生徒達は飛び跳ねて騒ぎ出す。

思いつきで苦し紛れの返答だったが、これはどうなる?

はらはらしているわたしをよそに彼女達は揃ってやる気に満ちた顔になり、


「男子生徒ー!どこだー!!」


と叫びながら散らばっていった。

これは上手く切り抜けられた、のかな?


「驚いたよ、メロディ。これは大騒ぎになるね」


 困惑しているわたしにリタが話しかけてくる。


「今回はちょっとみんなの勢いが凄くて戸惑ったというか……あれ、レガートはどこに?」


 リタが抑え込んでいたはずのレガートがいなくなっていた。


「あの子ならあなたが()()()()の話をしだしたとき真っ先に走り出していったよ?未来の公妃様だし、優勝候補かもね」


 切り抜けたというか、後回しにしただけっぽいな?



「ともかく先のことはそのとき考えよ……ってうわあっ!!」


 自室に帰ったらムーサ・カメーナエがいた。

【道標】のことを教えてもらって以来、定期的に相談はしているが事前の予告なしに来られるのは初めてだったので情けない声を出してしまった。


「よお、面白い反応ありがとう」


「面白がらないでください……いきなり来るなんてなにか緊急事態でも起きたんですか?」


「いや、驚かせて反応を見たかっただけだぜ?」


 にやにやしながらそんなことを言われたので露骨に嫌そうな顔をしてやった。


「きゃはは、そんな顔するなよ。今日はお礼と君の喜ぶことをしてやりに来たんだぜ?」


「喜ぶこと?それにお礼って何にですか?」


 わたしの疑問に、にやにや笑いながらムーサ・カメーナエは答える。


「まずお礼だな。聖誕祭パーティーのダンスコンテスト、女子生徒達が君に夢中なせいで参加申込が激減してたんだが、今日の発言のお陰で申込が増えて無事例年通り開催できそうなんだ、元は君のせいでもあるけどありがとな」


 伝統ある行事が中止になるところで学校関係者が焦ってたぜ、と彼女は言う。

そんな大事になってたの!?と少し冷や汗をかいた。


「それと君の喜ぶことだけど……マリア・フォン・ウェーバーの入学が近づいてきたのはわかってるよな?」


 わたしはこくりと頷く。


「君は彼女と何度か決闘する『未来』が決まっているわけだが、()()()()()()()()()()()()()()?」


 ぎらり、と笑ってムーサ・カメーナエはわたしに尋ねる。

そんなことは聞かれるまでもないので、堂々と答えてやった。


「当たり前ですよ」


「きゃははっ!そうじゃなくちゃな!!それじゃあ、始めよう」


 ムーサ・カメーナエが指をぱちん、と鳴らす。

すると周囲の景色が一瞬にしてわたしの部屋から見知らぬ大部屋――修練場に変わった。


「マリア・フォン・ウェーバーの【魔弾(フライシュッツ)】の攻略法、今のうちに体で覚えてもらうぜ?」


 【魔弾(フライシュッツ)】――【道標】に載っていた、マリア・フォン・ウェーバーにしか使えない理外の剣技。

【道標】に攻略法は記されていたので練習はしていたものの、正直本番で成功できるかは難しそうだと思っていた。

それをなんと【魔法使い】ムーサ・カメーナエが直々に鍛えてくれるようだ。

それは確かに――


「わたしが最高に喜ぶことですね!!」

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