30話
十月 剣術トーナメント 決勝戦
「勝者、【トライアド帝国】一年生、メロディ・ドミナント・テンション!」
審判の声が響いてから一瞬の沈黙、その後湧き上がる大きな歓声と拍手。
「きゃー!!メロディ様素敵です!!」
「あの一年生、本当に優勝したぞ!?」
「ちやほやされているだけの実力が本当にあったのか!」
わたしを称える言葉や驚愕する言葉を浴びながら試合場を下り、選手控室に戻ればレガートとリタ、そして取り巻きの女子生徒達の中から厳正なるくじ引きで選ばれたらしい三人がわたしを迎える。
「やったね、メロディ」
「おめでとう、またファンが増えてるよ~」
「お疲れ様でした、メロディ様!」
「お水をご用意しているのでどうぞ!」
「もう向かうところ敵なしですね、メロディ様!」
「みんなありがとう、いつも応援してくれるおかげよ」
選抜取り巻きちゃん達がきゃー!と黄色い声を上げ、レガートはいつも通りじっとわたしを見つめリタはまーたやってるねえと言いたげな表情をした。
ふはは、もはや誤解とは言うまい。「えっ、リズムくんのお姉さんってあの先輩なの!?」作戦のためにどんどんモテて行くわよ!
それにしても『向かうところ敵なし』か、それほどのことは……あるけどね!!
レガートとリタに言われたおかげで気づいたけれど、わたしって本当に強いんだな!?
国内の同世代で一番なだけでなく、大陸中の同世代で一番にこうもあっさりなれてしまうとは。
このまま鍛錬を積んでいけば卒業する頃にはお父様に一泡吹かせるくらいにはなれるのではないだろうか?うわあ、楽しみ!!ピコーン
ん?今なにか嫌な音がしたような……気のせいだよね?
休憩を済ませて選手控室を出ると、通路でわたしを待ち構えている人物がいた。
珍しくばったり遭遇したわけではないセバスティアン王太子だった。
「……やあ、フロイライン・メロディ」
「ごきげんよう、セバスティアン王太子。なにかご用でしょうか?」
そう尋ねると、セバスティアン王太子は目をそらしながら何かを言いかけるも、やはり止めるのを何度か繰り返した。
どうしたのか疑問に思っているとレガートが口を開いた。
「二回戦で負けた王太子殿下がメロディに何の用?」
な、なんてことを言うんだこの子!?
やはり最初の出会いがあんな感じだったからセバスティアン王太子のこと嫌いなのか?
嫌うのは仕方ないがちょっと言い過ぎなのでわたしからフォローしなければ。
「レガート!そういう言い方は良くないでしょう、一年生の代表に選ばれて一回戦は突破したのよ?」
「メロディ、優勝したあなたが言うと嫌味になっちゃうよー」
リタにツッコまれてしまった。
ど、どうしよう……恐る恐るセバスティアン王太子の顔を見ると、怒ってはいないようだがショックは受けている感じの表情をしていた。
「ご、ごめんなさい……わたしそんなつもりじゃ……」
「いや、それはわかっているから気にしなくていい……今日はただ貴方に称賛と挑戦を送りに来ただけなんだ」
「称賛と……挑戦?」
わたしが聞き返すと、彼はすっきりとした顔に戻って答えた。
「ああ、まずは優勝おめでとう。そして今回は叶わなかったが、来年はこのトーナメントで貴方と純粋な勝負がしたい」
彼の目には強い光が宿っていた。
これは……ものすごく熱い展開だ!!
一度決闘をしたから彼がわたしよりも弱いことはもうわかっている。
しかしそんなことはこの熱意の前にはどうでもいい、【騎士】として全力で立ち向かわなければならない、いや、立ち向かいたい気持ちにさせてくれる。
ああ、まさかセバスティアン王太子がわたしをこんな気持ちにさせてくれる相手だったとは!!
「そう言っていただけるとは、光栄です!」
わたしはセバスティアン王太子の右手を両手で握って続けた。
「来年、いや再来年も楽しみにしています。あなたという『好敵手』との戦いを!」
「俺を……『好敵手』と?」
「はい!ご無礼でしたか?」
「いや、そんなことはない!俺の方からもそう呼ばせてもらいたいと思っていた!」
セバスティアン王太子も両手を差し出し、わたし達は固く手を握りあった。
他国の王太子との友情、この学校にいる間だけのものだがなんと素晴らしいものを手に入れられたのだろう!
「つまりあいつは『オトモダチ』であってそれ以上の芽はなし」
「そ、そうですよねレガートさん!」
「だとしたらわたし達はどうしましょう……?」
「とりあえず警戒は解くということで」
こらレガートと選抜取り巻きちゃん達、水を差すようなこと言わない。
ともかくわたしとセバスティアン王太子は手を離し、別れの挨拶をした。
「それではこれで。次に戦うときにはきっと以前とは違うと驚かせてみせよう」
「ええ、わたしもあなたが挑むに相応しい強さであれるように励み続けます」
「メロディががんばりすぎて差が開くに三千点」
「レガート、そんな簡単に予想がつくことじゃ賭けにはならないよ」
だから水を差すようなこと言わないでってば!




