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王宮世界・絶対少女王政ムジカ  作者: 狩集奏汰
一章
30/97

29話

 リタがユニコーンの死体を運び、わたしとレガートで周囲を警戒しながら森の中を進む。

川を見つけると、レガートがさっとその中に入っていく。


「レガート!みんなが狩りをしている音でバレないと思うけど、派手にやらないようにねー!」


 わたしの声かけにこくり、と頷いてレガートは剣を構える。

そしてざぱーんっ!!と強く水面を叩きつけた。

水飛沫と共に泳いでいた魚達が打ち上げられ、川辺へと落ちていく。

うん、森の木々より水飛沫は上にいっていなかったから大丈夫だろう。

レガートがてきぱきと川辺に飛び散っている魚を集めているので、わたしとリタは火の準備をしておいてあげることにした。


 基本はここまで来る間に拾っておいた枯れ枝に、野外演習の装備品に入っていた火口箱で着火するだけだが、今回は焚き火の煙でおやつタイムがバレないように少し手間をかける。

地面に二個穴を掘って底を繋ぎ、片方の穴の中で火を燃やす方式である。

これなら煙が出にくくなるし、うっかり火事を起こしてしまう危険性も低い。

この穴の上に魚を横置きにして火を全体に当てて焼けば、短時間で焼き魚の出来上がりだ。

【騎士】は丈夫なので加熱さえすればお腹を壊す心配はほぼない。

レガートは焼き魚を次から次にもぐもぐと平らげていく。

見ているとなんだか面白くなってくる食べっぷりである。

微笑ましい気持ちで彼女を見ていると、リタがわたしに耳打ちをしてきた。


「で、結局のところレガートがメロディの本命なの?」


 思わず大声を出しそうになるのをぐっとこらえて、わたしも小声で返事をする。


「レガートはあくまで友達よ、本命とかそういうのじゃないから……」


「えー、じゃあ誰が本命なの?まさか婚約者とか?」


 リタがぐいぐいと聞いてくる。


「うーん、婚約者はあんまりわたしの好みのタイプじゃないのよね」


 頭の中に婚約者のブルース・ストレインの顔が浮かぶ。

それなりに整った顔立ち、優秀な頭脳、これといって欠点のない性格。

いいところはいくらでも浮かぶがそれでもわたしにとってどうしても譲れない一点の欠落。


「わたしはわたしよりも剣が強い人が好みのタイプなの」


「やっぱりそうなんだ……」


 いつの間にか焼き魚を食べ終わっていたレガートが話に入ってきた。

そこそこびっくりした!


「そんな気はしてたけど、メロディの理想は高すぎる」


 レガートの指摘はわたしにとって心外だったが、リタもそれには同意らしく呆れた顔でこう言った。


「メロディは演習の授業とか通してさ、自分の実力はどのくらいなのかわかってるよね?」


 ふむ、わたしの実力……

演習の授業では王国と公国の馴染みのない剣術に振れることで実力を高められた自信があるし、今のところ無敗だ。

上級生とは朝の鍛錬のときに取り巻きにいる先輩方と軽く打ち合っただけで、実際に実力を比べ合うのは十月の剣術トーナメントになるだろう。

教官に一年生の代表者に選んでもらえるだろうという程度の自負はある。

しかしそれはどこまでいっても()()()()()だ。


「わたしの実力は、あくまでそれなりじゃない?」


「ない」


「ない」


 速攻で否定された。

あれー?


「あのさ、教官からの言葉をどう受け止めたらそういう自己評価になるの?」


 リタに信じられないものを見るような目をしながら聞かれた。


「やる気を出させるために褒めてくださっているのでは……?」


「そう来るかー!?」


 天を仰がれた。

まさか見当違いをしているということだろうか?

えっ、それじゃあもしかして……


「お父様に稽古をつけていただいたときは全く敵わないし、皇帝陛下に比べて才能がないといつも言われるから社交辞令を抜いたらそこそこでしかないと思っていたのは勘違い……?」


「メロディのお父様は名高い猛将」


「皇帝陛下に比べて才能ないって、【剣帝】のフォニム帝と比べたら世界中の人間が才能ないよ!?」


 なんということでしょう。

まさか自分が人の神経を逆撫でに撫でまくるような勘違いをしていたなんて。


「じゃあわたしの好みのタイプに当てはまるような人は……少ないけど侯爵家の権力を使えばいつか見つけ出せる、ってこと?」


「ポジティブだなー?」


「人の魅力は剣だけじゃないと視点を変えてみたほうがいいと思う」


「割と強く否定してくるわね……」


 自分の中で確固たるものになっていた好みのタイプが夢見過ぎ扱いされるのそこそこ衝撃だ。

だとするとこっそり企んでいたアレも無理なのか。


「婚約者と結婚後に鍛えてあげればわたしと同じくらいにはなるだろうと思ってたんだけど、無理?」


「やめてあげて!!」


「メロディの婚約者ってだけでむかつくけどそこまでされると可哀想になる」


 そんなにかー。

夫を虐待して離縁された女という恥の深い肩書をもらうところだったらしい。



 その後わたし達は証拠を隠滅して陣地に帰還した。

幸いおやつタイムのことはバレず、無事に課題を合格することが出来た。

しかし好みのタイプが夢見過ぎだったショックはかなり大きかったようで、野外演習終了から三日後、取り巻きの女子生徒達に最近心配事でもあるのかと気を使われてしまった。

一刻も早く立ち直り、剣術トーナメントに向けてより鍛錬を積まねば!

いや、でもちょっとくらいは引きずってもいいよね……

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