28話
迎えた野外演習一日目。
まずは重装備での行軍から演習は始まる。
【騎士】の身体能力をもってすれば重装備で長距離を移動する程度のことは苦にもならない。
では何を訓練するのかというと、行軍を悟られないように静かに、自然を破壊することなく移動する訓練だ。
示威行為のために派手に行軍した例が歴史上存在しないわけではないが、それは特殊な例で静かに・迅速にが【騎士】の行軍の基本だ。
無駄口を叩かず整然と行軍することはまだ未成年で精神的に未成熟の生徒にはストレス、要するに多くの生徒は狩猟に行くときのようにわいわい話しながらの行動をしたがるもので、行軍中は重苦しい空気が漂う。
まあドミナント・テンション家の家風として狩猟も軍事訓練の一貫、整然と行動すべしとお母様に厳しく躾けられてきたわたしにはこの程度余裕だけどね!
というわけでやって来た聖都最東部。
先行して到着している先輩方が陣地を構築している真っ最中だ。
わたし達一年生はまず点呼を行い三年生に報告、指示に従って割り振られた場所に装備を置く。
そうしたら時刻はちょうど昼時なので、出発前に配給されていた野戦糧食で昼食を取る。
内容はパンと缶詰、スープとカロリーたっぷりのチョコレート・バーだった。
わたしはこれで十分だったが、いつも大量に食べているレガートは物足りなさそうだ。
昼食を済ませたら、一年生にとっての本番であるユニコーン狩りの始まりである。
撤収が二日目の昼食後からなので与えられた時間はほぼ丸一日。
その間に班の三人でユニコーンを一匹捕まえれば課題は合格だ。
「じゃあもう一度確認しておきましょう。わたし達の中でユニコーン狩りの経験があるのはレガートだけよね?」
「うん、公国の山の中での狩りだから今回はちょっと勝手が違うけどね」
レガートが答える。
「わたしはユニコーン狩りの経験はないけど、白虎狩った経験があるから向こうが反撃してきても受け切る自身はあるよ」
リタが胸を張る。
白虎、王国領内に生息する獰猛な【幻想生物】で一人で何匹狩れたかで腕前を競う競技が王国にはあるという。
それを言うならわたしだってワイバーンを狩りまくった経験があるが?という対抗心は胸の中にしまって、役割分担の確認に移る。
「じゃあユニコーンをおびき寄せる『乙女』の役は経験があるレガートで、わたしとリタが油断しているユニコーンを仕留める『狩人』の役。変更はなしでいいわね」
「任せて」
「よし、がんばって今日中に捕まえちゃおう!」
*
ユニコーン狩りは巣穴探しから始まる。
まずユニコーンが好む水場を見つけ、そこで足跡かフンあるいは水を飲んでいるユニコーンを追跡して巣穴を特定するのだ。
今回わたし達は足跡を発見することが出来、そこから巣穴へ辿り着くことが出来た。
巣穴が見つかったら『狩人』役――わたしとリタが隠れる場所を見つけ潜伏する。
そうしたらいよいよ『乙女』役のレガートの出番だ。
「じゃあ行ってくる」
レガートは【騎士剣】をわたし達に預け、巣穴に向かった。
そして巣穴の近くに座り込み、しばらくそのまま待つのだ。
たいして待たない内に、巣穴の中からがさごそと音がしてユニコーンが現れる。
そのまま吸い寄せられるようにレガートに近づき、彼女の膝の上に頭を置いて眠り込んだ。
これがユニコーンの最も特徴的な生態、乙女を愛し懐いてしまう習性である。
実際に見るのは初めてだが……滅茶苦茶気持ち悪いなこの生物!
古代超帝国で意図して植え付けられた生態なのか、自然と獲得したのか気になるところである。
だが今は絶好のチャンス、そんなことを考えている場合ではない。
わたしはリタに手で合図を送り、一瞬でレガートとユニコーンのもとへ踏み込む。
そして【騎士剣】でわたしが首を、リタが心臓を穿つ。
ユニコーンは痙攣し、あっけなく息絶えた。
「……はい、みんなお疲れ様!」
作戦終了である。
【道標】によると来年はアクシデントが起こるらしいが、そうでなければ簡単なものだ。
レガートはひょいっと立ち上がり、リタはぐいっと伸びをする。
「いやー、楽勝だったね」
「本当ね、知識としては知っていたけれど不思議な生態の生物もいたものだわ」
レガートにも同意を求めようと彼女の方を向いたところ、彼女はユニコーンの死体をじっと見つめていた。
「どうしたの、レガート?」
レガートはユニコーンの死体を見つめたまま答える。
「課題で必要なのは角だけだよね」
「そうだけど……ユニコーンは色んな薬や道具の素材になるから無事な部分は全て持って帰るようにも言われているでしょう?何か欲しい素材でもあるの?」
「昼ごはん……足りなかった……」
食べるつもりなのかこの子!?
普通の肉の何十倍の値段が付くと思っているんだ!?
「レガート……それはないよ」
リタもちょっと引いている。
しかし普段のレガートの食事量を考えるとお腹が空いているだろうことは容易に想像できる。
幸い順調に進んだので陣地に戻る時間まではだいぶ余裕がある。
「それじゃあユニコーンの代わりにあっちの川で魚でも捕りましょう」
そう提案すると、レガートはすごい勢いでこちらを振り向き強く頷いた。
追加任務・レガートのおやつ確保作戦開始である。




