27話
リタがどのようにしてマリア・フォン・ウェーバーが貯めたフラグやポイントを把握しているのか。
知りたかった情報につながる話題に飛びついてしまいそうになるが、ここは冷静に。
どうやら把握できるのはマリア・フォン・ウェーバーだけでないようで話が違うぞムーサ・カメーナエ!となるが、あくまで冷静にだ。
飛びついてしまうとこちらが渡す対価を釣り上げられてしまうかもしれない。
「あら、面白いわね。わたしがその情報を欲しがっているとどうして思うのかしら?」
わたしの態度にリタが笑顔を崩すことはなかった。
「あなたのこれまでの行動をよく見ていれば、あなたの野望も自ずと見えてくるよ」
彼女は自信たっぷりに返す。
わたしの野望が見えるって?
いやいや、まさか。わたしに【道標】が見えていることを彼女は知りようがないのだ。
焦りそうになる気持ちを抑えて冷静に振る舞っていると彼女は更に続ける。
「メロディ、あなたのこの学校で女子生徒ハーレムを築くという野望はね!」
どどーん!と彼女の背後に文字が見えるようだった。
うん、めっちゃ誤解されてる!
いや確かに現状そうなっているし維持しようとしているけど、野望っていうほど求めているように見えるの!?
「リ、リタ、あなたは誤解しているわ。確かに今わたしは女子生徒の皆さんと広く親しくさせてもらっているけれど、そんな、強く自分から求めてこうなっているというわけじゃないのよ?」
わたしは必死になって誤解を解こうとした。
「そう、メロディが自分からアプローチしたのはわたしだけ」
レガートも賛同してくれるがアプローチしたんじゃなくて人助けしようと思っただけだよ!
決闘までしたのは自分の面子を気にしてのことだし!!
「えー?じゃあ授業でもいつも注目の的になっているのはなんでかな?」
「そ、それは……わたしとても負けず嫌いなの!だからつい、ね?」
「それじゃあ取り巻きの子達に手を降ったりするのを欠かさないのは?」
「うっ……」
それは確かにハーレムを楽しんでいると思われても仕方ない行動だった。
その裏には「えっ、リズムくんのお姉さんってあの先輩なの!?」作戦があり、ひいては帝国の繁栄とわたし個人の未来を明るくするためなのだが、それを説明する訳にはいかない。
こうなったら、腹をくくるしかないか。
「と、とにかくあなたは人が誰にどれだけ好感を持たれているか知ることが出来て、わたしはあなたに情報を提供できる。そういうことよね?」
「うんうん、そこをお互いわかっていれば大丈夫だよね」
にこにこ笑っているリタ。
完全にわたしがハーレムの野望を抱いていると確信した顔だった。
真の目的を悟らせないためには仕方ないことだ、自分にそう言い聞かせる。
「こほん、じゃあ野外演習でお互いを知る機会にも恵まれたことですし、良いパートナーになりましょう」
わたしはリタに右手を差し出す。
リタも右手を出し、握手をしてくれた。
「うん!取引相手でも仲良くやるのが一番だね。あ、レガートにももちろん協力してくれた分の情報提供はするからよろしくね!」
「じゃあメロディにわたしがどれだけメロディを好きか教えてあげて」
「そのくらいなら初回特典でただで教えてあげるよ。うん……出会って数ヶ月とは思えない、長年の友人でも少ないレベルの好意が貯まってる。そうでしょ?」
「まあ……正解」
いや、それは多すぎる!
これわたしからレガートへの好意を教えられたら大変なことになるのでは?
*
それから野外演習に向けた準備をするということでわたし、レガート、リタの三人での行動が増えた。
まあわたしの取り巻きの女子生徒達は当然のようについてきているのだが。
班全員がわたしの取り巻きというところもあるらしく、共通の話題で盛り上がっているそうだ。
実際話してみるとリタの情報収集能力は本人が趣味というだけあるようで、帝国の生徒達に受け継がれている小テスト予想問題集(わたしも先輩方に見せてもらったが、自分でちゃんとノートを取っているので必要なかった)の中身をどうやったのかは教えてくれなかったが把握していた。
そして驚くべきことに、彼女はどれだけ好感を向けられているか知る能力を特に秘密にしていなかった。
彼女によるとワーグナー一族の者は集中して人の顔を見ると、隣に【黒い板】が見えるようになるらしい。
そこにはその人物に対して誰がどれだけ好感を抱いているか数字で記されていて、数十年に一度それ以外の情報も記されいる人物が出てくるのだとか。
「そういう人のことをわたし達の一族では先導者って呼んでてね、先導者が成人する頃に必ず大きな事件が起こるから、一族は大陸中に広まって見つけ出してそれに協力することで繁栄してきたんだ」
ムジカ・オルガノ・コンチェルト一世も先導者だったなんていう言い伝えもあるんだよ!と自慢気に彼女は話した。
先導者、【道標】には載っていない単語だがそれはつまり『主人公』というやつじゃないだろうか?
「リタはその先導者に会ったことがあるの?」
向こうから教えてくれたのをいいことにさらに質問してみる。
「それは流石に教えちゃうのは早いかな」
あっさりかわされてしまった。
しかし彼女と友好関係を築くという目標は着実に進んでいる。
いずれ必ず教えてもらうぞ!




