26話
論文コンテストが終わればすぐに野外演習だ。
既に演習の授業は野外演習に向けた訓練に切り替わっている。
野外演習は行軍を想定した訓練を二日間に渡って行う行事で、聖都で唯一自然が残る最東部で行われる。
学年ごとに異なる課題が与えられ、一年生は【幻想生物】・ユニコーンの狩猟、二年生は陣地の構築、三年生は物資の運搬・管理となっている。
『【幻想生物】
自然には発生し得ない、超科学によって生み出された生物。
【古代超帝国オーケストラ】で観賞用・軍事用などの目的で創造された。
【騎士】も軍事用に創造された【幻想生物】の一種である。
多くは【騎士】によって絶滅させられたが、角に薬効があるユニコーンなどは現存している。
【地母神ヴィルトゥオーソ】は【幻想生物】の存在を悪としていないが、新たに創造することは禁じている。』
野外演習中は三国から一名ずつ、合計三名の班単位での行動が求められる。
今朝掲示されたばかりの班分け表を確認しに行くと、レガートが待ち構えていて表を指差していた。
なんとなく察しつつも彼女が指差したところを確認してみる。
『第二班 レガート・カデンツァ
メロディ・ドミナント・テンション
リタ・ワーグナー』
やっぱり彼女と同じ班だった。
もう一人の王国に所属する生徒は話したことのない生徒だった。
つまり今まで一度もわたしに話しかけて来たことがない、同期では少数派の女子生徒ということになる。
調子に乗ってるとか思われてないといいな……と思っていると、【道標】の表示が変わった。
そう、話したことはないがこちらが一方的に知っている相手だ。
『リタ・ワーグナー サブキャラ 所属:【クラシック王国】
【クラシック王国】で代々優秀な軍人を輩出してきた家の娘。
自由闊達な性格で情報通。主人公の一つ上の学年。
主人公に騎士学校の暮らしで必要なこと、評判などを教えてくれる。
自軍ユニットとしての性能は敵のスキルを封じるデバフタイプ。』
さらに【道標】に表示されているページが『登場人物』から『攻略の基本』に変わる。
『・フラグとポイントの管理
【勢力フラグ】、【キャラフラグ】、【カルマポイント】は【メニュー】の【リタの評判チェック】から現在の数値を確認することが出来ます。
一度の行動で大幅に変動することもあるのでこまめにチェックしましょう。』
どういう理屈か分からないが彼女はこの世界の仕組みを理解できているようなのだ。
ムーサ・カメーナエは彼女はそれしか知らないから放っておいてもいい、と言っていたが知っているだけでも放っておけない重要人物としか思えない。
今回同じ班になったことを機に親しくなっておきたいところだ。
上手くいけばマリア・フォン・ウェーバーが彼女に評判を聞きに行ったときにそれとなくリズムと仲良くなる方に誘導するようにお願いできるかもしれない。
班が発表されたということは今日の演習の授業から既に班行動が始まるということ。
早速リタ・ワーグナーと友好関係を目指すぞ!
*
演習の授業の時間。
わたし達は班ごとに集まりまず自己紹介をしていた。
「レガート・カデンツァ、メロディとは仲良しだから邪魔しないでね」
レガートが真っ先に口を開いてとんでもないことを言ってくれた。
このままでは班の空気が最悪になってしまう、わたしは急いでフォローするため口を開いた。
「この子の言うことは気にしないで!同じ班なんだからみんなで仲良くやりましょう!!」
レガートがこちらをじっと見つめてくるが無視だ、無視。
「わたしはメロディ・ドミナント・テンション、よろしくねリタさん」
微笑みながらそう言うと、リタ・ワーグナーも微笑みを返してくれた。
「うん、よろしくねメロディにレガート。わたしはリタ・ワーグナー、リタでいいよ」
どうやらこちらにマイナス感情を抱かずにいてくれたようだ。ありがとう。
さて、今日はここから野外演習当日のスケジュールを三人で確認することになっている。
まずはそれを済ませながらリタの人となりを探っていこう、と思いわたしが野外演習のしおりを開きかけたところでリタがわたしに話しかけてきた。
「本当はずっとあなたに興味があったんだけどさ、他の子達といっしょに思われたくなくてチャンスを待ってたところで同じ班になれたんだ。」
「他の子達といっしょに思われたくない、というのはどういう……?」
わたしが訝しげに返すと――レガートの視線にも晒されると、リタは両手を振って弁明した。
「あ、ごめんごめん。変な意味じゃなくてさ、わたしは特ダネを探すのが好きなんだ」
「ごめんなさい、特ダネ……というのもよくわからないのだけれど?」
「情報収集が実益を兼ねた趣味なんだよ、今あなたは学校中の注目的で取り巻きの子達に聞けば色んな情報を集められる立場にいる。そうでしょ?」
情報、確かに戦いにおいて重要な位置にある要素だ。
つまり彼女は情報を扱う訓練を自主的に行っている、ということか。
なるほど、代々優秀な軍人というのは伊達じゃないらしい。
実際わたしは先輩方に色々教えてもらいやすくて助かっているのだ。
「確かにそうね、そしてあなたはわたしのその立場に興味がある……そういうの素敵だわ、だってそれをはっきり言うってことはわたしの立場に見合う対価も用意してるってことよね?」
「えへへ、話が早くて助かるよ」
リタは満面の笑みで、指を一本立ててこう言った。
「わたしの情報収集を手伝ってくれたら、あなたが誰にどれだけ好感を持たれているか教えてあげられるよ?」
本命ど真ん中の話題が来た!




