16話
歓迎パーティーから早速決闘騒ぎを引き起こしたわたしを迎えるのは危うきに近付くまいと遠巻きにする生徒達……ではなかった。
「メロディ様!おはようございます!!」
「メロディ様!席をお取りして置きました、是非こちらに!!」
「いえ、メロディ様!こちらの席の方が見やすいですよ、こちらにどうぞ!!」
黄色い声でわたしを囲む女子生徒達だった。
【トライアド帝国】の女子生徒(ほぼ全員)だけでなく【ピアノ公国】の女子生徒、更には【クラシック王国】の女子生徒もちらほら混ざっている。
そう来るか~と戸惑いながら女子生徒達に適当に返事をし、元々座ろうと思っていた最前列の席に座ると間髪入れずに一人の女子生徒が私の隣に座った。
その女子生徒とは……なんとなく予想していたがレガート・カデンツァだった。
隣に座ってきたものの声をかけてくるわけでもなく、無表情でただ前を向いている。
どうしよう、とりあえず挨拶するか。
「おはようございます、えーっと、レガート・カデンツァさん?」
「……」
返事はなく、周囲を沈黙が支配する。
誤解されやすいというか、理解しづらいなこの子!
そのままどうすべきか悩んでいると教官が教室に入ってきて、我に返った女子生徒達がわたしの近くの席を争いながら着席する。
こうして前列に女子生徒、後列に男子生徒が偏ったいびつな教室でわたしの【オラトリオ騎士学校】での本格的な生活はスタートしたのだった。
セバスティアン王太子?一番後ろの席で不貞腐れてたよ。
*
午前中の授業が終わり食堂で昼食の時間。
わたしの周囲には同じ学年の女子生徒だけでなく先輩のお姉様方も集まって大賑わいになっていた。
モテ期到来である。
いや、そんなことを言っている場合ではない。
この状況ではレガート・カデンツァにノイズ・マイナー・セブンスコードについて話を聞くことができないじゃないか。
レガート・カデンツァは相変わらずわたしの隣に座っているけど何も喋らないし。
「……」もぐもぐ
小柄なわりに食べる量は多いんだな……
さて、どうするわたし?
どうやってレガート・カデンツァと政治的な話が出来るような状況に持ち込むか。
女子生徒達の質問に適当に答えながら考え込むと、ヒントはすぐに浮かんできた。
決闘前にもらった彼女のハンカチ、反省室送りにされたから返しそびれているのだ。
突破口が見つかったからには即行動だ。
「レガート・カデンツァさん、少しよろしいかしら?」
わたしから声をかけたことで、女子生徒達の中でどよめきが走る。
レガート・カデンツァ自身は相変わらず何も喋らなかったが、食べるのをやめてこちらを向いた。
「あなたのハンカチまだ返していなかったでしょう、午後の授業が終わった後でわたしの部屋に来てくれないかしら?それが終わったらもう手間はかけさせないから」
メロディ様のお部屋に!?でもハンカチを返したら終わりだって!まだ彼女に決まったわけじゃないってことよね!!
女子生徒達はわたしの発言に更に盛り上がりを増す。
うん、本当にそういうつもりはないからね。
そしてレガート・カデンツァは無言で頷き、食事に戻……らなかった。
「レガートでいいよ」
「えっ」
「呼び捨てでいいし、いつでも何回でも呼んでくれて構わないよ」
そう言うと今度こそ彼女は食事に戻った。
えーっと、これはこれで終わりじゃなくてこれからも仲良くしたいという?
いや、そう考えるのはまだ早計だ。
だから女子生徒の皆さん悲鳴を上げるのやめて。
そして男子生徒のごく一部も盛り上がるな、マジでやめて。
*
というわけで午後の授業も終わった後。
約束通りレガートはわたしの部屋を訪れた。
わたしはお茶とお菓子と彼女のハンカチを用意して迎え入れる。
「来てくれてありがとう、改めて自己紹介をするわね。わたしはメロディ・ドミナント・テンション、【トライアド帝国】大将軍ビート・ドミナント・テンション侯爵がが長女よ」
「レガート・カデンツァ、【ピアノ公国】三公家の三位、カデンツァ家の長女」
向こうも自己紹介をしてくれた。
【ピアノ公国】には元首を輩出するコンチェルト家の他に二つの公爵家――スケルツォ家とカデンツァ家が存在することはわたしも知っている。
確かわたしがまだ小さい頃に【ピアノ公国】と【クラシック王国】の戦争が起こりスケルツォ家とカデンツァ家の当主が死んだ上にその直後先代公王ラルゴ公も病死したのだったか。
「ハンカチを返すついでに少し世間話をしてもいいかしら?あなたもよく知ってる……」
「いいよ、わたしも知りたいことがある」
食い気味に返ってきた。
そこまで知りたいことって一体なんだろう?
「メロディには婚約者はいないの?」
へ?
そういう話に言っちゃうの!?




