13話
【オルガノ王朝】は首都である【聖都オラトリオ】のみを領する国家だ。
【聖都オラトリオ】は大まかに分けると【オルガノ大聖堂】を始めとする宗教施設が集中する北部、【オラトリオ騎士学校】が存在する東部、住宅地が集中する西部、商業施設が集中する南部の四つの区画が存在する。
わたし達【オラトリオ騎士学校】の新入生は東部の【オラトリオ騎士学校】に到着し、学生寮で荷解きををしているところ。
わたしは個室を与えられ、とりあえず一息入れる。
午後から入学式で夜は歓迎パーティーが開かれる予定だ。
歓迎パーティーでレガート・カデンツァと挨拶くらいはしておきたいところだ。
【浮いている板】の表示をレガート・カデンツァのプロフィールが載っているページにし、添えられている彼女の肖像画を確認する。
腰まである黒髪で、真紅のツリ目が印象的な娘だ。
他の肖像画と比べると体型は小柄らしい。
既に公妃となることが決まっているということは、【ピアノ公国】の新入生の代表となる立場。
【トライアド帝国】の新入生の代表であるわたし――大将軍の娘だから当然、が挨拶をするのは不自然ではないだろう。
「さて、そろそろ着替えましょうか」
そう呟いて、わたしは【オラトリオ騎士学校】の制服に着替える。
灰色を基調とした制服は戦闘を想定した【騎士服】でもありとても動きやすい。
ただ【騎士剣】を佩く位置が【トライアド帝国】式の【騎士服】とは違うのでそこは気をつけなければならないだろう。
着心地を確認し終わったわたしは制帽を被り、個室の外に出た。
校内探険である。
*
【オラトリオ騎士学校】の敷地は広い。
校舎と寮の他にも教練施設、儀礼用の講堂、大規模な図書館など多くの施設が揃っているためである。
深入りして入学式に遅刻してしまわない程度に敷地内を見て回り、講堂近くの庭園で一息ついていたところでわたしはその人物に話しかけられた。
それまでにも【トライアド帝国】の先輩方に挨拶などはしてきたが、彼女は初対面のはずだった。
わたしは【浮いている板】であらかじめ知っていたけれど、彼女にとっては初対面のはずだった。
しかし彼女はまるで旧知の仲であるかのように、気さくに話しかけてきたのである。
「よお、メロディくん。君に会えてうれしいぜ。あたしはムーサ・カメーナエ、これからよろしく」
『ムーサ・カメーナエ サブキャラ 所属:【オルガノ王朝】
【ムジカの上王】に仕える【魔法使い】の女性。
神出鬼没で【オラトリオ騎士学校】の生徒に曖昧な助言をするのが趣味。
主人公にとっては頼れる味方になるだろう。』
【浮いている板】が彼女のプロフィールを表示する。
【平民】故にわたしよりもはるかに背の低い彼女は見上げる体勢、しかし【騎士】に対する畏れなどないかのような毅然とした態度だ。
噂には聞くものの、初めて見る【魔法使い】に戸惑ってしまうわたしをにこにこ見つめている。
それに反発心を抱いたわたしは気を取り直して返事をする。
「こちらこそよろしくお願いします、カメーナエ卿」
すると彼女はにこにことした笑顔からぎらりと嗤う表情に変わって、そして姿を消した。
庭園にはわたし一人が残された。
……なんだったの?
噂でも【浮いている板】の記述でも謎が多い人物としかわからないが、実際会っても何もわからない。
【魔法使い】の力によるものか、【オルガノ王朝】の情報網によるものかはわからないがわたしのことを事前に調べている様子なのも恐ろしい。
少しの間彼女について頭を悩ませるはめになったが、特に何も思いつかず。
わたしは複雑な心境で入学式に参加することになったのだった。
*
【オルガノ大聖堂】、玉座の間。
二人の人間が相談をしている。
【ムジカの上王】――ムジカ・オルガノ・コンチェルト十五世。
【魔法使い】――ムーサ・カメーナエ。
話題は、メロディ・ドミナント・テンションと【道標】について。
『【ムジカの上王】
【地母神ヴィルトゥオーソ】の祝福により王権を授かった【騎士】。
【古代超帝国オーケストラ】への反乱において指導者だった者の末裔。
【ムジカ大陸】の名目上の支配者。
【魔法使い】
【地母神ヴィルトゥオーソ】の祝福により魔法を授かった【平民】。
魔法は強力で便利だが【魔法使い】の肉体そのものは【平民】の貧弱なもの。
一つの時代に一人だけ存在し、【ムジカの上王】に仕える。』
 




