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雪原の龍  作者: RERITO
2/5

魔剣を持たぬ魔剣士

スノードロップ時刻

(スノードロップが出てきてから、ざっくりとした時間である)


眠りに落ちたのが、十二時を回り初めてた頃....お寝坊さんですね。

起きた時刻は、六時後半あたり


〜前回のあらすじ〜

旅人である女は、ゴブリンに罵られつつ...青い塔を目指す。

色々試行錯誤した結果、ライトに乗って、雪原を走る。

「..........すぅ.......はぁ.......」




 その男は、酷く世界に絶望していた。



 手にした木刀を、握りしめて、己の無力感を切りつける。


 乾いた風切り音が、ビュンッと鳴る。


 その光景を茶色の瞳が、捉えた少しした後....はぁ....と、ため息をついて、木刀を腰の帯に入れる。




「そろそろ、出発するぞ!!おいっ!!ザウラク聞いておるのか?」


「あぁ....」



 小太りした白い髭を生やした男が、声をかける。


 淡々とした言葉を呟き、顔に巻いた黒い布をそっと、直して彼は歩き始める。



「今日は、愉快な日になりそうだ!!なぁ?そう思わんか?皆の者」



 本来は、荷物が詰め込まれる場所であろうの荷車には、何人もの男が瞳に生気を宿さず、運ばれていた。




 ガタガタッと揺れる度に、あぁ....だの、うぅ....だの、まるで振動に反応する人形のような男たちがそこにはいた。



 また、始まったか。



 俺は、多少退屈としか気分になりながら、外の景色を眺めている。


ここがラディシェン雪原か....はは、こんな綺麗な場所が、俺の死地になるのか。



「............」



 寒さなど、微塵も感じない。


むしろ、通常の気温であったなら、この荷馬車の中にいると、高温で何人もの人が倒れてしまうだろう。



「おいっ?お前たち、聞いておるのか!?」


「...........」


「はぁ....これだから、最近の冒険者は、信用ならないんだ。儂が、折角お前らのような いつ飢え死ぬかも分からないやつらに、お金を与えてやろうとチャンスを与えたのに、こんな調子じゃ、成功するモノも成功する気が起きんわっ!!」



 こんなろくでもないクエストに、参加する奴なんて....死にに行くようなもんだ。


成功?初めから、その気など無いのに、よく言うものだ。




 俺は、微妙に揺れる馬車の中で、そっと赤い宝飾の着いた鞘に手をつける。



この鞘には、いい思い出がない。


 いや、むしろ....悪い思い出の方が多いと言うべきか。



だけど、この鞘は....この鞘だけは、俺の心の拠り所であり、誰にも渡すことのできない部分だった。



「ふふっ....それに、今回はお前たちは、運がいい。お前らには、豪炎のザウラクという強い味方がいるんだからなっ!!アハハハハッ!!」


「そんなもの...とうの昔に消えた」


「むっ?そうなのか?お前は、その名で有名だったような気がしたんだが......」


「.........」



 俺は、雇い主から目をそらす。無くなったものに、いつまでも、すがりついているほど...俺は、弱くはない。



 周りにいる男たちが、少しだけ希望をもったような瞳をして、瞬間に嘆息とともに、再び下を向く。



「まぁ...とにかくだなっ!!ワシは、お前たちの今回のクエスト参加を心から歓迎しよう。そして、気持ちを強く持って、戦いに行ってくれたまえ。だたでさえ....」



 雇い主である。小太りした白い髭の男は、ニヤリと黒い笑みを顔に貼り付けて声を張り上げる。



「龍の卵を、盗むという、無理難題に挑むのだからなぁ!!」



 そんな、調子の乗っている声とは裏腹にやはり、男たちの気は晴れず、死んだような目でガチガチと歯を軋ませている。


「はぁあ.....」


 吐く息は、白く.....空気を汚していく。俺の心は、淀んでいる。






「うっ......ぁ.......」


 私は、目を覚ました。そうだ.....雪の底なし沼に落ちてしまったのか。じゃあ、なんで私....空を見てるんだろ。



 私は、両脇からなにか強く引っ張られている気がした。



「あ....ライトたち....」


雪の中に落ちてしまう前に、ライトたちが阻止していた。



 ライトたち召喚獣は、召喚する時はかなりの魔力を消費するけど、召喚した後は体内にある魔力を消耗し続ける。


それに、完全に私とのバイプが切れると消えてしまうし、一度消えてしまったら、召喚するのにもまた時間がかかる。



「ふふ、ありがとう。」




 ライトたちに、疲れというものはないのかな。


さっきも、軽々と走れてたけど....まぁ、そんなこといいか。

とりあえず、今やるべきことはっ!!



『光の盾!!』



 足場をしっかりと、確保して移動を開始し始めることにした。


すでに、夜中になっており、いつ吹雪がやってくるかも分からないから...正直なところ、早めに、この場所から去りたい。



 魔力も大体回復しちゃったし、もう二体くらいライトを呼び出すか。


『召喚・ライト』


『召喚・ライト』



 一体ずつ召喚していく。


今は、四体のライトがいることになる。普段は、あまり多くてもしょうがないけど....今は、あたりが暗いためライトを多く召喚しておいた方が、いい。



「.....あ......」



 そこで、ふと妙案が思いついた。


 ライトたち二匹を私の足場にすればいいんじゃね?


いや....四つん這いに一匹ずつ私を運んでくれたら、すごい楽じゃない?



「.....ちょっと、安定性は心配だけど」



 ずっと、結界渡りをしていたこと。ライトたちを上手く使えなかったこと。


 色んなことが、重なって....私はもう、こんな場所から離れたくて仕方がなくなっていたからだ。



 そうと決まれば、さっそく試してみるに限る。


「ライトたち.....私の手となり、足となりになる覚悟は、ある?」


 順番に見つめていき、順番に小首を傾げていく。やだ、なに...この子たち...可愛いんだけど.....



「きやあぁあぁあ!!いたたっ!!ちょっ....腕がっ....足が、張り裂けるからっ!!ちゃんと、息を合わせて動いてくれるっ!?!」


 私は、なんとかライトたちを握り。ライトたちを踏み。どうにか動き始めた。



 今回は、初めからやばかった。




 お互いの動きを合わせようとせず、距離が段々離れていくわ。


いつの間にか、鬼ごっこ始めてるし....私を、連れて行ってるんだよっ!?一応。



 そこんとこ、分かってるの!?!



 そんなこんなで、四肢がもぎ取れそうになるのを、なんとか耐え続ける。


きっと、多分。この子達なら、息を合わせて動くことができるっ!!



 そうっ!!君たちは、唯一のしょうかんじゅっ!!痛いっ!!痛いっ!



「隊列を崩すなって言ってんでしょっ!!!」



 私は、なんとか位置を保たせながら、雪の中を掛けていく。

 はたから見たら、どんな風に見えてるんだろう。


 もしかして、四つん這いのまま轟速で動く女になってる?



「.......気に.....気にしたら、ダメだよね。うん。気にしたら、負けだ。きっと」



 とは言うものの、周りに人がいないかチラチラと確認する。人は....いないよね。流石に....



 段々と、統率が取れ始めて...あまり、痛みを感じなくなったところで、前方に一匹の青っぽい猿を発見した。







 私は、このラディシェン雪原で、特に見かける魔物を思い出す。



 ゴブリン


 危険度 d→e

 イタズラ好きの一応、妖精という部類。

 小さくて、おっさんのような見た目をしており、昔はところ構わず襲いかかる凶悪な魔物であった。

 洞窟にいることが、ほとんどであり、外で見つけることは稀である。


 討伐報酬などは、ない。


(最近では、聖女などと呼ばれるゴブリン界のアイドルが、誕生したことにより、一部のゴブリンが礼儀や清潔感などを学び始めているという。そのこと自体には、なんな問題はないのだが....異性に対して、なにかと無頓着になりつつあるという。専門家によると、絶滅の可能性があるのでは?と危惧されている。)



 ドレットエイプ


 危険度d


 青い毛が生えた猿のような見た目をしている。



 警戒心が高く、臆病な性格をしており....天敵であるグリフィンを見かけると、フォウフォウという奇声を発する。

 一般的には、そこまで害はないが...一度、敵だと見なされると、力強い腕で殴りにかかってくる。


 こちらも、そこまで危険ではないため。

 討伐報酬などはない。だが、その皮には、ある一定の需要があるため、小遣い程度の稼ぎにはなる。




 ニドルラビット


 危険度d


 各地に生息している害獣。

 額から角を生やしている。見た目は、可愛らしいモノではあるのが、攻撃性が高く。目に映る動物や、植物などを見かけたら硬い歯で噛み付いてくる。繁殖力も高い。


 駆除した数だけ、討伐報酬を得ることができる。

 ニドルラビットを専門に扱う店などもあるため、その体は全てが材料になる。




 どれも、危険度のそれほど高くない魔物が、ほとんどである。



 ある一定区域には、危険度e〜それ以上の魔物が生息している場合もあるが、滅多に出会うこともない。





 ただ、ドレットエイブはこの雪原の中で、近くで見られる機会も早々ないため、少しだけ気持ちが高揚していた。


 こんな雪原の中じゃ、警戒心の高いドレットエイプは、すぐに逃げ出してしまうし...追おうとすると、この深い雪の中を歩くため....先に逃げられてしまうのだ。



 こんな機会を逃す手は、ない。




 そう思い、近づいて様子を見ることにした。


私は、右手にいるライトの額を一・二回くらい握って意志を伝える。これで、私がしたいことが伝わってるかは、不明だが....



 そんな風に、楽観的に見ていたのだが、普通に走っていた右手ライトがスピードを二段階くらい上げる。



「.....ぇぇえ!!!ちょちょちょちょ!!そうじゃないっ!!そうじゃないって!!ぁあわぁあわぁああわぁ」



 右手ライトが、ペースを上げたため...同じように、他のライトたちもスピードを上げ始める。



 私の前髪が、吹き煽られる風でボサボサになり、口の中が、冷たい冷気で一杯になる。





 一方、ドレットエイプは、雪に埋まってしまった木の実を朝から取っていた。




 毎年、この時期は雪原の吹雪が酷くなるため、今年もいつものようにある場所にある実なる木を雪を掘って収穫していた。


「フゥヒョォ」


 真っ赤に実った木の実を見る度に、幸せな気持ちになる。



 それに、やる気も高まる。今年も、例年と同じように大収穫になる予感がしていた。



 それに、繁殖の時期になると、保管している木の実の量が男のアドバンテージになる。大量に収穫すれば、するほど...周りに、勝てるようになる。


 そんな、目に見えた生存戦略も、このドレットエイプが張り切って、木の実を収穫する理由であった。





 予め、母親が作ってくれた小さなこの葉のバスケットに、木の実を積んでいく。これは、俺だけの戦いじゃない.....家族の戦いなんだっ!!


「フゥホオオオオオ!!!」


 おっと...いけねぇ....気合いを入れるために、叫んでしまったけど...この辺りには、べらぼうに強ぇ魔獣がウジャウジャいやがるっつう話だ。


 警戒に、警戒を重ねても、足りねぇってのに、気持ちがたるんじまってるぜぇ.....




 そんな、平穏をぶち壊す魔の手が迫っていると、誰が予想していただろうか。


 雪を掘っては、木の実を取る...そんな、作業をひたすらに続けていると...ふと、遠くの方から、なにか声が聞こえたような気がした。


「フホ?」


 いや...気のせいか...ドレットエイプは、目先のことを優先にした。手で、木の実をもぎ取って、バケットの中へと.....


「.....ぁ......ぅ.......」


「フホッ!?!?ホッ!?!」



 いや...気のせいじゃあ、ねぇ...なんか、聞こえる。いや、聞こえてきやがる!?!



「ぁあ....ぁううううぁ!!!」



 その高い声...恐らく、人間の...女?の声が、聞こえたため、声の方へと視線を向けると...


 お、おいおい!!なんだっ!?ありゃあ....


 四つん這いの女が、凄いスピードで向かってくるじゃあ!!ないかっ!!!



「いやぁああああぁあ!!」


「イヤァアアアァアアア!!」



 ドレットエイプは、今までに発したことがないほどの叫び声を上げる。白目で、風に煽られて口を大きく開けた女が、俺にツッコまんばかりに向かってくる。


 脇に置いておいたバケットをすぐさま手に持ち、木の実のこととかなりふり構わず、とにかく逃げる。



 あいつは、やべぇ....


 あんなやつ見た事も、聞いたこともねぇ....



 もしかして、あれが母親が言っていた超危険な魔獣ってやつか!?!人間の姿をした高速で走り抜けるモンスター



「フォウフォウフォウ!!!」



 俺は、この雪原で木の実を取るということを舐めていたのかもしれねぇ.....


 そう、心の中で、呟きながら、妖怪 四足人間を前に背後から、為す術なく吹き飛ばされた。俺の...努力の結晶である木の実を撒き散らしながら....自然と、笑いが吹き出てきた。



「ハ...ハハハハハハッ」


「アァアアアア、ドレットエイプ!?!ドレットエイプ!?!?ドレットエェエエエイプ」



 よく分からない奇声を発しながら、ドレットエイプを吹き飛ばしてさらにスピードを加速して走っていく女。



 ブチブチッと、飛んで行った木の実をいくつか尻に踏みつけて、妖怪...いや、化け物が進んで行った後をドレットエイプは呆然と眺めていた。



「フホホホホ....フホ」



 彼曰く、人生って...楽じゃねぇな。だそうです。






「っ.....つ...!!もういいからっ!!もういいから、止まってよっ」


 ドレットエイプを弾き飛ばしてからも、私が止まってと言っているのに一向にスピードを落とす気配を見せないことに、私は焦りを感じていた。


 それに、ドレットエイプと衝突の時に、打ち付けた肩が今頃になってズキズキと痛みだしたため、すぐにこの安定しているとも言い難い体勢から解放されたい。と思っている。



 徐々に、眼前に迫る青い結晶でできた山?いや...城?のようなものへと迫ってきているのを、感じるのだが....その代償に、いつ....どのタイミングで自分の命が危うくなるのか分かったものじゃない。



「うっ....もう、肩が限界......」



 私は、再び雪の中へとダイブしていく覚悟をして、手を離そうとした。


「コンッ!!」


『コンコンッ!!!』


 そんな危機的状況の私に、ようやく気がついたのか。ゆっくりと、スピードが落ちていく。


 安堵が、私の心を満たしていくのもつかの間、なにかの気配を背後に感じた。


「........っ?」



 耳をすませば、聞こえ始めるなにかが跳ね回る音。

 ドドドッという微かな音に、思わずぎこちない笑みが溢れ出す。


「は....はは。冗談.....だよね?」


 目を背けたくなるような意志に反して、私はその状況を見ざるをえなかった。


「..............」


 なにか、白い塊のような動物?が平原に雪崩のように押し寄せてくる。



「い、いやっ!!ライトたち!!う、動いてっ!!動いてっ!!動いってってばっ!!早く早くっ!!」



 ライトたちも、危機感を感じたためか、金色の毛が逆立ち始めて、すぐに足を速める。


 肩が、痛い。


 すぐにライトから、手を離して楽になりたい。



「行ってっ!!」



 そんな誘惑を押し殺して、目の前に現れた災害とも言うべき、それから逃れために、ライトたちに指示する。







 ビューッと、冷たい冷気に再び当たりながら、なにが起きているのか確認するために、背後に振り向く。



「うっ.....痛いけど、我慢しないと」



 そして、それはより鮮明に見え始めた。


 ニドルラビットの大群。


 赤い光が真っ白く覆う景色をウヨウヨと動いている。悪寒が背中を駆け巡り、生存本能がけたたましく警鐘を鳴らす。



「信じられないんだけど....」



 ニドルラビット単体は、なんなら私一人でもなんとか殺すことはできるかもしれないけど....大群となれば、話は変わってくる。


「あの.....青い毛皮みたいなのも、いくつも浮き出してるんだけど....」


 おそらくドレットエイプの毛皮が、残ってしまったものだと思う.....血などは、全く痕跡すら残ってないのに、毛皮だけがあの雪崩の中で浮かび上がってきてる。


「気持ち悪いっ!!気持ち悪いんだけど....ら、ライトたち.....」


 あの、ドレットエイプが先の私と衝突した同じ個体だとは思いたくない。けど、脳裏にどうしても、過ぎってしまう。



「うぇ.....」



 一瞬えずいてしまいそうになるが、なんとか噛み潰す。


「いや....いやだ。そうだ。音.....音魔法で」『響けっ!!!』


 ギィーッンという、乾いた響きが私の周辺に響く。

 洞窟の中だと、上手い具合に響いていたのに、外だと周囲に流れてしまってあまり効果が表れにくい。


 けど.....先頭にいる何匹かは、少しだけ硬直していたような気がするっ!!



「あぁあぁ.....嫌だァ!!『響けっ!!』『響けっ!』『響けっ!!』お願いちょっとでも効いてっ!!」



 無我夢中で、ギィーンだの、ガーンだの...キィーンだの、多種多様な響きを発生させるも、始めの時よりも、イマイチ効果が出てるような気がしない。


 慣れてきてるの?


 尚も、勢いの止まる気配ないホーンラビットの大群に、私は....涙が溢れてくる。





 終わったんだ.....もう、私の人生終わったんだ.....






 他にも、手は.....例えば、ライトをあと6匹ほど生成して、あの中へと特攻してもらって、足止めしてもらう?


 いや....そんなこと、私が許さない。それよりも、ライトたちが無惨な姿になることを許さない。



 洞窟の....一件は、安全だって半ば思ってたからこそできたわけで.....



「こんな....こんな、絶対無惨な死に方をしてしまうようなことに召喚なんか絶対しないからっ!!」



  他に手は.....他に、なにか手はないのか?



 今も、盛大に地面を踏み鳴らす小さな兎たちが、追いついてきている。これだけ、ライトたちが頑張っているにも関わらず.....


「なにか、なにか手はないの!?」



 必死に、雪原の中を見渡して、そうして一つの希望....いや、一つの選択肢が私の前に現れる。






 変わらず雪の中のある場所に、馬車が一台動いていた。




 逞しい姿をした黒い馬が二頭が雪の上を平然と歩いている。さらに、馬車の方も雪の中に埋もれるということもない様子を見ると...




 おそらく 風魔法 か 結界魔法・馬車魔法....はあるかは分からないけど


 とにかく、珍しい魔法の使い手が一人は馬車に乗っているということが分かる。

 御者台には、なにか白い髭を生やした偉そうな高齢の男が得意そうにしゃべっている。





「...........」



 擦り付ける?




 要するに、あの馬車を囮にして....逃げれば、私たちは少なくとも助かる可能性があるか?



 馬車一台程度の、捕食時間に....どこか遠くへと逃げることはできる?いや、おそらく数秒もしないで食われてしまう可能性が高い。




 なら、このホーンラビットのことを伝えて、少しでも足掻いてもらったろうが私の生存率がグッと上がる。


 私が、素通りしても遅かれ少なかれ食い尽くされてしまうだろうことが目に見えてるなら、やっぱり簡単に死なれるよりは、抵抗して死んでもらった方が、私的には都合がいい....か。




「.......ライトたち。あの馬車に、近づきたいんだけど、ドレットエイプの時みたいに突っ込まないでよね?次やったら、私....あの群れに食われて死んじゃうから」


『コンッ!!!ゴンッ!!!』


「威勢だけはいいんだけど...大丈夫かなぁ」



 一抹の不安を抱えつつも、目の前に現れた馬車へと足を進めるライトたちに任せるしかない。


 ただ....さっきの、爆音で気づかれて無ければいいけど....


 爆音を鳴らしていた四つん這いの女とかいう理不尽なレッテルを貼られかねない。



 まぁ、それは冗談としても、不自然さから向こうの人達がいきなり、戦闘行為を始める可能性もある。




「..........」



 この時期にラディシェン雪原を、走らせる馬車.....先の、吹雪のこともそうだけど、やっぱりなにか複雑な事情があると見てもいいだろう。


 そういうモノも、含めて.....警戒だけは、絶対にしておこうと、私は心に決めていた。




 〜時は遡る〜



「おいっ」


「...........」


「おいってば」


「................」


「おいって言ってんだろっ!!」


「ぁ....なん、だ?なにか起こったのか?」



 余りにも静寂な旅すぎたので、俺は馬車の中の酷い揺れをものともせず、深い眠りに落ちていた。


 魔物の襲撃でもあったのか?


 そうした疑問は、すぐに消える。

 目の前にいる男は、至って普通に落ち着いた表情でなにか切迫した雰囲気というものを感じなかったからだ。



「いやよぉ....この雰囲気に、耐えようと...ずっと、我慢してたんだけどよ。どうしても、慣れなくてよ。お前....あぁ、ザウラクだったか?」


「いや....クジハ・ザウラク。ザウラクだと呼びにくいだろう。クジハでいい」


「オケーだ。よろしくなクジハ。」


「.....それで、なんの用だ?」


「あぁ、退屈で退屈でしかたねぇから、ちょっと有名人さんに話でもと思ってな?」


「有名人...。それは、雇い主が勝手に付けたミドルネームだ。有名人でもなんでもない。」


「そうだったのか。そりゃ、すまねぇな。」


「いや、別にいいが」



 と、返事をしつつ、周りの人達の様子を見る。

 この男の雰囲気とは対照的に、寝ていたりやはり絶望したような目をしている。



 こんなに、話をしようとするやつがいたんだな。それに、この男の瞳は死んでない。



「あぁ....話って言っても、そうだな。戦術とかか?」


「戦術.....か。俺たちは、戦いに行くわけじゃない。」


「分かってる。分かってるけど...万が一にもってことがあるんだろ?」


「........そうなった場合、俺らは全滅だな」


「..........」



 どこか俺のことを見定めるような目をしているこの男。よく分からないが、なにか気持ち悪さのようなものを感じる。





 この男は、短髪で綺麗とは程遠くボサボサの髪や髭、汚らしいなにかの動物でできた雑な服を身につけている。



 だが....この男は、顔立ちが整いすぎている。



 つまり、そんな汚さでも隠しきれないほどのイケメンなのだ。


俺は、見た目で判断しないように心がけているが、ここまで整っていると、嫉妬のようなものが芽生えてくる。



「まぁ....そうだな。クジハの言う通りでは、あるな。少なくとも....」




 一呼吸置いてから




「正気の沙汰とは、思えねぇよな。」




 背後の雇い主を気にしつつも、聞こえないくらいの小声で言った。


 俺は、そっと肩をすくませる。



「少なくとも、依頼を受けちまった俺らが、頭のおかしい部類になるだろうな。」


「.......それを、言っちゃあお終いよ。」




 ケラケラと、笑いながら目が笑ってない男を見た。

 この男も、なにか事情があったのだろうか....そんな、取り留めない疑問を感じつつ、すぐに余計な詮索は辞めよ。と自制する。



「まぁ、それぞれに色んな事情があるだろうけどな。っと、話変わるけどよ。俺聞きたいことがあったんだよな。」


「なんだ?」


「クジハは、魔法って使えるのか?」


「.........」


「いや、違ぇな。なに魔法が使えるんだ?」




 すぐに、言葉を出そうとして、口をつぐむと、男は確信を着くように魔法の有無より先の質問を聞いてくる。



 魔法.....それは、自分に取って、切り札にさえなりうるものだ。


人に軽々しく言うものではない。そもそも、この男は俺が魔法を使えることなど知らないはずだ。




 なぜ.....なんの魔法と言い改めたのか?


「そんな、訝しげな顔で見てくるんじゃねぇよ。いや....多分、使えるんだろうな。って思っただけだ。」


「だが....さっきのお前の物言いだと確信を持ってるように見えたが?」



「なに、簡単なことだろ?魔剣を使ってるんだから、魔力があるなんて一発で分かるだろ」



 .......魔剣は、魔法使い以外使えない。そんな話聞いたことがないが.....



「あぁ.....そうか。知らないか。まぁ、昔の女がそっち系統に詳しくてよ。その関係で、ちょっと聞いたっていうだけの話だ」


「そんな因果関係があったのか」


「聞きかじった情報だから、なんとも言えねぇがな。」



 わざとらしく肩を竦めた男....今の知識....それこそ、どこかの魔法大学かどこかに在籍していたということか?



 油断ができるような相手では、少なくともないな。



「.....まぁ、隠してもバレるか。豪炎は、魔剣を使ってた時のミドルネームだが....一応、火の魔法を使える。」


「ほぉ....そりゃ、いいな。戦いでも、野営する時でも使える魔法じゃねぇか。俺も、憧れてたなぁ....火を操って、爆炎っ!!とかいいながら、戦う姿」


「そんな、カッコイイものじゃないさ」


「そう、謙遜すんなって」



 バシバシと、背中を叩いてくる男。

 俺は、若干苦笑いをする。



「俺も、魔法が使えるけど...ハズレ魔法だったんだぜ?水魔法.....」



 手を出して、ポワッと塊にらなった水を浮かべる男。

 俺は、おぉ....と、初めてみた水魔法に少しばかり感動した。



「他は、魔法関係は使えそうになさそうなんだよなぁ...」


「元々、そう多い何人も使えるものでもないからな。」



 同じ同業者は、さておき...


 さらっとハズレ魔法なんて言葉を使われた水魔法だが....俺にとっては、かなり魅力的に見える魔法だ。



 飲水をどこでも飲めるのがデカい。

 それに、土や汚染されていないというのが、保証されるとというだけでも、一生の価値があると思われる。



 冒険者のパーティーに入ろうとするなら、必ず誰かが声を掛けてくる。


 おそらくではあるが、ハズレ魔法とは...攻撃性が低いという話だろう。まず始めに攻撃性にこだわるあたり....冒険者ではない。それは、確かだ。




 だが、話題が過ぎてしまった手前、今更感が強いため...とりあえず話すことはやめておくことにした。


「そういえば、お前の名前はなんて言うんだ?」


「おぉ、名前言うの忘れてたわ。トリグリー・ラクジャー、トリーでも、トリラクでも....なんでも、呼んでくれ。」


「では、トリーと呼ぼう」


「この先短い関係になるかもしれねぇが、よろしく頼むな。クジハ」


 俺たちは、互いに握手し合った。




※ライトたちの、存在維持のためには、体内で魔力を燃焼し続ける。に直しました。






(後々に書いたってことにして.....泣)



〜スノードロップ・シェリアクのノート〜


現在地 ラディシェン雪原


new!!魔物 滅多に現れないサル (ドレットエイプ)

ゴブリン

ホーンラビット(雑食)


吹雪が続き雪が積もっているため、歩いて進むのは困難を極める。(ヤバすぎる場所)


私の魔法 光魔法 召喚魔法 ライト(白くて光る狐

new!!10体まで)

光の盾 (硬めの板)

ライトカーテン(便利なカーテン) ライト・ヒール (小回復)


音魔法 声を響かす。

パンチ強化


装備品 ジャイアントラビットの毛皮 巨大バック

持ってると暖かくなる赤い石



new!!(龍の卵パーティー(仮))


クジハ・ザウラク 木刀と、火魔法を使う魔法剣士?


トリグリー・ラグジャー 水魔法使い

イケメン


※魔法使いは、惹かれ合う。



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