とある魔女の旅路
時刻は、朝十時くらいから始まっています。
自己満足で書いていきます。
(色々汚いと思いますけど、ゴブリンなんで...そういう、やつらですので....)
私の心は、冷えきった大地のように凍えきっていた。
大陸中で起こる戦争も、天変地異のように突然目を覚ましたドラゴンについての電報も...
「あぁ.....」
吐く息が、白い霧となって空へと上っていく。
赤くなったこじんまりとした鼻を擦ってひたすら、街か集落か洞窟か...
とにかくどこかでこの寒さを凌ぐ場所を探していた。
ジャイアントラビットの毛皮でしつらえたコート。
そして、月下の魔法使いがくれた体温を少し高い温度に保ってくれる赤いペンダントを首にかけていられる
これだけでも十分に運に恵まれたとは思う。
けど、やっぱりいくら一人旅の中だとはいえ、冷え込んだ大地を歩き回るのは気持ちのいいものじゃない。
太陽も、真っ白に輝いている。
いや....寒いから、心が冷えきってるなんていう安直な考え方をしているわけじゃなくて、こういう冷えきった場所を歩いていると、ふと昔のことを思い出してしまって、冷え切っちゃうよね。
いや、私もなにを言ってるのか分からなくなってきた。
寒さで、頭がやられ始めてるのかもしれない。
『生成・ライト』
ポワッと、白い光が浮かび上がったかと思うと、小さな狐が作られていき次第に生きたものへと変化していく。
この世界には、魔法というものが存在する。
大抵、魔法を使う場合は、火・水・草・土という四元素魔法が一般的に呼ばれてるものだけど、たまに珍しい属性を持つものが存在する。
私は、光と音を持って生まれた。
私は、かなり有用そうな特殊属性持ちということで色々な波乱に巻き込まれたが、今日ではこの通り元気に生きている。
「ライト...」
私は、ライトという光属性で召喚した狐を頭の上に乗っける。
光属性が付与されたライトは、周りを明かりで照らしながら歩いていく。
今、私がいるのは、ラディシェン雪原という場所を歩いている。
「へぇ...君、あそこを歩いていくのかい?」
「なりゆきで、そうなりそうだけど」
「......あまり、オススメできないなぁ。吹雪が、一週間に四回は吹く。そもそも、歩いて行けるようなものじゃない。」
「それでも....旅をするなら、行かなくちゃいけない。」
「君は、強情だね。」
月の魔法使いの言葉を思い出す。
確かに、これは...人が通れる道じゃない。
「はぁ....ライト、風を....こほっ....こほっ」
猛吹雪が私を叩きつけてくるので、どうにかこうにか召喚獣でなんとかならないか?と思ったけど。
召喚したライトは、光を照らすだけの狐でしかない。
悔しげに、頭の上で丸くなっている狐に、恨みがましい目で見つめるけど...状況がそうすることで改善されるのか?と言われたら、そんなことはないので...
とりあえず、呼吸ができるくらいにはどうにかしないといけない。
なにか...なにか手はないかと歩きながら考えていたら、頭の上にいるライトのしっぽがフリフリと目の前を邪魔してくるので、集中ができない。
「ちょ.....じゃま.......」
手で払い除けようとしても、何度も同じことをするのでイライラして仕方がない。
それに、このライトという狐がいるせいで、目の前が歩きにくくてしかたない。思考もおぼつかない。
なにか状況を変えたいと思って召喚したのに、今のところなんの解決にもなってない。
むしろ、悪化している。
何度とないライトのしっぽが視界を遮った時...ふと、このしっぽ使えないかな?と....考えた。
若干ブチ切れ気味に、シッポを引っつかみライトの肩に乗せて、口元をシッポで覆ってもらう。
「あ.....いいかも」
ちょっと、おしゃれなマフラーみたいな感じになってるし...
まつ毛が白く凍ったりしてるとか、足元が滑ってしかたないとかそういう問題はいくつもあるけど、狐マフラーのお陰で、一つだけよくなったと思う。
ライトは、そのまま眠ってしまったみたいだけど....
「あと....ちょっと、かな。あとちょっと」
首に掛けた金色のロケットペンダントを握りしめて、突風に体が吹き飛ばされないようにひたすら歩く。
街か集落を見つけるのが、早いか?と思ってたけど....この吹雪を丁度凌そうな洞窟を見つけた。
中に、人の腕を軽々と引きちぎってくるホーンラビットや、女の対敵ゴブリンが住んでいる可能性があるけど....
今ここで、この幸運を逃してしまったら、次に吹雪を凌げる場所を見つけるのにどれだけ時間がかかってしまうのか....
私は、想像しようとしたけど、そんな気力もなく...その洞窟の中へと歩く。
『光のベールをここに、ライトカーテン』
洞窟の中で、一晩過ごすために光の盾を作っていたら魔力欠乏で凍死する可能性もある。
とりあえず魔法でカーテンを作って、洞窟の中に入ってくる寒波から身を守る。
そして、一息をする前に、この洞窟がどれだけ広いのか確認をすることにした。
背後から襲われたりしたらたまったものじゃないから。
ちらっ、と首の周りを覆ってくれているライトに目をやる。
「.......偵察......」
してきて...と言おうとして、やめた。
なんだか、この吹雪の中を歩くために呼び出して、そのまま死んでしまうかもしれない場所に向かわせるのも酷な話だから....
それだけじゃなくて、ちょっとだけ愛着を感じていたのかもしれない。
『生成・ライト』
新たな白い狐を召喚する。
首でくるまっているライトとそう変わらないんだけど....こういうのは、そう。気持ちの問題でしょ?
「偵察よろしく」
『コン』
『コンコンッ』
「..........」
新ライトは、首にいるライトを見て一声鳴くと、パチッと目を覚ました首を覆っているライトがコンコンッと二度声かける。
そうして、新ライトは頷くと、洞窟の中を走っていった。
なんだろう....この気持ち。
とりあえず、足がもうヘトヘトで倒れそうなので、そっと腰を落ち着かせる。
感覚の麻痺していた嗅覚が、徐々に治ってきて汚臭というか、獣臭のようなものを感じ始めた。
『コォオオオンッ!!!』
数秒してから、狐の叫ぶ声が聞こえた。
私の魔力で作り出している狐だけど....
なんで、こういうモヤッとした気持ちになるのかな。
結局、嫌な気持ちになるんだったら、このマフラーになってるライトを出してやればよかったかなぁ....
「はぁ.....」
やり切れない気持ちになりながら、私はもう少しだけ休んでいたい気持ちを無理やり奮い立たせて、そっと手を前へ差し出す。
もう片方の手は耳元を抑える。
『響け』
ギィーンッ!!という金属を打ち付けたような甲高い響きが洞窟の中へと鳴り渡る。
ギャッだの、グギャッだのいう声が聞こえた。
「ゴブリン....か」
分かっていたといえば、分かっていた。
匂いがもろ....それだし....
ゴブリンだと分かったのなら、そんなに心配する必要はないかもしれない。
コォオオオンとかいう声がしたけど、死んだと決まったわけじゃない......と思いたい。
むしろ、叫べるくらいには余裕があると見てもいいと思う。
すばしっこい狐を直ぐにゴブリンが殺れるか?いやいや、難しいでしょ。
どんくさい魔物って言われたら、初めにゴブリンが思いつくし....
でも....どうしようかな。私、戦士とか魔法使いとかじゃなくて、ただの旅人だから、魔物とか倒したことないし....
逃げることもできないし...
「.....一、二、三.....四くらいかな?」
耳元で、超高速振動魔法をくらわせれば、そこそこ効果があるだろうけど、そこまで凄い体術も持ってないし、なにより荷物が多すぎて守りながら戦うとか....いける?いや、無理無理。
とりあえず落ち着くためにライトを召喚しとく?
『しよっ...召喚 ライト!!』
あ...ダメだ。気が散って、召喚できないや...
ライトは、自由気ままな狐だから、使役するのが結構大変だし..
あと呼び出せても、あと二体くらいかな。つまり、私の呼べるライトは四体くらいまで....
「..........やるしかないかな。」
そんなことを考えている間に、ギャギャッという叫び声と、白い光がこちらへとやってくる。ゴブリンを引き付けてきた!?!ちょっ、なにやっちゃってくてんの!?!
少し小太りしたお腹と、角張った鼻、小さく尖った角と、黄ばんだ歯がチャームポイントのゴブリンくんたちが、小さな木の枝を持って走ってくる。
あれ.....なんか、思ったより、いけそうな気がする。
「ダメダメいけないいけない。」
こんな、汚らしいゴブリンに、私の出身地であるゴガの里ではこんな言い伝えがある。
ゴブリン見たら、百匹はいると思え
やつらは、お前を連れ去らって子供を孕ませるぞ
ゴキブリよりも、タチの悪いやつらだ。
そうだ。人間に似てるだけに、ゴキブリよりも凶悪とされている。
このゴブリン....私の村の女の子が、襲われたと聞いた時は怒りが込み上げてきた時を思い出さないと。
私は、それっぽく構えをとる。冒険者の知り合いでキャピとかいう女子友達がいたっけ...
あの子のジョブが、徒手拳法だったなぁ...
「ギャッギャッ」
「今夜の飯ッ」
「肉ッ!!肉ッ」
「コォン...コォン」
時々後ろを振り返って、ゴブリンたちが追ってきていることを確認すると、さらに速度を上げて走ってくるライト。
可哀想に....今助けてあげるからね。とか、考えていると、先頭を走っているゴブリンが、私を発見する。
「ゴブッ!?!?女だぞ!?」
「え!?!ほんとじゃねぇか!!女だっ!!」
「女ッ!!女ッ」
「..........」
反応の仕方が、近所の男子しかいない中で、異性を見つけてはしゃぐ中学生男子なのよね。
....いや、いけないいけない。こいつらは、体を洗っていないのよっ!!女の敵!!
ゴブたちは、ライトには目もくれず私に向かって走ってくる。
そういえば、私の近所の家に...あんなカタコトでしか話ができない奴が誰かにモテるだって?有り得ねぇよ。ゴブリンくらいだろ。とか言ってる奴いたな。
「チッ!!」
『ッ......?!?!?』
ゴブリンたちが、一斉に足を止める。なにか青ざめたような顔をしてこっちを見てくる。
「は?何止まってんの?」
「.........いや.....その....は、腹減ってきたな。お前ら。な、なぁ!!」
「そ、そうだ....ね。あ、ほら、まだ洞窟の中に、兎肉残ってるもんね」
「お....俺、聖女様を見たことあるんだけどさぁ.....結構可愛かったんだよね」
ゴブリンたちは、クルッと足を揃えて、洞窟の中へと帰っていく。
私は、唖然としていた。え?ちょっと...戦いになるんじゃないの?こういうのって、あ、あれぇ?
「ちょっと、あれ?」
「そういや....シチューと.....か........あ」
「お.......そ.......な」
「だ........」
「行っちゃった......」
四匹のゴブリンは、なにか世間話のようなものをしながらさっきまでのことは、なにも無かったかのように消えていった。
新ライトが、後ろを振り返って...ほっとしたような息を付く。そうして、とぼとぼと歩いて、私の足元でくるまった。
「..........」
背中に背負っていた荷物をドサッと置く。そして、私は足元で寝ているライトを手元に寄せて、そっと顔を寄せた。
「なにが、聖女よ。どうせ、ゴブリンでしょ」
悔し涙を、キツネの体の上に零しながら、私は洞窟の中に放り投げられている。
恐らくゴブリンたちの護身用に、捨てられた木を燃やして洞窟の中で暖をとった。
パチパチッという音を聞きながら、私はそっと手を伸ばす。
ボーッと、火の温かさを感じていると、段々手が痺れてきた。ので、ゴシゴシと服で拭いつつ、また暖に手を伸ばす。
そんなことを何回かやってると
「ギャァ!!!」
「グキャグギャッ」
という声が、洞窟の中でゴブリンたちが叫びだした。私は、構わず手元に木の枝をとってさらに燃やす。
「あったけぇなぁ」
ライトたちの温かさと、火の温かさが外の温度を忘れさせてくれる。すると、奥からドタドタと走ってくるゴブリンたちの音がした。
もしかして、やっぱり女に目が眩んだの!?
私は、再び火の近くをキープしつつ、構えをとって迎えうつ。
「ギャッギャッ!!女っ!!煙が、凄いんだよっ!!」
「ギャアギャア!!兎肉が、煙の匂いで酷くなっちまったじゃねぇかっ!!」
「ギャッギャギャッ!!煙を吸って、咳き込むし...息できなくなりそうだし、大変になったじゃねぇかっ!!」
「グギャアアァア、このブスがぁ!!」
そうして、ゴブリンが襲いかかってくる。
....なんだか、ムシャクシャしてきた。私のことより、自分のことの方が大事だっていうの?なんなの、このゴブリンども!!ゴブリンどもの分際でっ!
私は、木の枝で叩きつけにくるゴブリンを一歩足を引いて、回避すると返す返すゴブリンAのお腹にパンチする。
『響け』
殴り掛かる直前で、パンチに音魔法を付与させて、腹パンを決める。
「ギャッ...」
そう断末魔の一言を吐くと、両膝を地面に落とす。まるで、足が震え上がるかのように動けなくなるゴブリンを見る。
「なんか、言いたいことでもあんの?」
「大丈夫かっ!?!」
「おいっ.....お腹凄い音鳴ってたぞ。」
「あの....女.....いきなり、殴ってきやがって、許せねぇよ。」
「うっ....お腹が、ブルブルって、俺....焚き火を消そうとしただけなのに」
「分かってる...分かってるから.....あとは、俺たちに任せとけ」
「絶対、この仇は、取るからな」
「.....お前の死は、無駄にしねぇよ」
「あ.....死んで....ない......(ガクッ)」
私は、凄い冷ややかな目線で、その寸劇を見ていた。
いや、私なんかジョブに着いてるわけじゃないから、ただのお腹を揺すぶるか弱いパンチを食らわせただけなんだけど.....なに、この茶番。
「おいっ!!お前っ!!殴るなんて、ひ、卑怯だぞっ!!ギャッギャッ」
「そうだっ!!そうだっ!!ぶ、ブスのくせに!!グギャッグギャッ!!」
「おいっ....やめろよ。お前が、ブスとか言うから、あの人怒っちゃったのかもしれないぞ?ギャッギャッ」
「寒いから、暖を取ってただけだから、勝手に中でギャーギャー騒ぎ始めたのあなたたちでしょ」
「ふざけんなよっ!!おまっ!!殺す!!絶対に殺してやる」
「おい。やめろ。キレんな」
「そうだ。怒らせたら、ダメだ。でも、ここでなにもしないのが、一番ダメだ。追い出そうよ。コイツ」
「いいな。それっ!!」
「やるぞぉ!!」
ゴブリンどもが、寄ってたかってなんなの。全部丸聞こえなのよ。
それにしても、いかにも単細胞みたいな言葉しか言わないよね。それでも、ゴブリンって昔はもっとこう....人を見つけたら襲いかかってくる。邪悪なやからだって聞いてたんだけど...!
....まぁ、そんなことはさておき、ここにずっといたら、いずれゴブリンに追い出されてしまう。この吹雪の中をまた歩くことになる。
想像して、ブルブルと再び体を震わせる。そんなこと絶対したくはない。どうにか和解できないかな。
「ちょ、ちょっと待って!!分かった。十分温まったから、消すからそれで許してよ」
「なにいきなりしおらしくなって...なにを考えてるゴブッ!!」
「仲間が、やられたのに....許すわけがないだろっ!!出てけっ!ギャッギャッ」
「なんなら、ここでくたばっちまえっ!!ギャッギヤッ」
そう言うと、最後に一言言ったゴブリンが、いきなり襲いかかってきた。怒りと、憎しみを込めた憎悪が、私を殴りにかかる。
こ、これは....不味いかも。一対一だったら、なんとか勝機が見込めるけど....三対一で一気に来られたら、タコ殴りに合う姿が目に見える。
初めに出てきたゴブリンに優しくしておけばよかったけど、そんな状況じゃなかったしなぁ。
はぁ....と、ため息をついて、私は荷物を背負って外へと行くことにした。
「あっ.....」
光のカーテンで、突風やら雪やらを塞いでいたけど、これもう要らないか....そう思い、私は魔力を消して、外へと出る支度をする。
「ひっ!?!さむっ!?!な、中に入ろうゴブ」
「いや...そういや、暖かいなぁ...とか、思ってたんだけど、この女が、魔法を使っていたのか!?!」
「....え....俺、あのカーテンがないと寝れないゴブ....」
なんか、背後で騒いでるけど...無視無視。もう、私は決めたと心に決めたら、なにがなんでもやる女なんだから....
荷物を肩に背負って、無言で外へと歩きだそうとすると、背後をギュッとなにかに掴まれる。
「.....なに.....」
「その、しょうがないから、中にいていいゴブよ?焚き火もしていいゴブ」
「そうそう。あの魔法だけやってくれるなら、大歓迎だぞ」
「ブスって...言って悪かった。めっちゃ、美人っしょ。可愛いっしょ」
「......中にいていい?大歓迎?はぁ....」
ゴブリンたちが、私を下から目線で見上げながら、うるうるとした目で見つめてくる。もちろん、全員汚らしいゴブリンだ。
なんか、ゴブリンのくせに、上から目線でイライラするなぁ....私、結構頭に来てるんですけど。というか、ゴブリンに下から目線で頼まれてもなぁ....
「い、いやっ!!どうぞ、居てください。大魔法使い様歓迎しますゴブ」
「そ、そっすよ。歓迎も、歓迎大歓迎っす。あ、背中揉ませていただいても構わないっすか?」
「めっちゃ、美人な魔法使いさんに兎肉ですけど、高級な兎肉をあげるんで、どうかここに....居てください」
「はぁ......」
しかたないので、光のカーテンの魔法をかけ直して、どかっも焚き火の前に荷物を置く。
先程とは打って変わって、愛想よくにへらと笑うゴブ達に気持ち悪さを感じながら、その夜は過ごした。
夜中に、なにかガタガタッという音がした。
三匹のゴブたちが、兎肉を持ってきたのを横目に、私は燻製にした鹿肉にかぶりついて、少しお腹がふくれてきたな。
と感じたら、ウトウトと眠ってしまった。
そうして、物音がしたので目が覚めた。
既に、三匹のゴブたちは腹を出して寝ているし....ゴブリンAが起きたんだろうか?
「......ちくしょう.....俺のいない間に、兎肉なんか食いやがって.....起こせよな。ちくしょう」
お腹をさすって、むっくりと起き上がったゴブリン。私は、心なしか少しだけ好奇心が湧いていた。
というのも、このゴブリンが洞窟の中にいる私たちになにをしようとするのか?いきなり襲い始めたりするのか?というちょっとした疑問だ。
「はぁ....兎肉....残ってるよな。あぁ....残ってる残ってる。カスみたいなのしかないけど」
ボリボリと骨事噛みくだく音と、ゴブリンのイビキが洞窟内に響く。
「ふぅ...腹の足しくらいには、なっただろ。それにしても、この魔法使い....どっから、来たんだ。薄れかけていた意識の中で、この女を向かい入れる流れになったのは、分かったが...気味が悪くて手をつけるのすらはばかっちまう。」
.....いつ、私の話が来るのかな。と耳を済ませていたら、そんなことを考えているのか。なるほどなぁじゃあ、つまり、私がブサイクだから...とかそういう話ではないわけね。
「うっ....あ、しょーべんしそう。ぁ....外でしたら、凍っちまうからな。中でするか。」
「やめろ。ほんとに....異臭が漂ってるなぁ...って、思ってたら、そこら辺に尿を振りまいてるせいかっ!!よくこんなところで生きていけるなっ!!」
「.....あぁ、魔女さん起きてたんだ」
そう言って、私の声すら耳に届かない様子で、そのまま洞窟の脇の方に尿をかけるゴブリンにイラッする。
「世の中に異臭を消す魔法とかないのかな。あったら、いいんだけど....」
「うっ...お腹も痛い....」
ゴブリンAのお腹が、ギュルギュルギュゥゥルルという豪快な虫の音が鳴る。
「ちょっ!!ほんとに、外でしてきてくんないかな?それを、ここに出すなっ!!」
「う、うるさいなぁ....」
ゴブリンAは、そっとカーテンの外へと出て行った。
透明な光のカーテンから、見える外は、どうやらもう吹雪は止んだようだ。まぁ、冷気は中に入ってくるから、解除はしないけれど....
今外に行ったら、異臭と汚物を見るようなことになりそうだから、本当に嫌だけど、どの道行先くらいは決めないと話にならないし...
寝てる時に、お腹あたりでグースカ居眠りをしていたライトを首に巻く。そうして、意を決して、外にでる。
見渡す限り、真っ白の平面がどこまでも続いていた。その奥の方には、白くゴツゴツとした山がいくつか連なっている。そして、疎らに立っている枯れ果てた細い木が白いカーペットから、踏ん張るように立っていた。
その景色の中に、一つ青い結晶でできた塔が見える。その塔は、歪に作られた氷で出来ており、ところどころ尖った部分が突っ張っている。
そんな、滑稽な作りとは対照的に、太陽で照らし出された塔の中に映し出されたいくつもの雪結晶が照り輝きながら、青い光を放つ。
「綺麗.....」
そう....これが、一人旅の醍醐味。私が、好んで一人旅をする理由、見たことのないモノや、新しいモノを見つけることができるから....
「ライトたち、今回の目的地はあそこにしよう。」
「?」
マフラーになっているライトは、私のことをチラッと見るとそのまま、スヤスヤと眠ってしまった。
もう一匹のライトは、私の足元が気に入ったのか足に触れるくらいに近づきながら、歩いている。
なんだか...一人で呟いて、誰も返事をしてくれない虚しさみたいなものを感じるけど、じ、自分に言い聞かせたことだから!!
気にしない。気にしない。
「ふぅ...良いもんでたわぁ.....やっぱ、朝っぱらから、スッキリすんの大事だよなぁ....」
「.........」
遠慮も、配慮も知らないゴブリン、私はかなり嫌気がさしていた。
こんなところ早く出るにかぎるわ。別に、いたくてゴブリンと一緒にいるわけじゃないんだから..不可抗力!!だったんだから!!
汚いものと、綺麗なものとの狭間で私は複雑な気持ちになりながら、洞窟に戻って荷物を背負って、外へと出る。
「もう出ちまうんかゴブ?」
「いや...さっきから、ゴブって、語尾に付けてなかったでしょ。取ってつけたようなゴブなんか要らないから」
「はぁ....分かってないなぁ....ファンサービスって、やつゴブよ。俺たちのアイド....んんっ!!元言い、聖女様はなぁ...ファンサービスっていうのを大事にしてて」
「あー、そういうのいいから。こんなむさ苦しいし、悪臭が酷い場所で一日過ごしたってだけで、反吐が出るから、早々に旅に出るよ」
「それで...その聖女様が、ゴブって語尾に.....あぁ、すまねぇ。話を聞いてなかったゴブ。いや、言わなくていい。分かってるぜ....まぁ、そうだな。達者でな」
「............最後の忠告....臭うゴブリンは、聖女ゴブリンから嫌われるよ。」
「おいおい!!マジかっ!!おいお前らっ!!起きろっ!!早急に、清潔なゴブリンになるぞっ!!」
......初めから、清潔なゴブリンは、モテるよ。って言ってれば、こんな生活になってなかったのかよ。
私は、胡乱な目で洞窟の中に入っていったゴブリンを、眺めつつ....なんか、少し疲れた気分になったので、早々に足を早めることにした。
ザクッザクッと、雪を踏み潰していくように歩く。
ラディシェン雪原は、寒さが極まってると言ってもいい。かなり、雪原を歩いたが、雪は一行に溶ける気配がしない。
その上、二・三日もしたら、すぐに雪が振り積もっていくんだから、雪が堆積していくばっかりで、たまに底なしかのように思えるくらいに踏み抜いてしまうことがある。
「う、うぁっ....」
割と、危機的状況である。
そのまま、雪の中へと落ちていって、窒息死とかなってしまったら、シャレにならないし....
ある程度、時間が経てば大抵は、固まって足場になるんだけど...
私のロケットペンダントに入っている赤いペンダントが体温を少しだけあっためてくれる効果があるだけなのに、無駄に底にある雪を溶かす。溶かす。
『光の盾っ!!』
私は、小さな光の盾を足場にして、なんとか雪原を歩いていた。
「....はぁはぁ.....魔力が、バカんなんないわ。歩くだけで、神経を一々尖らせていかないといけないなんて....」
マフラーになっているライトは、ともかく...もう一人の偵察ライトは、雪の上を軽々とした身のこなしで、飛び跳ねながら歩いている。
そんなに、役に立たない召喚獣のくせに....こういうところだけ、ちゃっかりしてんの....ムカつくんだけど
『光の盾っ!!』
昔お母さんに見せてもらったダンジョンでの川渡りのシーンを思い出す。
ダンジョンには、宝箱や....恐ろしい化け物....地下へと進めば進むほど変わる風景が待っているんだとか...
そんな話の中に、激流の川渡りとか言うチャレンジャーを、なんの変哲もない自然環境が殺してしまうほど、恐ろしい場所があるんだとか...
その川の中に落ちたら、水流に流されて殺されてしまう。死因は、様々だけど...
そこを渡るには、その川の中にある小さな石の上を飛んで進まなければならないらしい。
「雪原....も、人を殺すのね」
ダンジョンには、一度は行ってみたいとは思うものの、こんなところで、まるでダンジョンの中に入ったかのようなスリルを味わうことになるなんて....
私は、金髪が顔にかかりそうなのを、そっと手で耳にかけて、額にうっすらと浮かぶ汗を拭う。
「こんなところで....死んでたまるもんですか....」
そんな....危機的な状況で、私は楽をするために突拍子もなくいい案を思いついた。
先の雪原を、歩いている時に召喚をしたライトは全く役に立ってくれなかった。
なら....今、この状況ならなにか役に立つようなことがあるのでは?
案というよりも、現実逃避に近い疑問?に、私は真剣に考える。
私は、とりあえずマフラー代わりにしていたライトをトントンと、叩いて起こして、自分で歩かせる。
少し不機嫌気味に、私に鼻息を吹きかけるライト。
「ちょ....やめなさいよ。あんた、仮にも私の召喚獣でしょ?」
ふい、っと、私に顔を見せないで機嫌を悪くしたライト...この子ねぇ...私が、どんな思いをして、召喚したと....
「いい?あんたたちは、私の魔力で生きてるの?分かる?とにかく、後で休ませて上げるから...なにか働きなさい」
マフラーライトは、なおを私の顔を見ない。偵察ライトは、私の方へと来ると、小首を傾げた。
....まぁ、いいわ。
それにしても、この子たちが私を運んでくれるなんて思ってないけど、やれるだけのことはやってみないとね。
私は、歩きながら器用にバックの中に手を入れて、なにかに使うか分からないけど、念の為持ってきたロープを二本手に持つ。
「こっちにおいで、ちょっと首にかけるからね。」
と、犬ぞりみたいな感じで、できないか?と考えたけど....このまま、ロープにくっ付けたら、歩いてる途中に、窒息死しないか心配よね。
「足?は、それもなんかだし...胴体とか?」
私は、ライトたちの体に、歩きながら結びつける。
これが、以外と大変で....魔法に意識をむけながら、別の作業をする。それだけでも、中々手こずった。
「はぁ....はぁ.....よしできた。」
我ながら、自分の出来栄えに拍手をせざるを得ない。
なんと、美しい結び目。
こんなに、達成感に満ち溢れたことなんて...人生で、一二回くらいしかない。
でも、これが上手くいかなかったら、さっきまでの頑張りがおじゃんになりかねない。
「お願いだから....お願いだから成功して」
そう、心の中で祈りながら、ライトたちの体に巻きついた手網を握る。大丈夫....私なら、行ける。
「よしっ!!行ってっ!ライトたち」
マフラーライトは渋々ではあるが、偵察ライトとともに徐々に足を早める。痛そうとかそんな様子は、ない。
まぁ...召喚獣だし...魔力の塊みたいなものだしね。
「おぉ.....いい調子っ!!いい調子」
私は、徐々に引っ張られていくのを感じながら、手綱をしっかりと握る。一瞬で、勢いに引っ張られて雪の中から、空中へと飛び出す。
「うぉ!!よしっ!!いい感じっ....感じっ!?!?」
直後....私は、外に放り出された勢いそのままに、地面へと落下していく。なんとか足で、その勢いを抑えて体制を立て直そうとするも、途中で足をつんのめってしまう。
「まずっ!?!」
私は、そのまま前のめりになり、勢いそのまま顔面から雪の中へと落ちていきそうになる。
『ひ、光の盾っ!!』
このまま、雪の中へと落ちたら、そのまま窒息死なんてことも有り得る。
なにが、窒息へと向かうのか分からないが...
とにかく、底なしの雪の中へと顔面ダイブなんてなんの危険があるのか分からないが、ハッキリとした死へと恐怖へと変わる。
そんな、悪寒を感じたため....魔法を、私を雪の中へと落ちていかないように作る。結果、光の盾に顔面から、ぶつかるという形になった。
「うっ....たぁ.......」
目を閉じたは、閉じたけど...
鼻が、凄い痛い。
折れてなければいいけど....それでも、ライトたちは止まる気配が、ない。そのまま、ズルズルと私を運んでいこうとする。
私は、激痛で言葉を発することができなかった。止まって!!その四文字を言えばよかったのに....
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!!
明らかな絶望。こんなことで、こんなしょうもないことで、死ぬとか...ほんと、なんの冗談だよ。って感じだからっ!!
「.........っ!!」
そんな...焦燥と、絶望と、痛みで複雑な気分になりながら、死への覚悟も、なく....雪の中へと....
入ることは、なかった。
「わ、私....痛みで、手網を離してたんだ。あ、危ない....本当に危なかった.....」
今も意味わからない速度で、魔力が消費されているため、体制を立て直して、雪の中へと足を入れる。
試しに、鼻を摩ってみると、僅かな痛みを感じる。
背に腹はかえられないか....
『ライト・ヒール』
そっと、顔に手を当てて...ヒールの魔法を使う。
光の魔法でのヒールは、本来の適正とは違うため、かなりの魔力を消耗する。私の顔になにかあったら....それだけで、私は許せない.....いや、許さない。あの、ライトたち許さない。
「はぁ.......はぁ......っ......」
そうして、ヒールの代償に私は、気を失い。
底なしの雪の中へと落ちていった。
※ネタバレ注意※
(内容整理のために、この子の名前を先に見せてます。ちゃんと見たいって人は、上へ....)
〜スノードロップ・シェリアクのノート〜
現在地 ラディシェン雪原
吹雪が続き雪が積もっているため、歩いて進むのは困難を極める。(ヤバすぎる場所)
私の魔法 光魔法 召喚魔法 ライト(白くて光る狐)
光の盾 (硬めの板)
ライトカーテン(便利なカーテン) ライト・ヒール (小回復)
音魔法 声を響かす。
パンチ強化
装備品 ジャイアントラビットの毛皮 巨大バック
持ってると暖かくなる赤い石