第6話「RUN」
「賽銭箱に100円玉投げたら、どんな人生がイイ?」
「釣銭がでてくるような人生?」
「嘘は言わない。そう心に決めて?」
「嘘をつき続けて私は生きている?」
唯たちが入学して暑い夏になり、残暑がしつこい秋が過ぎ、肌寒い冬になった。
彼女達の軽音部は部活のそれというより、もう歴としたバンド活動になっていた。文化祭ではステージに立って拍手喝采の演奏をしきった。
彼女達はその活動をするなかで永口ツヨシというロックンローラーのカバーを好んでするようになった。最もそれは唯と律が彼を好き好んでいたということも重なっての方向性だ。
「あ、ああ、あぁ~痛いなぁ」
「ミオタ、どうかした?」
「うん、なんか喉が痛くてさ」
「え? 来週の土曜にはライブあるでしょ?」
「声がかすれているね……」
「ゆいまん、しばらくヴォーカルをお願いしていい?」
「え? 1週間でギターヴォーカルをしろというの?」
「私はこの声じゃ歌うのは無理だよ。頼む」
「ギターなしでいいなら……」
「うん、いいよ。じゃあ決定」
「ごめん、あと1つ」
「何?」
「佐久間先生がこの頃は調子悪いみたいだから、佐久間先生に無理して貰うのはやめにしない?」
「じゃあ誰がベースをするっていうの?」
唯と律と美桜が第2音楽室の片隅をみた。
そこには静かにベースを弾き続ける梓。
「駄目だよ。あの貞子先輩なんかじゃ」
小声で律が話す。
「りっちゃん、言い過ぎだぞ?」
「でも、律の言い分もわかるよ。どれだけ私達が話しかけても、ずっと無視よ? それもこの1年間ずっとだよ?」
小声で美桜と唯が続く。そこで静かに音楽室に響くベースの音が止んだ。
「よぉ? なんや? いま僕の事を何と言うた? そこのチビ、おお?」
「ひっ!」
梓が律に迫る。それを唯と美桜が制止した。
「何や? コイツがいま僕にいうた事が聴こえへんかったのか?」
「やっと私たちの声に耳を傾けてくれたのですね?」
「何やと?」
「ずっと無視ばかりしていたのに。振り向いてくれるなら最初から悪口を言えば
良かったな」
「ああ!?」
「ゆいまん、相手は先輩だぞ?」
「先輩だから何!? 私達は一生懸命ライブの為に練習しているのに、まったく関係ない音をだしてきて!! それにずっとずっと我慢してきて!! 私たちが困っている時になって急に先輩面して脅してみせてさ!! 仲間でも何でもないアンタに何で気なんか使わなくちゃいけないの!!!」
唯の叫びは凄まじい迫力を持っていた。
誰もが静まり返った。
恐れからなのか、怒りからなのか梓は身体を震わせながら無言で第2音楽室を出た。それから彼女が第2音楽室に現れる事はなくなった――
その日は冬休みに入る終業式の日。
まるで何かを寂しがるようにして雪がちらちらと降っていた。
その少女は楽器を背負いながらも悔し涙を浮かべて粉雪の中を走った。
何が悔しいのか分からないまま――
結局、佐久間の体調悪化はすぐに治らなくて入院までした為に唯たち軽音部のライブ活動は延期を要する事となった。
その間、唯はヴォーカルの練習に励むようになり、歌を歌う事に目覚めた。
やがて唯たちは2年生となる。春になる頃には佐久間も教壇と部活動に戻ってきた。しかしその頃から彼は電動車椅子に乗っていた。
「どうだ? オリジナル曲を作ってみたぞ?」
PC越しに佐久間が作ったメロディーが流れる。
「歌詞は?」
「君が書いたらどうだ? ヴォーカルだろ?」
「いやぁ~そういうのは苦手かなぁ?」
「じゃあ……私がやってみたいです!」
「ミオタ!」
「おぉ~どういう歌にする?」
「お金ばっかりに目がくらんだ男が禿げる歌!」
「はっはっはっは! なんじゃそりゃ! 面白い!」
こうして生まれたのが進刻高校軽音部初のオリジナル曲「歌ウ蟲ケラ」だった――
∀・)永口ツヨシってそりゃあ兄貴がモデルです。分かる人には分かるね。また次号。