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第5話「空と君との間には」

 進刻高校第2音楽室、平澤唯と田中律、山田美桜の3人がたまにおどけながらも楽器を演奏していた。唯と律は未経験なのでときどき美桜から指導を受ける。



 梓は座ってベースを抱えながらそれを眺めていた。



「先輩は弾かないの?」

「ああ、そんな気分じゃないから」

「どんな気分なのよ?」



 梓は独りでベースを弾いているほうが楽な気持ちになれた。しかしそれをいまここで楽しく演奏に没頭しようとしている彼女たちに言っても伝わらないだろう。だからただ見守る事にした。「体調がわるいんや」と言うだけ言って。



 しかし彼女達をみていて分かる事があった。



 1人だけセンスがイイとかならまだしも、3人ともしっくりきていたのだ。



 ギターを軽やかに弾くようになった唯は数日で弾き語りをしてみせるように。最初はそれこそ無茶苦茶な叩き方をしていた律も1曲通して問題なく叩けるようにまでなった。それを指導しきる美桜のスキルなんてかなりのものだ。



 ドアが開く。



「よお、どうだ?」



 入ってきたのは初老の国語教師にして軽音部の顧問も務めている佐久間正秀だ。ひょろひょろとした体で白髪の彼だが、その性格は見た目と違って明るく快活な男性教師を彷彿とさせている。



「あ、はじめまして! このたび軽音部に入部しました山田といいます!」

「平澤です」

「ウンタンをやっています律です」

「顧問の先生ですか?」

「ああ、佐久間というよ。宜しく。そこの伊藤君のクラスの担任もやっている」

「そうなのですね!」

「この部は今まで何度も廃部に追い込まれてきた事があってねぇ、今度の今度は駄目かもなぁと思ったけど、仲間に恵まれて良かったな! 伊藤君!」



 梓は佐久間の振りに対して頷く程度で無言の返事を返した。



「あの……先生……」



 美桜がそっと小声で佐久間に話しかける。



「あの……伊藤って先輩……私達がここに来てからというもの、ずっとあそこで座って何もせずに私達を睨んでいるばかりで……」

「ああ! そうなの! 気にしないでいいよ! 無視しなさい!」

「えっ!?」

「彼は元々独りでいる事が好きなコだからねぇ。君らに心を開くことはないかもしれないし、あるかもしれない。イチイチ気にしないでいいよ。それより君ら、一昨日はまぁ~酷い演奏をするものだから、ココに入る気にもなれなかったが、昨日、今日と随分と腕をあげた」

「聴いていたのです?」

「ああ、顧問だからね。1曲やってみようか?」

「今からですか?」

「おうよ」

「あの、先生、私はできればベースじゃなくてギターを弾きたいのですが……」

「ん? 君がベースじゃないの?」

「うん、仕方なくやっているというか。それにあそこの先輩がベースを弾くなら、あそこに先輩にやって欲しいなぁ……なんて」

「じゃあ僕が弾こうかな」

「えっ!? 先生が!?」

「10年近くこの部活の顧問をしている。昔取った杵柄とやらをみせてあげよう」



 新進刻高校軽音部の演奏が始まる。



 曲は「翼をください」だ。



 ギターボーカルに美桜、バックギターに唯、ドラムは律、ベースは佐久間にて数分間の演奏を問題なく終えた。いやむしろ素晴らしく走り切った――



 演奏を終えて数十秒後、第2音楽室に1人の拍手が鳴り響いた。



「うまいな。今日の僕はこれで満足や。さいなら」



 拍手をした梓はそのまま立ち上がり、第2音楽室を去っていった――




「あの先輩、何なのですか?」

「ははは、変わっているのさ」

「そういえば先生、彼女の事を彼って言っていませんでした?」

「ああ、そうか、僕のほうから話したほうがいいのかなぁ……」




 佐久間は梓が性同一性障害を持つ事ととても仲良くしていた先輩がいて、その先輩にだけ心を開いていた事――




 帰り道の方向が同じ唯と律は軽音部の事を語り合った。



「今日も楽しかったねー」

「うん、あの佐久間先生って先生は突然すぎたけど」

「伊藤先輩の事をどう思った?」

「え? どうって?」

「う~ん、変な事を聞いたかな。ごめん、気にしないで」

「いやぁ、私は何とも思わないよ? そういう人もいるのかぁぐらいで」

「そう」

「律は何か思うの?」

「人にはそれぞれ事情があるよね? それは人に言えたり言えなかったりのが。だけどそれが自分じゃなくて他人が話しちゃうのってデリカシーないのかなと」

「佐久間先生が話しちゃう事が間違っていた?」

「う~ん、なんていうかなぁ~もう別の話題にしようか!」

「ああ、うん、その、律さ、ドラムをウンタンっていうのをやめない?」




 律との別れ際、手を振りながらメールが届いた事に気づく。母からだ。彼女は唯が部活をする事に反対をしていた。そしてメールの内容は彼女が営む社会福祉法人のボランティアの参加を促すものだった――



 溜息をつき、夕日に染まる空を見上げる。



「人に知られたくない事情ね」



 そのテーマは誰にとっても重いものに他ならない――



∀・)顧問の佐久間先生が登場しました。実はモデルがいて大物プロデューサーの佐久間氏という御方になります。もうこの世にはいませんが、とても素晴らしい音楽家であられる御方でした。気になる人は調べてみてください。このはなし蛸壺屋さんっていう2次創作サークルが手掛けた「けいおん」に近いはなしかもしれませんね(笑)次号(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとなく読み始めたのですが、面白くて一気に読んでしまいました。 ところどころにけいおん味を感じつつも……キャラの個性が強くて強くて 笑 続きも楽しみにしています( ´ω` )/
[良い点] 顧問の先生はさわちゃんじゃないのか。 でも佐久間先生も良いキャラしてますね。 だけど梓の事情を他人に漏らすのは少し無神経ですな。 それと佐久間先生のモデルも気になります!
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