第53話(最終話)「Counting Stars」
お金の数を数えるより星の数を数えよう。
誰かがそう歌った。その歌を思いだしながらーー
何十年も前の景色に戻る。
2001年、春、彼女たちは私立女子校の進刻高校で出会った――
「唯ちゃん、全部みてまわろうよ!」
「えっ!? 全部?」
「全部よ! 全部!」
ユイマールこと平澤唯は入学して間もなくリッチャンこと田中律と同じクラスメイトで友人になった。彼女はそれまでの経緯があって、部活なんてしたことがなかった。シャイな雰囲気を醸し出しつつも、胸襟を開けば底抜けに明るい律は「楽しそうな部活へ一緒に入部しよう!」と唯の腕を掴み、放課後の校内を歩きまわる――
「ねぇ! みて! ボールを蹴っているよ! あれがフットベース?」
「蹴り合ってやっているからアレはサッカーだよ。フットベースは稀。というか何でフットベースなんて知っているのよ?」
「私の妹がやっていると聞いているからさ」
「ああ、なるほど。でも珍しいタイプだね」
唯はその時から律に妙なものを感じていた。
「お~い! 起きて~!」
「んにゃ?」
50代になってもバンドマンである唯はホテルの一室で目を覚ます。
起こしてくれたのはすっかり老けた婦人ドラマーの律だ。
「今日は朝早いってユイマールが言っていたでしょうが」
「あぁ~そうだっけ。夢をみていたよ」
「夢?」
「うん、リッチャンと進刻高校の部活動を見てまわる夢」
「え? 懐かしいなぁ~」
「懐かしいよなぁ。まさかこの歳になってまた母校にいくなんてね」
歌ウ蟲ケラは長い期間、活動休止を続けていた。そのせいか事実上の解散だとみるファンも少なくはなかった。しかし長年の時を経て彼女達は戻ってくる。その舞台は進刻高校文化祭のステージだ。ゲン担ぎという訳でもないのだろうが、彼女たちが2度目の解散をした記念の場所。
あれから何年の時が過ぎたのだろうか。梓は相変わらず髪を長くしているが、白髪交じりの灰色のヘアとなっており、気持ち髭も生やしている。美桜も恰幅よい体型のままだが、どこか年季の入ったおばちゃんに見えて仕方ない。
世の中は目まぐるしく大きく変わった。世界平和とはほど遠い世界になったが、日本はそれでも平和な秩序を護っていた。世界各国からその安定した生活環境を求めて外国人が多く住む国にもなり、多様化とハイテク化は進むに進んではいるものの、人種による格差などは今なお以て課題だ。いやむしろ深まったと言っていい。
唯はその激動の時代をロック歌手として乗り切った。だんだんと売れなくなる自分を体感しながら、自分の歌を愛するファンと向き合ってその活動に邁進した。最近は報道番組のコメンテーターを務める事もしている。
そして歌ウ蟲ケラの活動再開を待ったのだ。
一方で子供が大きくなって、自由に動けるようになった律と美桜がバンド活動を再開したいと唯に打ち明けた事で唯のその想いは叶う形に。
歌ウ蟲ケラは早朝から学校の関係者に挨拶にまわる。また学園祭の手伝いにも入る。午前9時を過ぎた頃から令和世代の生徒達の姿がちらほらみえる。しかし自分達をみても特に何か反応をすることはない。
自分達は彼女達がいま夢中になっているアイドルやロックバンドですらない。10年以上活動を休んできたのだ。唯の知名度だってノエルとの共演で世の中のニュースになっていた頃に比べれば厳しい話、落ちたものだ。
「これでも学園祭ステージの大トリかぁ」
「私らの経歴からしたらそれぐらいにして欲しいでしょ?」
「一応はメジャーのロックバンドやで?」
「何だろうな。私らっていつでも謎の自信に満ち溢れているよな?」
ヴィベックスの華崎鮎美は海外で音楽ビジネスを展開する会社を新たに設立した。斧崎やら山里やらの社員はそこについていったが、諸伏は子会社と化したヴィベックスに残って社長職を受け継ぐ事となる。歌ウ蟲ケラと頗る仲の良い彼女が社長になる事で、歌ウ蟲ケラが優遇を受ける事になりそうだが、会社としてはとにかく売れるアーティストを生んでいかないといけない。故にそこまで期待ができるものでなかった。ただ彼女は彼女で歌ウ蟲ケラに対する支援を細やかにしてくれていたという。それはのちに思わぬ形で明らかになるのだが――
学園祭のステージが始まる。
唯と律は腹ごしらえに学生が営む露店で何かを買おうと話し合う。
「う~ん、やきそばがいいか、おでんか」
「ユイマール、全部みてまわろうよ!!」
「えっ!? 全部?」
「全部よ! 全部!」
何か今朝みた夢とデジャブなものを感じた。
やがてステージに立つ。学生たちの親は歌ウ蟲ケラを知っているのだろう。
大きな歓声はほとんどそうした世代からあがった。
久しぶりのライブ。
1曲目は彼女達の原点というべき「歌ウ蟲ケラ」から始まる。
彼女たちをあまりよく知らない学生たちはここで多くが圧巻されたという。
2曲目は「殺しのメロディー」だ。歌ウ蟲ケラのキャリアを作ってくれた。
3曲目は「絶望スモーキン」を。歌ウ蟲ケラの第2幕を閉じた歌。
『進刻高校の皆さん、初めまして! 歌ウ蟲ケラです!』
3曲目が終わり唯のMCが入る。
『えっと、ここにいる若いみんなはよく知らないと思うけど、10年前ぐらいにオリコン1位を2回とった事があるのですね!』
反応が薄い。
『だからインディーズバンドではないと思ってください!』
ここで生徒たちから笑い声があがる。
『だけど実はこのライブ、この4人でやるのは実に10年振りで。今日歌う歌もその10年前を思い出しながら選びました。余計な事かもしれないけど、私らはこの進刻高校の生徒でありました。ここの卒業生です。メンバーに1人退学者がいるのだけど。あ、あとウチの会社の社長も何気にそうです。あ、えっと、コレって言っちゃいけないヤツ?』
笑い声のボルテージがあがっていく。
そしてこの時に気づいた。どうやらこの学園祭のステージの観客が歌ウ蟲ケラの番になり、増えてきているらしい。
『あと2曲で終わるのだけど、ここから皆さんにはヘドバンをして頂きます!』
ここで唯は完成した歌ウ蟲ケラのスタイルの伝授を開始。唯達より遥かに若い生徒達がノリノリで応じてくれる。そして4曲目のシャウトが始まる――
『メンカタアアァァァアアァァ!!』
コッテリィィィイイイイイィィ!!!!
『セアブラアアアァァァアアァァアァ!!』
マシイィイィマシイイィィイィ!!!! といういつかのフェスに負けてない大歓声の中で4曲目『ラーメン週16中毒』の披露がなされた。
時代を超えてもこのノリについてこられるのか。
唯は自然と満面の笑顔をみせる事ができていた。
最後の5曲目は『ぷ・れ・で・たぁ』で締めた。
文化祭なので原則アンコールはないのだが、それでも会場はアンコールが続く。
その期待に応える形で『うっせぇよ』を特別に6曲目として披露。
この時に進刻学園のグランドは満杯の人だかりに溢れていた。
「ははは。まだまだ私らも捨てたものじゃないな」
マイクを外した唯はそっと呟く。
控室に帰るとヴィベックス社長の諸伏がマネージャーの与作&ジョニーと共に歌ウ蟲ケラを待っていた。
「社長!?」
「お疲れ様です。グランドはいっぱいだったから、ここで彼らと中継動画で観ていました」
「お忙しいのにわざわざご苦労」
「今日は皆さんに朗報があって」
「朗報?」
「ええ、私、実はマネージャー時代から皆さんの歴史を小説にして書いていまして」
「えっ!? そうなの!?」
「それが映画化する事が決まりました!」
「「「「えぇ~!?」」」」
4人全員が驚きを隠さずにいた。
しかしこれは唯がその数カ月前に受けたインタビュー記事を諸伏がみて、心が奮い立ち各種業界に働き掛けた結果だった。
いつどこで誰の物語に脚光が当たるかわからない。
ただ音楽にしても小説にしても何にしても心を動かされるものがあるのなら、これを自問自答する人がいても私は悪くないと想う。
その出逢いは偶然だったか必然だったか――
∀;)最後までお付き合い頂き大変にありがとうございました♪♪♪本日をもちまして「歌手になろうフェス」は閉会を致します。そして38歳になりました。これまでにない誕生日を迎えているのじゃないかと思います。約半年に及ぶ連載作品となりましたが、かなり多くの方々の力を頂き、多くの方々に愛された作品へ成長できたと思います。この作品に関して語りだしたら、きっともの凄く長い話になってしまうだと思いますが、またその節々で思いだして話そうと思います。読んでいただいて、本当に本当にありがとうございました☆☆☆彡




