第50話「Whatever」
歌ウ蟲ケラの知名度はツァーリのノエル・ギャラバンのお蔭で国際的レベルまで達した。
その独自のロックスタイルは賛否があるもので、メタルとパンクを融合させたとても激しい曲調が特徴だ。また歌詞の内容がとことんふざけてもいれば、その場合によって非常に過激な歌詞を入れる事でも知られる。
彼女達がその名を広めるキッカケになったノエル騒動は歌ウ蟲ケラがツァーリの完コピをした動画を以て沈着した。いつまでもうるさいノエルが急にその姿をみせなくなったのである。
このタイミングをみて、歌ウ蟲ケラは待望の3rdアルバムをリリースした。タイトルは『歌ウ』だ。その週は特にこれといった強豪アーティストとの競争がなかった事も幸いし、念願の週間1位を獲る。彼女達がチャートで1位を獲ったのはこれが最後になった。時代のうねりは誰にも読み取れない。しかし唯があのツァーリと関わった事で日本のロックシーンはないし音楽シーンから注目の的となった事は偶然であっても、あまりにもよく出来たサクセス・ストーリーに他ならない。
しかしそんな唯にも思いもよらない事があった。
「結婚することになったの」
「えっ?」
ライヴの終了後、律から打ち明けられた。
「そっか。知らなかったなぁ。ははは。おめでとう。相手は?」
「お笑い芸人よ」
「田代伝慈郎?」
「まさか。誰かは言えないよ。ずっと見られないようにしてきたし」
「えっと、アズニャンやミオタは知っているの?」
「付き合いだした頃から見抜かれていたみたいで」
「マジかよ……私の目は節穴だったのか……」
「いや、だって、ユイマールって蟲ケラの為に一生懸命だしさ、そういう浮いた話みたいのが全然なさそうだし。話しづらかったかな」
「いや、これ、カメラまわってないよね?」
「まわってないよ!」
この翌日に律と漫才コンビ「恋人じゃない」の木下が入籍したニュースがでた。
さらに驚きなのがこの翌々日に美桜と同社仲間のハンソックが入籍したというニュースが飛び込んできた。これは唯だけでなくて律や梓にもその交際が内密にされていたという――
アルバム『歌ウ』が世間で話題となる中で何という話題作りをしてくれたのだろうか。それは全国ツアーの最終日、その打ち上げに花婿となったハンソックと木下が挨拶にやってきた事で尚更に実感するものであった。しかし一行は意外にも和やかな雰囲気で2組の新婚夫婦の祝福をした。
その帰り道、タクシーのなかで唯と梓は話す。
「いや~人ってわからないモンやなぁ。美桜とハンソは親友かと思うてた」
「私は何も知らなかったなぁ。ただ蟲ケラに奔走していた」
「それでええのと違うか? そういやぁユイマールは恋した事はないの?」
「アズニャンに言われると照れ臭いけど、2回ぐらいはあるよ。1人は結婚まで考えてもみたけど、どうもそこまで決意できなくて」
「へぇ。知らなかったなぁ」
「おあいこさま。アズニャンだってアンリさんの事を何も話さなかったクセに」
「結婚までいかなかったのはバンドの為か?」
「それもある。でも、私のなかではいつでもお父さんが生きているんだ。ずっとすぐそばで私にあれこれうるさい事を言ってくるの。もう死んだのにね。それに本当は憎んでいいぐらいの父親だったのに」
「………………」
「ふふふ、いいよ。そんな気を使わなくても。でも変な話、憎しみと愛って表裏一体だと私は思っているよ。もの凄く憎くても、次の瞬間には何故か愛おしくて堪らなくなる。男女ってそんなもの。親子ってそんなもの。友達ってそんなもの。それが私って私を動かしている」
「アンタ、ええ奥さんになれそうだけどなぁ。ああ、運ちゃん、そのへんで!」
「はい。かしこまりました」
「今の俺らの話はシークレットな!」
律と美桜は結婚して間もなく子供に恵まれた。その間は歌ウ蟲ケラの活動も休止する事に。唯はそれでもヴィベックス所属アーティストということでソロ歌手としての活動も始める――
その軌道に乗った中での出来事だ。
ヴィベックス本社にて唯と面会を希望する男が現れた。
ツァーリのリック・ギャラバンだ――
∀・)読了ありがとうございました♪♪♪最終回が近づいて参りました♪♪♪




