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第4話「田中律」

 田中律は裕福な家庭に生まれていたが裕福ではなかった。



 彼女は地方議員の父を親に持つ子であった。しかし自身は母親の連れ子であり、5人兄妹の四女でありながらも、家族との仲は決して睦ましいものでなかった。



 また政治家としての父だけでなく母も夫の後援会の理事を務めあげている為に家を空けることが多かった。



 その結果、父から熱烈な英才教育を受けていた長男を除いた次男と長女と律は中学時代より派手な遊びに興じる事が増えて、長男に期待を託していた親はほぼ放置も同然に荒れる子供たちを宥める程度に接していた。



 ただ律は次男や長女と何か違っていた。中学時代に入っていた長女絡みの不良グループでいじめやパシリなど下僕同然の扱いを受けており、高校に進学する頃には彼女らと決別する事を決めた。その為に長女とは違う派層の遊び仲間を作り、家出を繰り返す事もしていた。



 律は未成年飲酒や未成年喫煙をしてしまう非行少女でありながらも、優しさと弱弱しさがどこか滲む少女でもあった。近所でみかけた野良猫の面倒をみようとした事があれば、孤立してしまっている女子や男子の傍に何気なくついてみたりすることも。引っ込み思案な末っ子の5女からもその性分で好かれており、自ら進んで面倒をみることもしていた。そんな彼女が唯と同じクラスとなって、唯と友達になったのは自然な事だったのかもしれない。



 しかしその彼女が何の縁か、ロックバンドを始める事になるのは奇妙な出会いだったというに他ならないだろう。




 その日、彼女はデパートの中にある楽器店でドラムセットをじっと眺めていた。



「ご興味がおありなのですか?」

「え? あ、いや何となくみているだけで……これがウンタンと言うのですか?」

「ウンタン?」

「ああ、名称のこと? これはヤマハの――」

「楽器の名前のことです」

「ドラムと言いますが?」

「ドラム。そうですか。わかりました! ありがとうございます!」



 律はそのまま家に帰っていった。彼女は第2音楽室にあったドラムを自ら叩き楽しんだ事でその興味を膨らませていた。その足で街のなかにある楽器屋に来たのはいいが、その300,000という値段に絶望のようなものを感じた。




 家に帰るとエントランスで長女の繭が律を待っていた。



「おかえり。どう学校は?」

「楽しくやっているよ」

「そう、良かった。あのさ、イイ仕事をみつけたのだけど律もやってみない?」

「どうせ私をパシってみたいだけでしょ? いいよ。興味ない。別あたってよ」

「そう言わずにさ!」



 繭が律の腕を掴むが律はそれを強く振り払った。



「私に構わないでよ! アンタなんか大嫌い! いなくなれ!」



 律はそのまま彼女の部屋に入って鍵をかけてみせた。



「チェッ、やっぱ使えねぇか」



 繭は苦笑いをしたが、その苦みは重さを伴っていた――



∀・)お久しぶりです!戻ってきました!「歌ウ蟲ケラ」を書いてゆきますよ~!

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