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第48話「Wonderwall」

 メテオシャワーフェスが明けて1週間。各種シングルチャートは軒並みでこのような感じになった。



 1位:壱星Feat.リュウヤ&華崎鮎美『CALL NO.114』



 2位:ハンソックFeat.美咲『花鳥風月』



 3位:歌ウ蟲ケラ『ラーメン週16中毒』



「3位かぁ。あれだけツイッターで騒いでもらったのに」

「まさかハンソックに負けてしまうとは」

「申し訳ない感じがするね。めくるさんも新曲をずらして出してくれるらしいし」

「俺は全然悔しくとも何ともないけどな? ユイマールもそうやろ?」

「うん。1番になることが全てじゃないよ。それに3位から1位までみんな同じ会社の同じ仲間でしょ。一緒に喜びあうのが1番なのじゃないかな」

「うまい事言うなぁ。まぁ来週にはコレで話題になって1位獲れるのと違うか?」



 梓はそう言うと、スマホ越しにある動画をみせた。



 ツァーリのノエル・ギャラバンが唯に対し口に含んだ飲み物を吐きかける動画だった――



「私のやった事が不満だった?」

「別に。ただ何があったのか、俺らは知ってもいいと思う」

「私もアズニャンに同意。向こうは勝手にイギリスで騒ぎ立てているし、場合によって私達にいわれのない悪評が叩きつけられるかも」

「私は何が真実でもユイマールについていくよ?」

「ふふふ、そっか、そうだね。話は東京に戻ってからの話になるよ」



 唯は話す。その日あった事を。




 メテオシャワーフェスの翌日、千歳空港から東京国際空港へ歌ウ蟲ケラは移動した。そのままメンバーは自宅を目指したが、唯はそのまま空港にとどまった。



 彼女の情報網を使って、この日ツァーリ一行が日本からイギリスへ帰国する事を把握していた。要人というワケではないが、彼女たちのガードは堅い。そこでメテオシャワーフェスに出演し、彼女達のファンでもあるとイギリスの音楽系のメディアへ働きかけたのである。



 その試みは成功した。それまであまり知られてなかったが、唯は学生時代から語学の勉強を熱心にしていた。それは社会人になっても続けており、ツァーリに興味を持ってからは尚力を入れた。彼女の流暢な英語にイギリスの記者も驚いて反応したという。『これはなんとしてもツァーリに会わせたい』と思わせる程に。



 手筈通り、彼女は空港で指定の場所に向かおうとした。



 しかしそこに立ち塞がる存在がいた。



「ちょっと? あなた、どこに向かおうとしているの?」

「えっ?」

「私には何もばれずに済むと思ったの?」

「社長ですか」



 その道筋を全て知っていたかのように華崎が腕を組んで立っていた。



「あなたがコソコソ動いているのは掌握済みだわ。山里君もあなたたちの援護をいい加減にしている訳ではない。英語でペラペラ電話している事が多かったのだと聞いてまさかと思ったら、そのまさかだったとはね」

「一瞬でも会ってみたいだけです。ダメなのですか?」

「彼女らがどんなグループか知っているのでしょ? まともに応答してくれると思っているの?」

「どんな人でも実際に会ってみないと分からないものでしょ?」

「あのね、フェスは成功したの。そのままあなたたちだって新曲をだす。あれ程あなたたちが日本中に名を轟かせたのは彼女らの失態があったからよ」

「ええ。だから御礼を言わなくちゃ」



 華崎は苦笑いをして溜息をつく。



「御礼を言いたいって顔をしてないわよ?」

「社長はわかってないようだけど、私は何も喧嘩をしに行きたい訳じゃないです。ただツァーリと会ってみたい。それだけですよ?」

「それだけだと不安しかない。どうしてもって言うならば私が同行するわ」

「えぇ~迷惑だなぁ」

「そもそもこの空港で私たちが彼女達を見送る予定をたてていた。それが()()()()()()()もあって、予定を決行する訳にもいかなくなった。中止になったのかと思いきや、会社の所属アーティストが怒りをぶちまけに行ったなんて話になってごらんなさい。それこそ彼女たちのマナーに合わせることになる……」

「そうですか。外交官は大変だなぁ。でも安心してくださいよ。私はただ会いに行くだけ。どうしてもそれを阻止したいのなら、1つ条件をつけましょう」

「何?」

「今回の壱星君とのコラボを機に歌手へ完全復帰して下さい。そうなると貴女は社長ではなくなる。替わりに諸伏さんを社長にして貰いましょう。私達と彼女は貴女以上にマブダチだから、そのときに改めてツァーリと会う事にします」

「あなたねぇ……正気?」

「いつでもマジですが?」

「その心は一体なによ?」

「イチかバチかですよ?」



 華崎はまいったという顏をして「わかったわ。いってらっしゃい」とその道を開けた――




 ツァーリのノエル・ギャラバン、リック・ギャラバン、トディ・ロレンツィ、ラッセル・ベルクマンの4人はノロノロと動いていた。メテオシャワーフェスがあった日、終日渋谷で好き勝手遊び惚けていた事は世の珍ニュースになっていた。顔以外の全身に派手な刺青が目立つノエルは明らかに酔狂がみられて、真面目な格好でおとなしくみえるリックがフラフラする彼女を支えていた。



 そこに唯がやってきた。横にはイギリス人の記者がいる。



 ノエルはその記者を元から毛嫌いしていたところがあった。



 それが理由だったのかどうかは定かでない。



 彼女はコーラを口に含むと「ヘイ!」と挨拶をしてきた唯に向かって勢いよく吹き掛けた。



 その模様は近くにいた記者たちに撮影される。唯はただ呆然としていた一方で、ノエルは腹を抱えて『イエローピッグ! イエロービッチ!』と大笑いする。



 唯はノエルを睨みつけるが、それ以上の事はしなかった。



 ここで手をだせば大事になる。瞬時にそれは分かった。



 ノエルは唯に対して顔面を近づけて挑発をし続けるが『いい加減にしなよ! 姉さん!』とリックに腕を掴まれて離されていった――



 唯と同行したイギリス人記者は唯がプロレスラーの娘だったという経歴をどこからか仕入れていて、その場で乱闘になる事を期待していたようだ。「会わせたい」と熱望したのはそういう背景があるらしい――



 しかしこの出来事は唯が思うよりも大きく話題にされた。イギリスに帰国したノエルは『馬鹿な日本人の女が私らに媚びを売ろうとした!』とすぐさま動画にして騒ぎ立てたのだ。彼女はそもそもメテオシャワーフェスにおける小さなライブ会場での出演に怒りを露わにしていた。来日してからそれが知らされたと本人も動画内で訴え、日本以外のツァーリファンは多くが彼女に同調した。



「フェスの主催者は見送りをする予定だったが、ノエルが不遇を騒いだ事で自社所属のアーティストをそこに向かわせた。なるほどなぁ。ようできたシナリオや」



 梓はスマホをみながらケラケラ笑う。



「笑いごとかよ? 下手したら私ら世界中の笑い者、いや憎まれっ子だぞ?」



 美桜は不安な表情を浮かべる。



「それで? ユイマールはどうするつもりなの? 憎まれっこ世に憚るとはいえ、これは事実とあまりにも違うじゃない?」

「しばらく様子をみるよ。ただ私は会ってみたかっただけだしな」

「そもそも何で会おうとしたんや?」

「会ってみたかった。ただそれだけ」



 唯の言ったそれは一応本音だったらしい。



 しかし本当にそうだったのかどうかは今尚も本人から語られる事はない。



 この話題性があってか、翌週のチャートにて「ラーメン週16中毒」は2位にあがっていた。初登場1位となった綺羅めくるの新曲がリリースされなければ、1位を獲っていたという仮定は何という皮肉になるのだろうか――



∀・)読了ありがとうございます♪♪♪本日はまりんあくあ様と江保場狂壱様とのコラボ作品もあがりました♪♪♪そちらもチェックして貰えると嬉しいです♪♪♪また次号☆☆☆彡

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