第47話「STAND BY ME」
10年ぶりのメテオシャワーフェスで大トリとして復帰した歌ウ蟲ケラ。これまでよりヴィベックスからの出演アーティストは少なくなっていた中でその活躍たるものは同社に活力をもたらしてくれるものだった。
「え~と、フェスの大成功! 大爆発を祝って乾杯!」
唯の乾杯の挨拶に合わせて「カンパーイ!」と会場中が合わせる。
ヴィベックス一同はホテルのホールを貸し切って、打ち上げをおこなった。
華崎は諸伏や斧崎とあっちこっちに移動して歓談の輪を広げている。
意外と歌ウ蟲ケラの面々はそのテーブルを離れずに過ごしていた。
「う~まい! 冷えたビールがうまい!」
「ミオタはおっさんかよ?」
「まぁ若くはないよね? もう私ら30後半だし」
「唯は静かだよね?」
「余韻に浸っている」
「何だよ(笑)カッコつけちゃって(笑)飲め飲め!!!」
「余韻に浸りたいからチビチビ飲むよ」
唯は会場中を見渡した。いまSNSをみればどんな事が言われているのだろうか? 綺羅めくるは美桜に恩義があると言えども、最後のステージを異色のロックバンドに譲ってしまった形になった。きっと世間は賛否に溢れているのだろう。コロナ感染した折に彼女はツイッターもインスタグラムも止めた。それで正解と思ったのは思ったのだが、またふとした事で始めてしまう事はあるのだろうか?
「ちょっと? あなた、何ボーっとしているの?」
「えっ?」
気がつくと頬がピンクに染まっている華崎が話しかけてきた。
「はい! チーズ! イン! ハンバーグ!」
美桜の謎の掛け声で華崎たちとの記念撮影に応じる。
みんなでファイティングポーズをとった。
今はアレコレと考えるべき時じゃないのかもしれない。それでも唯はこれから先の未来をどうしても考えたくて仕方がなかった。
「山里君」
「はい!」
「明後日、本社に来てくれる?」
「えっ?」
「大丈夫。怖がらないの。悪い話なんかしないから」
記念撮影のカメラマンになっている山里は急に華崎から話しかけられた。見た感じは明らかに酔っているのだが、肩をポンポンと叩いて去っていく彼女は別人のような顔を一瞬みせていた――
ヴィベックス一同はフェスの翌日、飛行機にのって東京方面へ。そのまた翌日には会社へ通勤する山里。マネージャーの仕事をしだして数年、彼はこれまでにない経験を積んできた。その中でこれまでにない感情や感動と出会ってもきた。正直このままでいい。このままでいいのだが、彼には何か不安があった。
ラフな格好でいいと言われたが彼は正装で本社に入った。
「偉い。真面目な格好じゃない」
「はい。社長にお呼びされたという事ですから」
本社の社長室。そこには華崎と他に諸伏と斧崎がいる。華崎は椅子に座って、飄々としているが他2人は至って真剣な顔をしている。
手に汗が滲む。どうにも激しくなる心拍数が抑えられそうになかった。
「これまで副専務としてYグループの党首を務めていた山田美桜さんがバンドの活動に専念したいと言ってきたの。今まではアイドルの楽曲提供やプロデュース業に精をだしてきたけども、歌ウ蟲ケラのパフォーマンスをみれば、もう彼女が何をこれからしたいのか分かるわよね?」
「はい。よりそこで活躍したいと思われているのだと思います」
「うん。それで彼女達のマネージャーを務めたこの数年間、あなたは何をみた? それを聞かせてくれるかしら?」
一瞬時が止まった気がした。ここで何を答えたらいいのだろうか? と。
いや、飾らなくていい。思った事をそのまま伝えようと彼は口を開く。
「正真正銘の天才でした。ボーカルの唯さんだけでない。メンバー全員が音楽を楽しもうと全てのアクションに意欲を持っていました。僕はその意気をサポートしようと懸命に色々考えましたが、彼女達の発想はどれもそれを上まわるもので。だけど一緒に動かせて頂くなかで、ファンになれた気がした。そしてそれを体現していたのはかつて彼女達のマネージャーであった諸伏さんだったのだと痛感を致しました。僕はこの音楽の世界で生きていたのではなくて……ずっと生かして貰っていた。その事実です」
「山里君?」
「う……ぐ……うぅ……」
「何で泣いているのよ?」
「僕はまだ彼女達のマネージャーで彼女達を支え続けたい!!」
華崎はハッと驚いた顔をする。しかし穏やかな顏になって微笑む。
「その姿勢のまま、副専務をお願いする事ができる?」
「えっ!?」
「さっき言ったように、山田さんはもう役員職につかないの。弊社に所属されるアーティストの一人なの。だからその空いた席に戻れるか戻れないか聞いているのよ?」
まさに青天の霹靂か――
「私の事をゴミ扱いしたことを忘れてはないけどね。グループ党首のライバルとしてアンタと切磋琢磨したいとは思うよ。少なくとも今のアンタとならばね」
「ウフフ、私ってば昔からアンタのこといけ好かないと思ってやまなかったけど、今の熱い眼差しを持っているアナタのことはちょっとタイプよ? 音楽を愛するライバルとして」
言葉に詰まる。しかし彼は自然と膝をつき、大声で返答した。
「頑張ります!!! お願いします!!!」
ヴィベックスに本当の山里桃太郎が戻ってきた。
「ふぅ、ひとまず一件落着ね。これからまた1つタンコブをおさめなきゃだけど」
華崎は窓に映る流れる雲を薄い眼差しで眺めた――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪最終章に入りました♪♪♪また明日☆☆☆彡




