第39話「ギラギラ」
梓はLUST BULLETSのレーベルに残り、所属アーティストのサポート業務等に徹した。しかし彼はその中で唯一わがままを願った。
「決別した仲じゃないのですか?」
「あぁ一度は。でも今はまた戦友って感じになれまして」
「それで杏里さんとバンドを組みたいと?」
「いや彼女が一人で音楽やる方がいいかと。それを後ろでサポートする感じで」
「なんか奇妙な感じですね。アズさんが言われるなら信用はしたいと思うけど」
「頼みます。俺からはそれだけここでお願いしたい」
器具の手入れをしている夏野が「いいよ。1度ぐらいわがままは聞いてやるよ」とその会話に割りこんできて梓の懇願は通った。
ANRYYYは様々な事が言われつつも、再び音楽のステージに立つ事となる。薬物中毒でその見た目が憐れなほど変わった彼女だったが、日に日に張りのある健康な顏に戻っていく――
軋むベッドの上で優しさを持ちより、彼と彼女は愛を確かめ合った。
しかし確かめあったのはお互いの愛だけでなかった。
「あなた、完全に男じゃないのね……」
「ああ、ごめんな。何も言わなくって」
「ううん、いいの」
「手術、中途半端なところで終わったんや。もっとお金と心に余裕があったら、男になりきれたと思うけど……」
「だから大丈夫だって」
杏里は彼の背中からそっと凹んだ胸に手をまわす。
「私はそれでもあなたを愛したい。あなたに愛されたい」
梓はその時に流した涙が悔し涙だったのか、うれし涙だったのか分からなかった。
ただ悲しい歌に愛がしらけないようにと願うばかりで。
2人はその交際をはじめて1年と少しで入籍をする。お互いの親族へ挨拶にも行ったが、どちらも決してイイ顔をしてくれる事はなかった。本当は挙式を挙げ喜び合う未来を作りたかったが、それも望めそうにない。
だけどお互いが愛し合っている事。それだけをお互いの励みにしていた。
夏野をはじめ、レーベルの仲間全員がそれを認めていた。
そしてちょっとずつだがロック歌手ANRYYYの人気は回復していく。
そして遂にBenzaiのラジオ番組に出演する事が決まった。
しかしその当日に彼女は体調を崩した。
代わりに実質彼女の側近を務める梓が出演する事となった――
『ベンザイロック! 今日のゲストはANRYYYちゃん! の筈だったけど、彼女の体調が悪くなったと言う事で彼女のサポートを務めるアズ君に来て貰っています! アズくん! よろしく!』
『よろしゅうです』
『アズ君はなんとあの歌ウ蟲ケラでベーシストをやっていたとか!?』
『あぁ~懐かしいです。アズニャンって名乗っていましたわ』
『そうそう、その前にANRYYYちゃん率いる緑の妃にも在籍していたと!』
『それも懐かしい。あの頃から変わり者な彼女やったけど、俺ももっと変わり者やったから毎日喧嘩していて。でも俺からみてその時から興味が尽きないコでしたわ』
『おやおや? その言い方は?』
『隠してないから言いますけど、籍は一応入れてですね』
『キャー! スゲェ告白!』
『え? 週刊誌か何かですっぱ抜かれていると思うてた』
『というか一度決別しておいて、何でまた一緒に音楽もして男女の仲になった?』
『あぁ~言葉にするのは難しいんやけど、彼女って女性至上主義者で。俺はその考えが面白いなぁと思っていたけど、自分の性自体が特殊で彼女もそれを面白いと思っていて。でもまさか手術までするなんて思ってなくて。だけど俺はやった。それが引き金になってあの脱退に繋がるのです』
『そうだったのか……それって話しても大丈夫な事なのか?』
『全然平気(笑)昔話やし(笑)』
そこで梓のスマホがバイブレーションで震えだした。
しかめっ面をみせた梓はそのままスマホの電源を切ろうとしたが、ベンザイはニヤリとして『アズくん、電話だね?』と意地悪な感じで尋ねる。
梓は目を丸くした。着信は長いこと連絡を取り合ってない唯からだったから。
『え~と、ユイマールからの電話です。しょうもないことかもしれないけども、もしかして大事な電話かもしれないから番組終わった後で。ツイッターか何かで報告しますと伝えとくなうです』
『あっはっはっは! うまいなぁ!!』
ラジオは無事に終わった。最後は弁財とハグを交わしてスタジオを出る。
「立派になったなぁ。本当の君と出会えて本当に良かった」
そんな事を彼が小声で言ってきたような気がした。
気のせいか? 気のせいでないか?
そんな事はおいといて唯に電話をかける。やはり思っていたとおり大事な連絡であった。勿論彼は即答で答えた。
「期待は薄かったけど、ずっと待っとった。お前がやりたいなら俺もやる」
この時の梓が人生で1番強い自身であったと彼は話す――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪夏野さん&春原さんと弁財さんが再登場の巻でしたが、かなり濃い内容になりましたね(笑)再結成に向けて準備は整いました☆また来週の次号で☆☆☆彡




