第38話「踊」
綺羅めくるの代表曲と題される「うっせぇよ」はリリース当初まぁまぁ話題になる程度だった。配信週間ランキングで初登場9位。それでも本人は満足をしていたと言う。
しかしアニメのPVをだした途端にコレが世間で大ウケをした。テレビで観る本人のイメージと楽曲の歌詞から浮かび上がる人物像がそこでマッチしたのだと多くの音楽評論家が分析する。
そうなれば楽曲を作った美桜にも脚光があたる。
既にジストペリドやGGG等の楽曲提供で成功を納めている彼女であったが、そのキャリアはこれまで以上にあがりそうな雰囲気を持っていた。
「次の曲もだしたい?」
『はい。今まで歌手としての出番がなかった彼女ですから、ここらでパンチ連打といきたいのです。今のアナタとなら「うっせぇよ」だけで終わらないと思って』
「新田さんねぇ、歌を作るのはそう簡単じゃないのよ?」
『わかっています! だけど私はイチかバチかの賭けにでたいのです! それが出来ないなら出来ないでいい! この電話も無かったことにして貰っていい!』
「あなた、何でそんな一生懸命なの?」
『この仕事が大好きだから! 今の彼女が大好きだから!』
その言葉に美桜はハッとさせられた。
しばらく忘れていたその感情。バンに乗って全国を走りまわっていたメジャーデビューしたての歌ウ蟲ケラ。そのとき諸伏含めて仲間だと思って仕方なかったあの迸る想いの結晶。
彼女はそのままLUST BULLETSの夏野に電話をかけた。
「アズを借りたい?」
「うん、もしくは春原さんでもいい。私一人じゃ『うっせぇよ』に続くパンチはだせない」
『まぁ春原に話はできるけど、アズにはアンタから話せばいいだろう? 元々が同じチームメイトなのだから』
「そっか……そうだよね……」
『あぁ~でも、アイツはいま奥さんのフォローで懸命になっているから難しいか』
「奥さん?」
『あ! これは言っちゃいけないヤツだった! ごめん! 今の無かった事で! ああ! 春原には相談しておく! じゃあな!』
美桜はその数日後にLUST BULLETSのレーベルから元緑の妃の杏里ことANRYYYがソロデビューすることを知る。そのすぐ後ろにベースを弾く梓。その映像をみた時になって気づいたという。
「マジか。アズニャンやるじゃん」
メテオシャワーフェスが近づいた折、このタイミングで畳みかけるようにして綺羅めくるの大ヒットシングルを続けたいのはよく分かる。だが「うっせぇよ」の反響は凄まじくてオリコン1位を2カ月に及んで続けているのだ。もうこれで「よくやった」と言って欲しいものなのに。おまけに梓がまさかの幸せを手にし、近づこうにも近づけない状況となった。
『ごめん。色々忙しいみたいだわ。来年のあたまに考えたいって言っていた』
春原からもフラれてしまった。
「それで私に?」
「うん。貴女にとってこれもまたきっとチャンスになるわよ」
「重圧凄そうですけどね……まさにイチかバチかの感じです」
「難しい?」
「いや、私はいつだっておねぇさまの創った歌で歌ってみたいですよ!」
ヴィベックス本社の一室で美桜がプロデュースを手掛ける後輩歌手にお願いをした。
そしてそれは功を為す。
綺羅めくるとミオタニアンそしてメガネアイの3組がヴィベックスのスタジオに集結する。そこで楽曲製作に臨む。
「めくるさんもここは1つ歌を書いてみない?」
「え? 私が?」
「あ~それ! 私も面白いと思います!」
「メロディーはこんな感じだから、これに合わせる感じで」
「でもこの歌ってテーマがありますよね?」
「うん。男を逝かせるってテーマ」
「ちょっと私にはハードルが高いかなぁと」
「じゃあ私が考えてみましょうか?」
「いや、私こそが考えてみたいぞ!」
「何です? 可愛い後輩がせっかくやる気になってるのに」
「そちらこそ先輩に向かって何だっていうのよ? おら?」
「コラボで喧嘩すんじゃねぇよ!!!」
「「はい……すいません……」」
めくるのブチ切れに美桜もアイも慄いて静かにしだした。
結局、めくるはそのキャリアで初めてといっていい歌詞の執筆に挑戦した。
曲の収録後、彼女達は夜の街に繰りだして遊びつくしたという――
一人で都内の自宅に帰る。ふかふかのベッドにダイブして目を閉じる。
ふと涙が零れてしまう自分に気がつく。
ああ、なんて寂しい。ああ、なんて儚い。それが友情なのかと。
翌日の朝、電話の着信で目を覚ます。
「もすもすぅ~誰ですか?」
『私だよ。久しぶりだね?』
それはもう本当に懐かしくて愛おしいと思ってやまない声の持ち主だった。
「電話、待っていたよ」
今日の私は涙もろい。その電話で美桜はそう確信した――
∀・)読了ありがとうございました♪♪♪さてミオタに電話をかけたのはだ~れだ?分かりますよね(笑)ではではまた明日☆☆☆彡




