第36話「ONE LOVE」
それはメテオシャワーフェスが始まる数年前の話になる。当時の音楽シーンはアイドルファンがRiser☆Sへ夢中になっていた一方でロックファンたちはこぞって遅咲きのRYUーSAYを讃え上げていた。双方とも紅白出場を果たし、その人気は遂にどっちが天下を獲るかというネタにすらなった。
この話題を制しようとRiser☆Sの所属事務所は様々な手を打ってきた。メンバーがテレビドラマやバラエティ番組に引っ張りだこになるほど出演させ、そのまま冠番組を持つまでに。そしてCD特典にあるシールを10枚ほど1枚のハガキに添付させ番組に送る。そしてその抽選に当たったファンをその冠番組へ出演させるというものだ。
Riser☆Sのファンはこの話題に盛り上がる一方でアンチやそうでない人たちからは冷ややかな目でみられる事となった。しかしこのファンの熱狂は想像以上に熱くて、周囲の知人を巻き込んでしても当選を目指すものが続出した。
北海道のある女子校ではほとんどがRiser☆Sファンに溢れる中でたった1人でRYUーSAYを熱く応援する女子校生がいた。彼女はアイドルにはあまり興味を持ってないながらも、周りがRiser☆Sにハマっていくのに共感したフリをずっと続けていた。
しかしある日ある時、それを打ち明ける時がくる。彼女は仲良くしている友人グループがRiser☆Sのコンサートにいこうという話を打ちだした。その日、彼女は念願のRYUーSAYのライブを観に行く予定が決まっていた。それ故に仲間たちと同行できないと勇気をだして打ち明けたのだ。その場では快く彼女を慰め許容した仲間達だったが、次の日から次第にはぶるようにった。
ここから先はそこから虐めがあっただとか、その仲間たちと激しい喧嘩をしたとか噂が噂を呼んでいるのだが、彼女はその3日後に交通事故に遭ってその若い命を失った――
その事故は決して自殺なんかではなかった。それなのにテレビのワイドショーや週刊誌はこの事故を変に盛り立てて音楽シーンの歪を指摘しだしたのだ。
その結果、Riser☆Sの冠番組はなくなり、全国ツアーも中断。RYUーSAYに至っては喪に伏すとして全国ツアーそのものを中止した。
その翌週、RYUーSAYのリュウヤは実質RYUーSAYでありながらもソロ名義として「くだらない」という曲をリリースした。皮肉にもこれがオリコン1位となり、Riser☆Sを悪者扱いする輩までネットに溢れたが「そういうお前らこそが1番くだらないのよ!」と彼がSNSに書きこんだ事で事態は収束した。
そのぐらいからその女の子が仲間外れにされた事実がなければ、そもそもその友達グループの話自体なかった事が判明。ただ単に彼女は至極人見知りでおとなしかったRYUーSAYファンの女子高生だったのだ。
あまりにも馬鹿げた悲しい話だ。
その日、彼女の墓前にRYUーSAYのリュウヤが向かっていた。彼がそこに到着した時にはもう既に一人の青年が立っていた。彼はあふれる嗚咽と涙を手で覆うとしていた。
「あの、これを」
リュウヤがハンカチを渡す。彼はそれをクシャクシャにして、クシャクシャになった顔に当てた。
「あの、あなたが悲しむ事はないと思うのですが?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 僕らがしゃしゃりでたせいで彼女に不名誉な死を持たせてしまって! 僕はこんな事になってしまった事が悲しい!!!」
彼の必死な声にリュウヤはもらい泣きしそうになった。
でも堪えた。
「泣かないでくれ。この件は君達こそが被害者だ。俺は可能な限り彼女と君らの味方になりたいと思っているよ」
「リュウヤさん?」
「はじめまして。ロックとアイドルじゃ顔を合わせる事なんてないからな」
「すいません、なんか恥ずかしいなぁ」
「遺族の人とさっき電話で話した。この後、そのお家に向かうけど来る?」
「え? でも、なんか恥ずかしいなぁ」
「来てください! お願いしますよ!」
リュウヤはRiser☆Sの壱星へ力強く頭を下げた。
これには壱星も応えるしかなかった。
彼女の墓から数百キロ離れた所に彼女の家族の住む家がある。母子家庭の娘であったようだ。確かにとても内向的な少女で友達という友達はほぼいない女子であったらしい。絵を描く事が趣味でそのスケッチブックにはリュウヤをはじめ、RYUーSAYの面々が濃いタッチで描かれていた。しかし最後の方ではなんとRiser☆Sの面々のイラストも描かれ始めている。
そして最後のページ。
メンバー全員で手を繋いだRiser☆SとRYUーSAYが可愛いらしい絵となって描き切られていた。
「僕とリュウヤさんが手を繋いでいますね」
「本当だな。奇妙な偶然だ」
「男で2人して女子校生の部屋と日記を覗き見ですか?」
「「えっ!?」」
そこに居合わせたのは亡くなったその女子に興味を持った華崎鮎美であった――
「華崎鮎美が何でここに!?」
「呼び捨て? ロックバンドってやっぱ野蛮ね?」
「そんな言い方はやめてくださいよ! 僕が泣いているときにハンカチを渡してくれる優しさとスマートさがある御方ですから!」
「あら? 可愛らしい面もあるのね? ねぇ? そのスケッチブックにはなにが描かれていたの?」
「ここに我々が来た事を内緒にしてください。それを約束してくれるなら」
「う~ん、初対面でそれをどう約束するかっていうのはちょっと難しいわ」
「じゃあ、みせられないです。でも週刊誌に売ったらタダじゃ済ませませんよ?」
「あらら~私に脅し? 度胸があるコね? ウチにこない?」
「あの、2人とも、場所を変えないか? 仮にもここは彼女の部屋だぞ?」
「じゃあ、近くのマックに寄る?」
「面子的にそれはまずいでしょ?」
結局3人は最寄りのマックでテイクアウトしたモノを山の中腹で頂きながら、夜景を眺めながらで話を重ねる。
「ンン~壮観に美味♡」
「あの華崎さん、率直に思った事を言ってイイですか?」
「はい?」
「結構ババァ臭いですね」
「おい、お前、相手はレコード会社の社長だぞ? 慎め」
「私も気になったことを言っていい?」
「どうぞ」
「貴方たちって昔からの知り合い? 何かすごく親しみ合っているようだけど」
「いや、今日が初対面で。ただ今日起きた出来事が出来事なだけに何か奇妙で」
「運命かしら?」
「いうなれば?」
「ふふっ、じゃあコラボでもする?」
「いや、それは世間がイイふうにみないだろうな。それこそ彼女の死がまた変に利用されて我々の風評にも響く」
「でも、リュウヤさん、あの絵に描かれていたのって……」
「ねぇ? じゃあこういうのはどう? この北海道でアイドルもロックもレゲェも色んなミュージシャンが集うフェスを開くのは?」
「突然何を言い出すのです? 子供じゃあないのだしさ?」
「だからリュウヤさん、あの絵に描かれていたのって……」
「うるさい! 俺だって冷静に務めようとしているのよ!」
「うふふ。いいのよ。何だって。私たち3人がここにこうしていること、彼女がいなかったら叶わなかった事なのかもしれない。私は子供の頃からずっと好きな言葉があるのよ」
「好きな言葉?」
「イチかバチか」
そしてメテオシャワーフェスは開かれた。
「水面下で勝手に動いたのは私。でもこの話をしたのは貴女が初めてよ?」
「…………リュウヤさんと壱星さんは計画に反対されなかったのですか?」
「ええ、意外にも誘ったら来てくれたわ。このフェスで私は未来がみえるかなと思ったの」
「何の未来ですか?」
「私がずっと音楽でやってきたその夢の果て」
「それは見えたのですか?」
「ええ、貴女たちがみせてくれた。イチかバチかの奇跡。山里君はそれに嫉妬し、彼の明るかった筈の未来を壊した。でも貴女たちはまだ壊れてない」
「だから私はもう歌わないって…………」
「貴女が歌うステージに戻るなら私も歌うステージに戻ります」
「!?」
「ふふ、でもそれだけじゃあ、満足してくれないわよね? もしその決意をまた表明してくれるのなら、とっておきのプレゼントをあげる。どう?」
「………………」
唯は2杯目のお茶を飲み乾して5分近く考え込んだ。
「考えておきます。素敵な話を聞かせて頂いてありがとうございました」
そう言ってその部屋を去ろうとした。
「ねぇ! 最後に撫でていったらどう?」
華崎のその言葉に呼び止められた。
ゆっくりとトラを撫でる。
「私はね、音楽がときどき大嫌いになるの。でもね、大好きに戻るのよ。それが私たちの中にある血なのだと貴女は思わない?」
彼女のその言葉はもしかして唯にはいらなかったのかもしれない。充分すぎる時間をここで過ごしたからだ。思えば唯と華崎がゆっくり話したのもこれが実に初めての事であった。
唯は「だからってワケじゃない」と述懐するが。
歌ウ蟲ケラはその翌週にヴィベックス再加入で再結成を発表した――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪
∀・;)いやぁ~長くなっちゃったぁ(笑)(笑)(笑)ただなんか魂が入ってしまったとです(笑)(笑)(笑)えっと、まりんあくあ様の思い描く「メテオシャワーフェス」とは全然違うものになったと思います(笑)でも許してくれい!実質3人で創り上げたそのフェスというのが僕の世界線です。というかこの話、フェスの名前がつくまでに考えていた話でして。そこにまりんあくあ様との出会いがあったから壱星君やリュウヤさんが絡む事となりました。
∀・)ここのくだりに関して語るとキリがないと思うのですが、色々聞いてみたい人は感想欄で何でもご質問ください。答えられるものであれば答えます。さぁ歌ウ蟲ケラ再集結☆また来週☆☆☆彡




